コラム「透視図」

自転車で1200㌔

2020年05月28日 09時00分

 面白いニュースを目にした。26日付読売新聞の国際面に載っていた記事である。舞台はインド。15歳の少女がけがをして歩けない父親を自転車に乗せ、1200㌔を走破したのだという

 ▼経緯はこうだ。父親は出稼ぎ中にけがをし、折あしく発生した新型コロナで職も失った。看病していた少女が家に連れ帰ろうとしたが全土封鎖で交通機関は動いていない。そこで父親を後ろに乗せ、故郷まで走ったというのである。1200㌔といえば、札幌から東京を経て大阪へ行くくらいの距離である。話はさらに続く。現地メディアが一斉にこの美談を伝えると、インド自転車連盟が彼女の力を絶賛。代表選手を育てる養成施設に入るよう勧めているのだとか

 ▼新型コロナがきっかけでアスリートになる未来が開けたわけだ。とはいえこんな例はごくまれ。日本でも多くの若者は逆に将来につながる道を狭められている。夏の甲子園、全国高校野球選手権大会中止はその典型だろう。ここでの活躍がプロ入りの近道だった。もちろん球団のスカウトはもっと早くから実力のある選手に注目していよう。ただ甲子園では時に思わぬスターが出現する。その機会が奪われたのは残念だ。野球に限った話ではない。学校部活動の集大成となるインターハイも同じである

 ▼スポーツ庁がそうした全国大会を代替する地方大会の開催に、1大会当たり最大1000万円を補助する方針を固めたそうだ。あのインドの少女のように、卒業を控えた選手たちの未来につながる、チャンスあふれる大会ができるだけたくさん開けるといい。


テレビとSNSの罪

2020年05月27日 09時00分

 作詞家の阿久悠さんが自著『ただ時の過ぎゆかぬように 僕のニュース詩』(岩波書店)でテレビの罪に触れていた。「ほんとうにやっかいなんです、テレビという存在は」と阿久さんは嘆く

 ▼最も懸念されるのは距離感をおかしくしてしまうことだという。指摘の中身はこうだ。「すべてが二メートルの距離で対面暗示をかけられるわけで、心と心の距離感もうまくとれなくなる。思考が単純になり底が浅くなる」。この本は2003年の発行だが、現代はツイッターなどSNSの発達で問題がさらに深刻化している。テレビを見て出演者に悪感情を抱いた者が顔も名前も隠したまま、SNSを通してその出演者に悪口雑言、誹謗中傷の限りを尽くすことができるのである

 ▼シェアハウス内で暮らす男女6人の姿を生々しく見せるネットフリックスの番組『テラスハウス』(フジテレビ)に出演していた木村花さんが先週亡くなった。自殺とみられるそうだ。自身のSNSに非難の書き込みが殺到していたらしい。木村さんは女子プロレスラーで、ヒール(悪役)のため番組でもそうした性格設定をしていたようだ。それを現実と思い込んだ視聴者が怒りを募らせ、多くの人が同調、便乗して集中砲火を浴びせた

 ▼まだ22歳である。心が折れたに違いない。周りと深い絆で結ばれていた人ほど孤立したときの絶望は深いという。阿久さんはテレビにもこんな注意書きが必要と記していた。「人格を狂わすことがありますので、見方には気をつけてください」。木村さんを死に追いやった人々は肝に銘じるべきだ。


希望と勇気

2020年05月26日 09時00分

 本を読んでいて自分の気持ちにぴったりくる一文に出会ったときはうれしいものである。詩集『あなたにあいたくて生まれてきた詩』(宗左近選、新潮文庫)を眺めていて、ちょうどそんな作品を見つけた

 ▼小説家玉代勢章氏の「希望・勇気」である。とても短いので全文を紹介したい。「きみは/きみ自身のために/希望である/勇気である/だから/ぼくも/希望であることができる/勇気であることができる」。自身のための希望と勇気をよそで探す必要はない。皆自分で携えているということだろう。「きみ」と「ぼく」に限らず、それを互いに認め合っている関係は強い。日本が強制的な都市封鎖をせず、これほど早く成果を上げられたのもその強さがあったからでないか

