コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 355

聞く力

2016年01月07日 08時56分

 ▼テレビでよくお見掛けするタレントの阿川佐和子さんは、対談の名手でもある。週刊文春の連載「この人に会いたい」を読んでいて気付くのは、自然なやりとりの中から相手の本音を引き出すのが実にうまいということだ。ところが、インタビューは長らく大の苦手だったという。それも「いやだ、いやだ、あーいやだ」(『聞く力』文春新書)というくらいだから重症だ。克服の鍵は会話にあったらしい。

 ▼仕事を続けているうち、インタビューは人と人とが質問し合って交流する会話と同じ、と悟ったそうだ。それからは自分に知識がない分野の人が相手でも、気後れせずに話が聞けたという。会話つまり対話だが、英文学者の外山滋比古さんも『思考の整理学』(ちくま文庫)にこんなことを書いている。知的創造のためには「めいめい違ったことをしているものが思ったことをなんでも話し合うのがいい」。阿川さんも外山さんも、優れた仕事の裏には対話があったということだろう。

 ▼最近は日本でも世界でも、対話ではなく対立ばかりが目に付く。昨年日本で大きな議論を呼んだ安全保障関連法制。賛成派と反対派はそれぞれ自説を述べ立て、非難合戦を繰り広げた。世界では文明の衝突と称し、イスラムと西欧をことさら分断しようとの動きが目立つ。はて世の中に色は白と黒しかなかったのかと絵の具を確認したくなる。対立の行き着く先はしょせん暴力か武力。それを望む者はいないだろう。合意や平和のため役立つのが対話だ。必要なのは「聞く力」である。


寒の入

2016年01月06日 09時49分

 ▼外を歩いていると、冷たい空気が容赦なく肌を刺す。そんな時候である。道内では真冬日を観測することも増えてきたようだ。きょう6日は寒の入。旧暦二十四節気の小寒である。寒さはこれからが本番だ。「うしろから寒が入る也壁の穴」(小林一茶)。今どき家の壁に穴があることなどほとんどないが、扉や窓は開けないわけにいかぬ。隙間から忍び込む冷気に身を震わされるのは今も昔も変わらない。

 ▼寒の行事といえば寒中水泳や寒稽古がすぐ思い浮かぶ。滝に打たれる寒垢離(ごり)もこの時期の風物詩だろう。厳寒の季節に心身を鍛錬しようとするものだが、見ているだけで凍えそうである。なまくらなわが身に冷水を浴びせるのは温泉の後くらいなものだ。さて、こちらも鍛錬が目的ではなかろうが、第190回通常国会が寒の入りとほぼ時を同じくして始まった。昨秋臨時国会を見送ったため異例の早期開会となったものだ。冒頭1カ月はさしずめ寒中国会とでもいえようか。

 ▼4日には安倍首相の外交報告と麻生財務相の財政演説があった。予算案を審議し、延長がなくても6月1日までの長丁場。会期末直前には伊勢志摩サミット、直後にも参院選が控える。しかも消費税10%引き上げ時の軽減税率やTPP対策といった懸案もめじろ押しだ。きょうから代表質問に入り、論戦の火ぶたが切られる。予算案を人質にとる野党戦術は御免だが、木で鼻をくくったような政府答弁も国民の理解を妨げる。寒中だからこそ、鉄を鍛えるごとく熱い議論を期待したい。


自警録

2016年01月05日 08時53分

 ▼武士道を海外に紹介したことで知られる新渡戸稲造は、本道とも縁薄からぬ人である。1877(明治10)年から札幌農学校の二期生として学び、米国やドイツへの留学後は同校で教授を務める傍ら、遠友夜学校を開設して貧しい家庭の子らにも無料で勉強を教えた。類いまれな情熱と使命感を持ち開拓期の教育を支えた人だろう。誰にでも分かりやすい言葉で語ったそうだ。本道にはいまだ慕う人が多い。

 ▼その新渡戸稲造の著書に毎日の心掛けを説いた『自警録』がある。今からちょうど100年前の1916年に書かれたものだ。第25章では、新年を迎えたとき自らが実践していることに触れている。それは「思想というか理想というか、かつておのれの心の、向上したときに抱いた考えと引きくらべてみる」ことだという。たとえば、子どものころ誓った勉強や読書を怠らないこと、人を恨んだり憎んだりしないこと、それが今でも守れているかどうか、一つ一つ省みていくのである。

 ▼きのうが仕事始めだった人は多いだろう。まだやる気のエンジンは暖まっていないはずだ。ここは活を入れるため、新渡戸先生に倣ってはどうか。かつて抱いた理想にどれだけ近づけたかあらためて確認してみるのである。もっとも先生自身が省みた結果「ただ恥ずかしきことばかり多い」と書いているくらいだから、理想に至る難しさは折り紙付きだ。ただこうも言っている。「低い標準の上に立っていくよりも、高い程度の所にぶら下がってゆくことにしたい」。この志を新年に。


2016元旦

2016年01月01日 09時50分

 ▼釧路駅にほど近い釧路市の幸町公園に、ひっそりとたたずむ白い記念碑がある。「北海道鉄道記念塔」。1916(大正5)年に道内の鉄道線路の延長が1000マイル(1600km)に達したことから、東北海道の鉄道基点になる同市に設置されたものだという。それからちょうど100年の節目となることし、北海道の鉄道はまた新たな歴史を刻み始める。3月26日に、北海道新幹線が開業するのだ。

 ▼道民が待ち望んでいた新幹線がついにこの北の大地で走りだす。新幹線規格で建設された青函トンネルも、完成から30年近く待たされたがやっと本来の性能を発揮できる。新幹線が変えるのは鉄道だけではない。本道の可能性をも広げる。新年度から始まる「新しい北海道総合計画」で重点となる、少子高齢化への対応、食・観光関連産業の振興、環境先進地づくり、強靱(きょうじん)な北海道づくり、多様な人材の育成確保、その全てにとって重要な役割を果たすのは間違いない。

 ▼地域の魅力度を順位付けしているブランド総合研究所の「地域ブランド調査2015」によると、都道府県の1位は北海道、市区町村の1位は函館市だったそうだ。新函館北斗開業に向け最高の環境ではないか。1880年に開業した本道初の官営幌内鉄道は、石炭と人を運び産業経済の発展に大きく貢献した。北海道新幹線に期待されるものも同じだろう。皆で知恵を出し合えば、未来へとレールはつながっていく。もうすぐ、新幹線が春を運んでくる。新しい時代の幕開けも近い。


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