コラム「透視図」

感染が重大局面に

2020年03月27日 09時00分

 子どもの将来なりたい職業ランキングで必ず上位に入るパイロットは華やかな半面、想像以上に難しく責任の重い仕事らしい。旅客機パイロット早川秀昭さんの話をNHK『プロフェッショナル仕事の流儀 運命を変えた33の言葉』(2013年)で読んだ

 ▼めまぐるしく変わる気象状況や機体のコンディション、空港や他機の動きを休むことなく把握し、常に正しい判断を下しながら操縦せねばならないのだという。新型コロナウイルスとの戦いで最前線に立つ政府や感染症対策専門家会議、医療関係者にも今はパイロット並みの重圧がのしかかっているに違いない。感染を巡る状況が上空の気流のように日々ころころと変化し続けているためである

 ▼本道での感染多発がやや下火になったかと思えば次は阪神地区に。そして現在は東京へと中心を移している。対策も手洗いとマスクの励行から外出やイベントの自粛、学校の休業、果てはロックアウト(都市閉鎖)まで。しかも道を誤れば感染は一気に爆発する。瀬戸際に立つ東京では小池百合子都知事が都民らに今週末は不要不急の外出を控えるよう求めた。政府はきのう、先に成立した特別措置法に基づく「政府対策本部」を設置。安倍首相が「緊急事態宣言」を出せるようにした

 ▼大きな嵐が刻一刻と迫っているようだ。さて、ある程度ウイルスを押さえ込んできた旅客機日本はこの嵐を避けられるのか。パイロットだけに責任を押し付けるわけにはいくまい。乗組員たる国民もここで気を抜くことなく、プロフェッショナルの操縦に協力していきたい。


トヨタとNTTが提携

2020年03月26日 09時00分

 英文学者の外山滋比古さんが著書『知的創造のヒント』(ちくま学芸文庫)で、補色の面白さに触れていた。違う色の絵の具を、混ぜるのでなく隣り合わせに並べると、眺めて見たときにそれぞれの色が持っていないような輝きが出るというのである

 ▼例えば「緑色と紫色をパレットの上で混合すれば、にぶい灰色になるが、点描によって並置すると輝いた真珠色に見える」そうだ。組み合わせの妙というものだろう。こちらも今まで見たことのない輝きを放つことになるのだろうか。全く違う色を持つトヨタ自動車とNTTが24日、資本・業務提携を結ぶと発表した。互いに2000億円を出資し、高速大容量通信を基盤に自動運転やエネルギー最適化を実現する最先端の「スマートシティー」構想を進めるという

 ▼トヨタは既に静岡県裾野市で、ICT端末となる「コネクティッドカー」を核にした未来都市建設計画を打ち出している。ここにNTTの情報技術を実装し、街づくりのノウハウを蓄積するらしい。全ての人と車と家をインターネットでつなげて調整するため交通事故や渋滞は起こらず、二酸化炭素の排出もない。国際標準のシステム構築に向け、世界が今最もしのぎを削っている分野の一つである

 ▼日本のトップ企業2社が組むことで、この分野でも一歩先を行く巨大IT4社「GAFA」に対抗できる形が整う。ただ、最先端の街には新しいインフラがいる。さらに多くの企業の参画が必要となろう。違う色を持った企業が一つのキャンバスに並ぶ点描画がどんな絵になるか、楽しみである。


株を守る

2020年03月25日 09時00分

 めったに起こらない幸運に頼って暮らすことほどばかばかしいことはない。それを教える中国の故事「株を守る」を知らない人はいないだろう。こんな話である

 ▼宋国に田を耕して生計を立てている男がいた。ある日、畑の中の切り株にウサギがぶつかり、首の骨を折って死んだ。これはうまい具合だとその日から男は働くのをやめ、楽してウサギが手に入るのを願いながら日々株を眺めて過ごすようになるのである。現実にそんな人がいるわけない、と思いがちだが案外そうでもないらしい。一部野党が国会でまた森友学園問題を持ち出しているのである。3年余り安倍首相を追及し続け、首相関与の事実は出てこなかったものの一定のイメージダウンには成功したため、あのウサギよもう一度といったところだろう

