コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 240

日大アメフト部

2018年05月22日 07時00分

 組織というものは時に、所属する者たちも大して自覚せぬまま道を踏み外すことがあるらしい

 ▼いちいち会社名を挙げることはしないが、最近だけでも自動車業界では無資格検査員による検査の横行や燃費試験データのごまかし、鉄鋼業界では品質検査データの改ざんが立て続けに起こった。少し記憶をさかのぼれば、消費期限を書き換える食品偽装事件を幾つも思い出す。銀行では不正融資が話題になったばかりだ。コスト削減、人手不足への対応、売り上げ至上主義など事情はいろいろあろう。ただ、不正を働く会社に決まって見られるのは組織の論理が消費者利益や法律、一般常識より優先されること。結果として個人の感覚がまひし、悪い事を悪いとも思わなくなってしまう

 ▼今盛んに騒がれている日本大学アメリカンフットボール部の危険プレー問題も根は同じでないか。今月6日の関西学院大との試合で日大の選手がルール無視の乱暴なタックルを仕掛け、相手選手に大けがをさせてしまった件である。関学大の猛抗議に対し日大の内田正人監督は当初、勝つためにはあれくらい当然との態度だったと伝えられる。事実、チームには反則した選手を褒める雰囲気があった。目的のためには手段を選ばぬ意識が貫徹していたとしか思えない

 ▼19日になって内田監督は責任を認め相手選手に謝罪。監督辞任も表明した。ところが指示の有無についてはだんまりのままだ。負傷選手はきのうまでに被害届を提出した。組織論理にこだわって道を踏み外した日大は、警察でも独自の主張を展開するのだろうか。


訪日客の医療費

2018年05月21日 07時00分

 最近、訪日外国人観光客の医療費問題を取り上げた報道をよく目にする。急病やけがで医療機関にかかったまではよいが、あまりの治療費の高さに料金を支払えない外国人が増えているというのである

 ▼日本の公的保険の対象外で旅行保険にも加入していないと、症状が重い場合、治療費が数千万円に上ることもあるのだとか。未納分の多くは病院の負担となるため、今のように外国人が多いと損失もばかにならない。観光庁が3月末公表した「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」を見ると、旅行中に病気やけがをした人は全体の6%。このうち医療機関に行く必要性を感じた人は26%だったという。ただし実際に受診した人はその半分弱。つまり全体の0.6%にとどまる

 ▼心配するほど多くないようだが、さにあらず。政府観光局によると昨年1年間の訪日外国人は2869万人。0.6%でも17万人を超える。本道も道経済部の集計(2016年)で来道外国人は230万人だから1・3万人以上だ。もちろんこの全てが支払い不能になるわけではない。先の調査でも73%が保険に加入していることが分かっている。ただし観光地を抱える地方の小さな医療機関だと、未納者が数人出ただけで経営が揺らぐ

 ▼事態を深刻に見た政府は今月にも対策を打ち出すという。旅行保険の加入促進を第一に、過去に未払いがある外国人の入国拒否や医療通訳の育成などを盛り込むようだ。訪日客を呼び込むには旅行者と受け入れ側どちらの安心も必要だろう。料理だけでなく医療の方も丁寧にお膳立てしたい。


新生「日本製鉄」

2018年05月18日 07時00分

 考えた通りにはならないと半ば思いながらも、わが子に夢を託した名前を付けるのが親の情というものだろう。それをだいぶ誇張したのが落語の「寿限無」である

 ▼子どもが生まれて大喜びの熊さんは、長生きできそうな言葉を全部つなげて一つの名前にしてしまった。これがとにかく長い。「寿限無寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ…」。まだまだ続く。国内製鉄業最大手「新日鉄住金」が「日本製鉄」に社名変更するとのきのう付け新聞記事を読んでいて、その社名変遷の複雑で長い歴史が「寿限無」と重なった次第

