先進的な建築物でホテル展開
メムメドウズが大きな転機を迎えたのは2018年11月。施設内の実験住宅を継承した宿泊施設「MEMU EARTH HOTEL(メムアースホテル)」がオープンした。8棟ある実験住宅のうち5棟に宿泊でき、地元産の食材を生かした料理や大自然を感じるアクティビティーを提供。「地球に泊まり、風土から学ぶ」をコンセプトに、先進的な建築物に泊まって自然を楽しむ体験から持続可能性や本質的な豊かさを考える場となった。
メムアースホテルの野村昌広社長は「メムメドウズで進めてきたサステナブル(持続可能)の考え方をどう伝えていくか、世界の学生が知恵を絞った建築物の面白さをどう伝えるか。そこで行き着いたのがホテルだった」と事業立ち上げの経緯を語る。
開業2年目で客足は右肩上がり。宿泊者は建築研究者やデザイナーのほか、自然や馬を愛する人が多い。コロナ禍でもリピーターが訪れ、Go To トラベルを利用して宿泊する人もいるという。
中でも隈研吾氏の手掛けた「メーム」が人気の中心。ハーバード大が設計し、360度を見渡せる窓から自然風景を堪能できる「HORIZON HOUSE」も多くの予約を集める。
宿泊だけでなく見学も受け付け、建築を学ぶ大学生らが訪れている。また地域の人と交流できるイベントを定期的に開催。多くの人に施設を見てもらえる工夫を今後も続けていく。
ホテル最大の売りは、「考える時間と場所」であること。東京で生まれ育った野村社長は周囲に何でもある便利になじんだ生活を送ってきた。就職した新聞社を辞め、縁あって大樹町に来てからは地域の風土や身近にある植物の生態など今まで気にかけなかったことを考えるようになった。「隈研吾氏も自分にとって何が心地よいのか、何が大切なのかをフィールドから感じ取れたら、生活はもっと色鮮やかになると言っている。そうした豊かさの再定義ができる時間と場所を提供していけたら」と意気込む。
「建築の聖地」と呼ばれることに野村社長は「プレッシャーだが、より良い場所にしていくための原動力になる」と笑う。一方で「北海道は地域によって景色や風土に個性がある。地域なりに意味のある建築ができていけば、大樹町以外にも建築の聖地は派生するだろう」と考える。
近年、サステナブルやSDGsといった言葉が注目されている。メムメドウズは10年前から建築を通してそうした概念を追求してきた。建ち並ぶ家々からうかがえるのは環境への負荷が少なく、地域の風土と歴史に根差す建築の在り方。自然資源の豊かな道内各地で広がっていけば、地域創生の新たな可能性を見いだせるかもしれない。
(北海道建設新聞2020年10月15日付1面より)