 ▼土地取引に絡む文書の改ざんに携わった近畿財務局職員の手記が公表されたのを受け、政府に再調査を要求したのだ。手記には秘密の暴露のような目新しい事実がなかったにもかかわらずである。首相主催の「桜を見る会」で政権が小揺るぎもしなかったのも腹に据えかねていたに違いない。ただ、野党はウサギがつまずくのを座して待つだけの敵失頼みから、そろそろ脱却した方がいい

 ▼今は新型コロナウイルスによる景気悪化や生活困窮、弱者へのしわ寄せなど政治が取り組まねばならない仕事が山ほどある。逆に考えれば政府をただしつつ、野党の見識を国民に知らしめる絶好の機会でないか。この期に及んで選ぶ国会戦術が「株を守る」では、宋国の男同様、世間から笑われるだけだ。


どうなる東京五輪

2020年03月24日 09時00分

 関東大震災では推定マグニチュード7・9の巨大地震が首都圏を直撃した。1923年のことである。建物はことごとく崩壊し、一面焼け野原と化した。全壊や全焼、流出した家屋は29万棟、死者は10万人を超えたという

 ▼当時の映像を見ると本当に想像を絶する。ところが日本はどん底から驚異の復興を遂げる。1940年に東京で開かれるはずだったオリンピックには、その姿を世界に広める目的もあったらしい。ご存じの通り日中戦争の勃発により日本は開催地を返上する。間もなく第2次世界大戦が始まったためこの40年と44年のロンドンは中止になった。奇妙な巡り合わせだが、東日本大震災から復興しつつある日本を国際社会にアピールする狙いがあったことしの東京五輪にも暗雲が垂れ込めている

 ▼新型コロナウイルスの世界的感染拡大で、7月の開催が危ぶまれているのだ。列強が足並みをそろえて日本に圧力を加えた戦前のABCD包囲網ではないが、見直しの動きは日ごとに強まってきている。各国の対策が正面撃破から感染ピークを抑えて集団免疫を獲得する長期戦に変わってきた以上、4カ月後に終息しているとは考えにくい。アスリートも練習や調整には苦労していると聞く

 ▼事ここに至っては仕方がなかったのだろう。安倍首相はきのうの参院予算委員会で「国際オリンピック委員会の決定は尊重する」と延期を容認する考えを示した。〝平和な社会を推進する〟五輪精神を実現するには、まずコロナからの復興を成し遂げることである。その先頭にホスト国の日本が立てるといい。


かっこいい

2020年03月23日 09時00分

 春分の日が過ぎ3月も下旬に入った。新型コロナウイルス騒動で気もそぞろになっている間も、月日は確実に巡っていたようだ。来週からは新年度が始まる。新人を迎え入れる職場も多いのでないか

 ▼「初仕事コンクリートを叩き割り」辻田克巳。「初仕事」は新年の仕事始めのことで冬の季語だが、この句は古い殻を破り新たな環境に飛び込む新人の決意を表しているようにも読める。今はさぞ気合が入っていよう。仕事について記憶に残っている話がある。成人式でのことだ。一人の若者がクロネコヤマトの仕事着のまま会場に入ってきた。受付の人が聞くと、「休むとお客さんに荷物を届けられなくなるから仕事の合間に立ち寄った」とのこと

 ▼式典が終わると急いで立ち去ろうとする若者に、受付の人はこれから記念写真の撮影があると伝えた。すると若者は「こんな格好だから…」と辞退しようとしたという。受付の人はすかさずこう言ったそうだ。「何言ってるのよ!あなたが一番かっこいいですよ」。宮崎中央新聞社の水谷もりひと編集長が著書『日本一心を揺るがす新聞の社説2』(ごま書房新社)で紹介していた逸話である。仕事に誇りと責任を持つ若者も立派だが、それに気付き声を大にして「かっこいい」と伝えた受付の人も実に素敵だ

 ▼建設現場なら作業服、事務や営業ならスーツ、介護ならジャージと仕事着にもいろいろある。新人たちもこの春から、そのどれかで身を包むことになるのだろう。それがどんな格好であれ、誇りを持って一生懸命働いている姿は間違いなくかっこいい。


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