 ▼経緯はこうだったという。戦前、官営八幡製鉄所や三菱製鉄など1所7社が国策により合同し日本製鉄が誕生。ところが戦後の財閥解体で分割され今度は4社に。1970年にこのうち2社が合併して新日本製鉄を設立。その後12年に住友金属工業と合併して現在の新日鉄住金になった。そして来年4月からはまた日本製鉄である。「八幡、三菱、日本製鉄、富士、新日鉄,住友金属」。並ぶのは時代を映す大きな名前ばかり。それを変えてこざるを得なかったのは、戦後まで国策に翻弄(ほんろう)され、時代が下っては厳しい国際競争のただ中に放り出された製鉄業の苦難の歴史ゆえだろう

 ▼新社名の「日本製鉄(にっぽんせいてつ)」は日本発祥を明確に打ち出し、海外で高品質と定評のある日本ブランドを一層強化していく狙いがあるという。落語の「寿限無」は健康で利発な子に育った。「日本製鉄」もそうだといい。


スルガ銀行不正融資

2018年05月17日 07時00分

 人間の善悪の分かれ目はどこにあるのか。それに関して古代ギリシャの哲学者プラトンは大著『国家』で「ギュゲスの指輪」という民話を紹介している

 ▼ソクラテスが「人の根は善良」と教えると、ある弟子がこの話を示して反論したそうだ。善良な羊飼いギュゲスは偶然秘密の洞窟に入り、そこで自分の姿を消せる指輪を手に入れた。さあ、透明になったギュゲスは何をしたか。実は悪逆非道の限りを尽くしたのだ。経済学者スティーブン・D・レヴィットらの『ヤバい経済学』(東洋経済新報社)で学んだことである。他人から見えなくなることだけにとどまらない。人間は理由さえあれば悪い事にも容易に手を染めてしまう場合があるという

 ▼スルガ銀行(静岡県)の行員にとってそれは、成績やノルマだったようだ。シェアハウス投資向け融資に大量の不正が見つかった問題で、相当数の行員が顧客の通帳残高改ざんや契約書の偽造を黙認していたのである。この不正融資総額は2000億円に上るらしい。ノルマ未達は厳しく叱責され、昇進の道も断たれるため行員も必死だったのだとか。結果、シェアハウス運営会社や不動産販売会社が条件に合うよう書類を偽造していることに気付きながら融資を実行し続けた。営業幹部が審査に圧力をかけることさえあったという

 ▼幸いにも先の経済書は他人が見ていなくとも87%の人間は誘惑に負けず不正をしない事実も教えてくれる。とすると13%の人間が幅を利かすことになったスルガ銀行の経営には、指輪の悪用を許す欠陥があったと断ぜざるを得ない。


隣の責任

2018年05月16日 07時00分

 隣に住む人は選べないから―、との言葉をよく耳にする。実際、性格の合わない人、平気で迷惑を掛けてくる人と隣り合って暮らすことほど悩ましいことはない。そんな経験をしたことがあるという方々も少なくないのでないか

 ▼テレビでも定期的に近所の困った人が取り上げられている。理由を聞くとこんな具合だ。一日中騒音がひどい、ごみが家の外まではみ出している、公用の空間を私物化して他人を排除する。いざこざではないが作家の向田邦子さんにも気になることがあったそうだ。エッセイ「隣りの責任」に記している。近所に大理石風外観を持つしゃれたビルができた。見ると1階には豪華な美容室と魚屋が並ぶ。ただこの魚屋、魚箱は汚れたまま外に山積みの上、全体に不潔でいつも臭い。向田さんは美容室に同情せずにはいられなかったという

 ▼皆が気持ちよく過ごすためには、できる範囲でお互いに気を使い合うのがご近所付き合いの鉄則だろう。それがないと途端にぎすぎすした関係になる。国際社会も原則は同じ。イスラエルとパレスチナ自治区の話である。この問題は第2次大戦後、ユダヤ人らがパレスチナ人の土地に無断で巨大なマンションを建て権利を主張しているようなもの。隣人への配慮はほとんどなかった

 ▼そこに今回降って湧いたトランプ米大統領の大使館エルサレム移転。イスラエルのみに肩入れする行為はイスラム社会を怒らせるに十分だ。これまでの経緯から米国には責任もあるはずだが、トランプ氏にとって中間選挙の票にならない者は隣人でないのかもしれぬ。


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