コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 239

日ロ首脳会談

2018年05月29日 07時00分

 この歌を聞くと若いころの記憶が呼び覚まされるという人も少なくないに違いない。ザ・フォーク・クルセダーズで一世を風靡(ふうび)した北山修さんの作詞、加藤和彦さんの作曲による『あの素晴しい愛をもう一度』のことである

 ▼「命かけてと誓った日から すてきな思い出 残してきたのに あの時 同じ花を見て 美しいと言った二人の 心と心が今はもう通わない」。旋律は美しいが悲しい恋の歌だった。実は26日にロシアで行われた安倍首相とプーチン大統領との首脳会談の経過を見て、頭の中でその一節が響いた次第。二人の心と心もどうやら今はもう通わないようだ。2年前には首相の故郷山口にプーチン氏を招いて親しく話をし、去年はAPECに合わせた会談で北方領土の共同経済活動や平和条約締結について前向きな雰囲気を共有した

 ▼二人で素敵な思い出を残してきたはずなのだがさて、どうしたことだろう。今回は領土問題にせよ経済協力にせよ目立って進展した事案はほとんどない。何だかプーチン氏の反応が鈍いのである。共同経済活動のための現地調査団派遣や航空機による北方領土墓参の実施といった実務的な合意はあった。ただ、それ以上踏み込むと途端にはぐらかされる

 ▼米国と緊密に連携する日本と距離を置きたかったのか、はたまた外交で点数を稼ぎにきた首相の足元を見たのか。首相にしてみればあの素晴らしい愛をもう一度との思いを秘めての訪ロだったろう。どうやら3月の大統領選で大勝利を収めたプーチン氏には今、日本の愛はさほど必要でないらしい。


万能細胞臨床へ

2018年05月28日 07時00分

 小樽で育った文学者伊藤整に「春日」という詩があるのをご存じだろうか。一つの風景を描写しているだけなのだが、不思議と暖かさや生命力を感じさせられる作品である。少し長いが一節を紹介したい

 ▼「老婆は軟い畑に畝をつくり/黒土の穴に/真白い豆を一つ一つ並べてゐる。その豆の間違なく萌え出るのを知るもののやうに/ていねいに/いつくしみつゝ土をかける。この老いたる女と白き豆とに約束あり」。新たな豆が育つ。老婆はそれを夢見ているのではない。確かな約束と思っているのである。いろいろな細胞に変わる「万能細胞」を医療に役立てようとする研究者たちも、いよいよその段階に達したのだろう。臨床に応用する計画の発表が16日から3件も続いた

 ▼iPS細胞で世界初の心臓筋肉シートを作り患者に移植する大阪大、同じくiPSから司令塔役の免疫細胞を誕生させた京都大iPS細胞研究所、国内で初めて医療用のES細胞作製に成功した同大ウイルス・再生医科学研究所である。地道に育ててきた研究がここにきて一気に花開いたわけだ。例えば大阪大の計画では自ら拍動する心臓筋肉シート2枚を「虚血性心筋症」の患者の心臓に貼り、機能しなくなっている心筋の再生を促すという。弱った心臓をばんそうこうで治すようなものか。まあ、実際はそんな簡単な話ではないのだろうが

 ▼京都大の免疫細胞はがん治療に、医療用ES細胞は多様な再生医療にそれぞれ新たな道を開くらしい。こちらは「努力を重ねた研究者と万能細胞とに約束あり」だ。それがかなう日も近い。


山菜採り

2018年05月25日 07時00分

 アイヌ民族が最も恐れていたことは飢饉(ききん)だったという。アイヌ文化研究の第一人者藤村久和氏がおばあさんたちに聴いた話を『アイヌ、神々と生きる人々』(福武書店)に記していた

