札幌の美しい景観を考える会が企画する記念講話が10日、札幌市内で開かれ、北大の角幸博名誉教授と静岡文化芸術大の宮内博実名誉教授が歴史的建造物について意見を交わした。角名誉教授は札幌市時計台や豊平館などを例に、歴史的建造物が与えるまちづくりへの効果を強調。宮内名誉教授は新しい建物と古い建物の線引きの難しさなどを指摘した。
講話で角名誉教授は、札幌市内に建つ歴史的建造物を紹介。札幌市時計台や豊平館の建設や復元の歩みなどを説明した。
1878年に完成した札幌市時計台は札幌市の文化財第1号。76年に開校した札幌農学校キャンパスの記憶を伝える唯一のモニュメントとなっている。
1966年の市議会で永久保存が決議され、70年に国の重要文化財に指定。その後、移転と現地保存の大きな議論が巻き起こり、「この場所から時計台が無くなると、この場所の歴史的な意味は失われるだろう」として現地保存されることになった。
82年、隣接地に地下2階地上14階建ての札幌時計台ビルができる。建設に際しては、ビル風が時計台に影響しないよう風洞実験が行われた。87年には向かいにMNビルが完成する。街中の時計台をバックに記念撮影をするのは大変なため、2階テラスを公共広場として提供。誰でも利用できるよう開放している。
角名誉教授は「歴史的な建物があると、それをどう現在に生かそうかという視点が働く。周りの建物のデザインや有り様を考える一つのきっかけになる。ここでは時計台があるからこそ、こういう配慮が働いた」と説いた。
中島公園内にある豊平館は、もともとカナモトホール(旧・札幌市民会館)の場所に建っていた。1958年に現在地へ移設。82年から5カ年で修復事業が進められ、調査結果から判明した白と青のツートンカラーで復元した。内部の木部塗装ではペンキ下にワニス塗りや春慶塗りが確認され、創建以降の面影を残すよう整えた。
歴史的地域資産の定義について角名誉教授は「地域に住む人たちが愛着を持ち、その建物に何かしたいという〝思い入れ価値〟が大切だ」と指摘。「歴史・文化資産を再生したり活用したりすれば、土地の記憶を次世代に継承できる」と、まちづくりの意義を説いた。
宮内名誉教授との対談では、新しいものと古いものの概念について話題が及んだ。「建物を維持するためには、新しい技術やノウハウが入ってくる。古いものと新しいものの線引きは難しい」と角名誉教授。宮内名誉教授は「新しいものは、魅力的だったり長持ちしそうという新鮮さに価値がある。一方で古いものにも価値はあり、その意味で日本人の感性は相まったものがあるのでは」と論じた。
何を残し、何を変えるかの判断について宮内名誉教授は「どこに向かって街の魅力を歩かせるか。何でも残して良いということではない」と主張。角名誉教授は「どこまで復元するかは永遠の課題だが、そこに培われてきた生活の跡みたいなものを維持するような残し方をしたいと思っている」とし、「その建物で一番隆盛を極めたときの姿など、何かしら理屈を付けて区切らないと、どんどん増改築して訳の分からないものになる」と警告した。
さらにコストや時間との見合いについて、角名誉教授は「誰かが評価したり良いものだと言い続けないと、残るべきものも残らないと思う。今はどこの自治体も財政が厳しいと思うが、ファンドを募るなど残すための工夫が大事だと思う」と助言した。