 ▼47都道府県のうち最後まで残されていた首都圏の1都3県と北海道の緊急事態宣言がきのう解除され、新型コロナウイルス収束に向けた戦いは大きな転換点を迎えた。満足な武器もないまま、見えぬ敵を相手によく頑張ったものだ。欧米からは人口の多い日本で、死亡者を820人程度に押さえ込めているのは奇跡との声も聞かれる。自画自賛は控えるが、日本人一人一人が希望を失うことなく不便に耐え、勇気を出してウイルスに立ち向かった結果に違いない

 ▼もちろん道半ばではある。まだ気は抜けない。特に本道は病院や高齢者施設での集団感染が止まらず、厳しい状況が続く。とはいえ局面は暮らしや経済を犠牲にしてウイルスをねじ伏せるところから、経済を回し日常を取り戻す段階に入った。もうひと頑張りである。


コロナ後のインバウンド

2020年05月25日 09時00分

 ある物で痛い目に遭うと、次からはそれを見るだけで怖くなる。一種のトラウマだろう。落語「芝浜」はそんな人間心理の機微を描いて面白い▼人はいいが酒を飲んでは仕事をさぼる魚屋の金さんがある日、道で50両を拾った。気が大きくなり大酒を飲むが、朝起きて妻に50両のことを尋ねるとそれは夢だという。ばかな夢を見たと反省した金さんは酒を一切やめ真面目に働くようになり、3年たつと一財産もできた。妻が告白する。50両は夢でない。あなたに一生懸命働いてほしくてうそをついたと。久々に酒を用意した妻に金さんが言う。「やめとこう。また夢になるといけない」。この新型コロナウイルスが下火になると、似たようなことを言う人が出てくるかもしれない。「外国人観光客を受け入れるのはやめとこう」

 ▼少し前まで、日本は空前のインバウンド景気に酔いしれていた。ところがこうして外国人観光客需要が一気に失われてみると、それに頼り切っていた実態が浮かび上がってきたのである。政府観光局は先週、4月の訪日外国人旅行者数が前年同月比99.9%減の2900人にとどまったと発表した。コロナが収束しても客足はすぐには戻るまい。観光を基幹産業とする本道にとってはかなりの打撃である。観光産業の裾野は広いのだ

 ▼割り切れぬ思いもあろうが、トラウマを乗り越えて外国人観光客誘致の旗は掲げ続けるべきだろう。需要の急激な変化に対応できる態勢を整えつつ、安全な日本に健康な人々を呼び込む方策を考えた方がいい。夢ならもっといい夢をみたいではないか。


なれ合いの構図

2020年05月22日 09時00分

 元厚生労働事務次官の村木厚子さんについて以前、当欄で触れた。11年前、大阪地検特捜部に冤罪(えんざい)で逮捕、起訴され、拘置所に半年近く拘留されたものの、後の裁判で自身の身の潔白を証明した人である

 ▼当時、「検察関係者」が非公式に漏らす捜査情報や証拠を、マスコミが盛んに報道していたのを覚えている人も多かろう。検察とマスコミが一体となって村木さん有罪の世論をつくっていたのである。今国会での成立が見送られた検察庁法改正を含む国家公務員法の改正問題で、マスコミが検察の独立性にばかり焦点を当て、暴走にはさほど懸念を示さないのを不思議に思っていたが、こんな事情もあったのか

 ▼東京高検の黒川弘務検事長とマスコミ各社の記者らが、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が出されているさなか、賭けマージャンに興じていたそうだ。「週刊文春WEB」がおととい報じた。法務省の聞き取り調査に対し、黒川検事長も事実だと認めているという。文春によると当日、卓を囲んだのは産経新聞記者と朝日新聞元検察担当記者だったそう。黒川氏と特定の社に限った話ではあるまい。情報がほしいマスコミと利用したい検察のなれ合いの構図だろう

 ▼検察が社会正義の実現に本気で取り組んでいることに疑問を挟む気はない。ただ正義はときに暴走する。村木さんの事件では証拠偽造や脅迫的取り調べまであった。国家権力を行使する組織である。独立性も大事だが、同時に監視や抑制を受ける仕組みも必要だ。マスコミにはできない仕事である。


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