コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 344

新幹線開業

2016年03月26日 09時10分

 ▼本道で官営鉄道の必要が叫ばれていた明治27(1894)年のこと。第4代北海道長官北垣国道と帝大工科大教授田辺朔郎との間で交わされた会話を、作家田村喜子が『北海道浪漫鉄道』(新潮社)で再現していた。北垣の鉄道に懸ける思いを聞いた田辺はこう疑問を投げ掛ける。「一千マイルの鉄道敷設が必要というのに、たった三十五マイルだけの予算を提出するというのは、ずいぶん消極的な話です」

 ▼北垣とて、十分な予算を獲得して一気に事業を進めたかったに違いない。ただ、帝国議会は北海道開拓に鉄道が急務であることを理解できずにいた。北垣は田辺の問いに、こう答える。「三十五マイルはまず手はじめだ。北海道に東西南北の大動脈を通す構想を実現させる突破口といってもいい」。大きなプロジェクトというのは、こうした将来を見通す目と熱意を持った人によって動かされていくものなのだろう。きょうまた一つ新たな突破口が開かれた。北海道新幹線開業である。

 ▼沿線各地はじめ本道は歓迎ムード一色だ。とはいえ無駄遣い、経済効果は薄い、といった批判があるのも事実。それなりに理はあろう。頭から否定するのでなく、成長の糧とできればいい。しかしきょうのところは遊び心も交え、アポロ11号で人類初めて月に降り立ったアームストロング船長の言葉をもじり、北垣長官に連なる道民の喜びを述べておこう。「これは一本の路線としては短い区間だが、北海道にとっては飛躍への第一歩である」。舞台の幕はようやく、開いたばかりだ。


ベルギーテロ

2016年03月25日 09時36分

 ▼「祖国を救うために命を捨てる覚悟をした」人は強力だ。「われわれの救済はほんの狭い一角からでもスタートしうる」(『インタビューズ』文藝春秋)。誰の発言かお分かりになるだろうか。実はアドルフ・ヒトラーが1932年、取材に対し語った言葉である。最近であれば、過激派組織「イスラム国(IS)」が出した声明だとしても違和感がない。独裁者とテロリストには通じるものがあるらしい。

 ▼ベルギーの首都ブリュッセルの空港と地下鉄駅で22日発生した同時テロは、ISが関与した自爆テロだったようだ。犯行声明が出た。昨年11月にあったパリ同時多発テロの記憶もまだ生々しいというのに、再び欧州で大規模なテロが起きてしまった。少なくとも死者30人以上、負傷者も200人を超えるという。日本人も2人重軽傷を負った。空港も地下鉄駅も多くの人が集まる場所である。罪もない人を残忍に殺傷する所業は、大義の実現とは名ばかりの卑劣な犯罪というほかない。

 ▼5月には伊勢志摩サミットがある。欧州で勢いづくテロを日本に持ち込ませるわけにはいかない。安倍晋三首相は今回の事件を受け、「警戒警備の徹底」を指示したそうだ。万全を尽くしてもらいたい。一方、歴史人口学者エマニュエル・トッドは『シャルリとは誰か?』(文春新書)で欧州のテロは移民の問題でなく、「受け入れ社会の側の失敗」と指摘している。差別や格差を利用して人心を操るのは、独裁者やテロリストの得意技だ。日本社会は融和の精神も忘れてはなるまい。


原因は大人に

2016年03月24日 09時36分

 ▼精神科の診療に連れてこられた子どもを、「見なし患者」と呼ぶことがあるそうだ。米国の心理療法医M・スコット・ペックの『平気でうそをつく人たち』(草思社)に教えられた。病気の原因が子ども自身にではなく、子どもを患者と見なし、そう「ラベル」を貼った両親や家族、学校、社会の方にある場合が多いからだという。患者として本当に治療が必要なのは、子どもでなく周りの大人たちらしい。

