コラム「透視図」

忘年会

2019年12月13日 09時00分

 武士でありながら本職並みの才ありと認められていた江戸中期の文人画家柳沢淇園は若いころ、毎日のように自邸に客を招き宴を催していたそうだ。だからだろう。後年出た随筆に酒の効用を説くこんな「飲酒の十徳」を書き残している

 ▼「礼を正し、労をいとひ、憂ひを忘れ、鬱をひらき、気を巡らし、病をさけ、毒を解し、人と親しみ、縁を結び、人寿を延ぶ」。いかにも酒好きが言いそうなことばかりでないか。12月も半ばにきて、忘年会たけなわである。いわゆる〝花金〟のきょうあたりは「飲酒の十徳」を胸に、多くの人が飲み屋街へ繰り出すに違いない。気心の知れた仲間と膝と膝とを突き合わせ、酒の力も借りて一年の疲れを吹き飛ばす。「脈絡のなき話ばかりや忘年会」松田みち枝。そうそう、この期に及んで肩の凝る話は無粋である

 ▼ところで最近は「忘年会スルー」という言葉があるらしい。この前、NHKの夜のニュースで紹介していた。職場の忘年会に参加しないことをそういうのだとか。昭和を引きずるおじさん連中は何かといえば集まって飲みたがるが、近頃の若者の考えは違う。お金を払ってまで、上の者から「助言」という名の自慢や武勇伝を聞かされる会には出たくないのである

 ▼出席したが最後、憂いは増し、気がふさぎ、縁を切りたくなり、寿命も縮む、というのでは「飲酒の十徳」ならぬ十酷だろう。スルーしたくなるのも分かる。とはいえ時には上下の垣根を払って普段できない話をし、親睦を深めるのもいいものだ。若者の自慢や武勇伝を引き出せるともっといい。


コント国会

2019年12月12日 09時00分

 お笑いトリオ「ジャングルポケット」に定番のコントがある。場面は変わっても基本構成は同じ。学校が舞台だとこんな具合だ

 ▼いつも100点の生徒が95点を取ってしまい成績不振だと悩んでいる。そこに別の生徒が現れ、「俺は今回28点で前回の倍。学力の伸びがすごいだろう」と自慢。さらに教師も出てきて95点の生徒をたしなめ、28点の生徒をべた褒めする。先の生徒は悔しさに奮起しやる気を取り戻すのだ。実は教師が伸び悩んでいる優秀な生徒を心配し、成績の悪い生徒に謝礼を払って一芝居打ってもらった、というのがオチ。たぶん聞いただけではクスリともしなかろうが、見ると大いに笑える。9日に臨時国会が終了したとの報に触れ、そのコントを思い出した

 ▼今回は政府が「桜を見る会」で失態を演じて野党のやる気に火を付け、国民に対しアピールできる見せ場を用意してあげたようなもの。その謝礼だろう。政府が新たに提出した法案と条約のほとんどはもめることなく成立、承認された。表では与野党が鋭く対立しているように見えて、裏では国対(国会対策委員会)で全て話が出来上がっている。存在感を示せた野党と国会を無事乗り切った政府・与党の表情が共に満足げなのを眺めると、そう考えざるを得ない

 ▼法案審議がおろそかになり、日本にとって大事な問題も議論に上らないとすれば国会にどんな意義があるのか。先のコントでは最後に謝礼を受け取った生徒が「楽な仕事じゃないよ」と叫んで去っていく。きっとそうだろう。ただ国会議員の方は随分楽な仕事のようだ。


吉野彰さんノーベル賞授賞式

2019年12月11日 09時00分

 ことしのノーベル化学賞に輝いた吉野彰旭化成名誉フェローの授賞式がきょう未明、ストックホルムで開かれた。皆さんが新聞を読むころには式後の晩さん会も終わり、吉野さんもやっと一息ついていよう。この最後の行事まで、受賞者には分刻みの日程が用意されていると聞く

 ▼吉野さんはうれしくも忙しく、緊張する場面も多いため大変だろうが、多くの日本人にとってはとても誇らしいノーベルウィークである。8日の記念講演も印象的な内容だった。リチウムイオン電池とAI(人工知能)、EV(電気自動車)、インターネットが組み合わさると、想像を超える社会進化がもたらされると語ったのだ。IT革命ならぬ「ET(エネルギー・テクノロジー)革命」の提唱である