 ▼親の虐待から逃れようと、自ら相模原市児童相談所に保護を求めていた中学2年の男子生徒が訴えを見送られ続け、ついには自殺した事件の報に触れ、この著書を思い出した。男子生徒は虐待に耐えかね、家から飛び出したことが何度もあったそうだ。悲痛な思いはどこにも届かず、とうとう行き場を失ってしまったのだろう。2014年11月に自殺を図り、意識不明の状態になっていたが、先月の末に亡くなったそうだ。どれだけ悩んだことだろうか。その心中を思うと胸が詰まる。

 ▼関係者の発言をニュースで見た。同児童相談所の所長は22日の記者会見で、対応に間違いはなかったと繰り返した。両親はインタビューに答えて、しつけのつもりだったと語っていた。学校も警察も事態を把握していた。なのに、誰も男子生徒を救わなかった。この周りの大人たちの、責任感の希薄さはどうしたことだろう。問題を解決したいのでなく、目の前の問題を無くしたいだけだったのでないか。男子生徒の自殺の原因は、病んだ大人たちの中にあったといわれても仕方ない。


世界幸福度

2016年03月23日 10時27分

 ▼あなたが幸福を感じるのはどんなときですかと問われて、おいしい物を食べているときという人もいれば、家族と共に過ごしているときと答える人もいよう。アンパンマンの作者やなせたかしは『人生、90歳からおもしろい!』(新潮文庫)に、大手術を切り抜けた後、再び朝から晩まで仕事をしている自分に気付き、「これがつまり幸福な人生だ」と記している。幸福をどう捉えるかは人それぞれだろう。

 ▼これが国別の幸福度となると、人それぞれだから、で済ますわけにいかない。国連が毎年まとめている世界幸福度ランキングは、1人当たり国民総生産や健康寿命、社会的支援、自由、寛容さなどを指標にしているそうだ。その2016年版が先週発表になった。それによると、対象157カ国中、1位がデンマーク、2位がスイス、3位がアイスランドと、上位5位までを欧州勢が占めた。日本は53位。ちなみにご近所の国はといえば台湾35位、韓国58位、中国83位といったところ。

 ▼日本の順位が低いことに、驚く人もいるに違いない。経済的には決して豊かでないグアテマラが39位、ウズベキスタンが49位と聞けばなおさらである。実はこれ、日本人が傾向として、毎日を幸福と感じて暮らしていないことに原因があるらしい。経済指標は高くとも、彼の国の人ほど人生を満喫するには至っていないということ。国民性もあろう。ただ、最近の日本は、政治、経済、社会、どこを見てもぎすぎすしていて、幸福の方も居場所を見つけるのに難儀しているのでないか。


春分

2016年03月19日 08時50分

 ▼今週の本道は暖かい日が続いた。歩道の雪は日ごとに減り、アスファルトがすっかり出てしまったところも多いようだ。聞くと4月中旬頃の気温だったとか。足元の不安なく歩けるようになるのはうれしい。そうこうしているうち、あす20日にはもう二十四節気の春分を迎える。「日も真上春分の日をよろこべば」(林翔)。この日を境に昼の時間が長くなると思うと、気持ちまで明るくなるから不思議だ。

 ▼陽気が良くなってくると、にわかに桜のことが気になりだす。世間にはそんな人が多いのでないか。もっとも、気になっているのは桜というより花見酒、なのかもしれないが。日本気象協会によると、ことしの開花は平年より2日から5日早いそうだ。先陣を切るのは愛知県名古屋市と愛媛県宇和島市で、20日を予想している。本道への桜上陸はだいぶ先で、函館が4月27日、札幌が5月2日、稚内が同12日、釧路が同15日だそう。ただ樹木に雪の花の咲く日はそろそろ終わりである。

 ▼陽気は良くなってきたが、景気の方は今一つぱっとしない。それを反映してか2016年の春闘も、ベースアップは実施するもののその水準はおおむね低調だったようだ。北風が少し弱まったという程度か。来年4月からの消費税10%も最近は先送り論が目立つ。安倍首相はリーマンショック級の世界経済収縮があれば見直すとの方針を崩していないが、さてどうなるのか。経済には目に見える春分はないが、知りたいものだ。これから世界経済は昼が伸びてくるのか、夜が続くのか。


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