 ▼それが実現した暁には、現在は並び立たない経済と環境、利便性を高度に調和させることができ、持続可能な社会が訪れるという。その上で自身が開発したリチウムイオン電池は、その革命の中心的役割を果たせると胸を張った。持続可能といえば今、スペインで国連気候変動枠組み条約締約国会議が開かれている。国際環境NGOはこれに合わせ石炭火力発電の削減に不熱心との理由で日本に「化石賞」を与えたそうだ。話題の活動家グレタさんもやはり先進国に厳しい発言を繰り返している

 ▼まあ批判は自由だし必要な面もあろう。ただ、地道な研究を40年黙々と続け、持続可能な社会の実現に直接貢献する技術を開発した吉野さんのような人がいてこそ世界は変わる。口先一つで変えられることなどそれほど多くはない。


岐阜のいじめ自殺

2019年12月10日 09時00分

 漫画家の西原理恵子さんが朝日新聞の長期特集企画〝いじめられている君へ〟に寄稿した一文を久々に思い出した。タイトルは「上手にうそをついて」(2012年)

 ▼西原さんはこんなことを語っていた。「亡くなった夫は、戦場カメラマンでした。戦場で銃を突きつけられたことが何度もあったけど、一番怖かったのは、少年兵だって」。物事の重大さが分からないため人を殺すことにためらいがないのだという。この事件の加害少年たちも自分の行為の残酷さに無自覚なまま、いじめをエスカレートさせていったのでないか。岐阜市で7月、いじめを苦に自殺した中3の男子生徒は、その前日にトイレの和式便器に頭を突っ込んだ形で土下座させられていたそうだ。市の第三者委員会が先週、明らかにした

 ▼亡くなった生徒は際限のないいじめでぎりぎりの状態にあったとき、土下座によって人間としての尊厳を決定的に傷つけられ、心の糸が切れてしまったらしい。加害者は同じ組の3人ほどの男子だった。このところ中高生の自殺が増えている。文部科学省によると18年は中学生が08年比2・8倍の100人、高校生が2・3倍の227人だ。状況別でいじめに分類される例は少ないが、原因不明が6割あるのを見れば水面下に隠れている例も多いと考えざるを得ない

 ▼西原さんはさらにこう続けていた。「この国は形を変えた戦場なんです」。追い詰められ絶望して、自らこの戦場で命を断つ子どもが増えていいはずがない。子ども同士で解決できることには限界があろう。大人が最前線に立たねば。


リクナビに価値あり?

2019年12月07日 09時00分

 常に他の人より先に価値あるものを見つけられたら、商売で大成功間違いなしなのに―。誰もが願うそんな夢をショートショートの名手星新一さんは、風刺を効かせてこんな一編に仕上げた。「価値検査器」という話である

 ▼エヌ氏が老博士から形見として小型の懐中時計をもらう。実はそれが万能価値検査器だった。物でも人でも器具を押し付けるだけ。針が右に振れると価値あり、左なら価値なしと即座に分かる。それからというもの、エヌ氏の人生はまさに順風満帆。店を開くときには優秀な従業員を採用でき、商品の仕入れも失敗知らずなのだから当然だ。業績はうなぎ上りである。私的にも結婚に当たり最高の伴侶を選ぶことができた

 ▼企業も現実にそんな便利な万能価値検査器があれば、喉から手が出るほど欲しいだろう。AI(人工知能)でそれに類するものを用意し、〝これをどうぞ〟と裏から企業に差し出したのが就職情報サイト「リクナビ」を運営する「リクルートキャリア」(東京)である。独自のアルゴリズムで就職活動生の内定辞退率を算出し、データをこっそり企業に売っていたのだ。採用の歩留まりを良くしたい企業にとっては価値のある資料だろう

 ▼ただ、個人情報を勝手にいじられ、企業に渡された就活生にしてみればたまったものではない。政府の個人情報保護委員会は4日、同社に2度目の改善勧告をし、データを購入した37社を行政指導。うち34社の名前も公表した。エヌ氏は最後に、自分に価値があったわけではなかったことに気付かされたが、さてリクルートは…。


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