 ▼そのおばあさんたちによると爆弾は逃げれば当たらないし、病気も全部が死ぬわけではない。ところが「飢饉だけは、どこへどう逃げても自分のお腹が二十四時間責められるので、これほど恐ろしいことはない」のだそう。ウバユリのでんぷん、干しザケ、山菜の塩漬け。こういった食料の保存技術が発達し、伝承されてきたのにはそんな事情があったらしい。山菜は旬の食べ物ではあるが、備蓄用としても重宝されていた。和人も本道に暮らすようになってから、食料保存に関するアイヌの知恵にずいぶん助けられたと聞く

 ▼現代はさすがに飢饉の心配はない。それでも多くの人が春になると、山菜を求めて山へ向かう。食べ切れない分は塩漬けにして瓶詰め。かくして物置には何年前のものかも分からぬ容器が並ぶ。飢饉はなくとも気掛かりはある。遭難だ。道迷い、事故、疲労。山に入ればどこに危険が転がっているか分からない。道警によると山菜採り遭難は増加傾向にあり、昨年は108件に上ったそうだ。月別には5、6月が飛び抜けて多く、山菜別では全体の半分をタケノコが占める

 ▼ということは、まさに今頃が要注意である。この週末に出掛けようと考えている人もいるのでないか。決して無理はしないことだ。もし山に行けなくとも、物置に分け入ってみれば極上の年代物が見つかるかもしれぬ。


日大選手の記者会見

2018年05月24日 07時00分

 つい先日小欄で取り上げたばかりだが、きょうも日本大学アメリカンフットボール部の不祥事について書かせてもらいたい

 ▼関西学院大の選手にけがを負わせた日大の宮川泰介選手がおととい、個人の立場で記者会見を開いたのである。試合で反則するに至るまでの監督やコーチとのやりとりやその間の背景をつぶさに語り、自分の非を認めて潔く謝罪した。見ていて胸が苦しくなったのは筆者だけではなかったろう。弱冠20歳である。そんな前途ある若者に「もうアメフトをする権利はない」と言わせるまで追い込んだのは誰だったのか。彼は監督やコーチから相手選手を負傷させるよう指示されたと明言した。秋の大会にその選手が出られなければこちらの得、とまで強調されたのでは誤解の生まれる余地もない

 ▼試合の少し前に実戦練習から外された上に日本代表を辞退させられ、弱気だなどと性格も繰り返し攻撃されていたという。「相手選手をつぶせ」との指示を拒否できる精神状態になかったのである。「責任は自分に」としながら指示したことは認めない内田正人前監督の不遜な態度により、宮川選手は異常な組織論理の犠牲にされそうな自分に気付いたのだろう。過ちは消えないものの22日の会見を見る限り、宮川選手は思慮深く誠実な人との印象を受けた

 ▼日大広報部は同日夜、すぐさま「つぶせは強く当たれとの意味で指示は誤解」との声明を発表した。熟慮なき反論。そこからは大学の誇りも学生を守る気概も感じられない。ただ一人勇気を奮いフィールドに立った選手にこの仕打ちとは。


40年に190兆円

2018年05月23日 07時00分

 まだ給料も低い駆け出しのころに先輩諸氏から、このことわざを引き合いに出して諭された人も少なくないのでないか。「稼ぎに追い付く貧乏なし」

 ▼一生懸命に働けば暮らしに困ることはないから頑張れとの希望あふれる言葉で、戦後の高度経済成長期には確かに的を射たアドバイスといえただろう。人口がどんどん増え、消費者需要は絶えず旺盛。物を作れば作った端から売れ、経済が急速に拡大する時代だった。今がそうでないのは誰しも知っている事実だが、こんなニュースを聞くとさらに将来への不安が募る。介護や医療などの社会保険給付費が、2040年度には190兆円に上るそうだ。121兆円と見込む18年度の1・57倍という。このままでは「給付に追い付く稼ぎなし」となること間違いない

 ▼政府が21日の経済財政諮問会議で示した推計である。40年頃にピークを迎え、国民の3人に1人、4000万人が高齢者になるのだとか。ところが急進する高齢化に政府の対応は後手に回ってばかり。この先100年かけてこの変化なら驚きもしなかろう。20年ならあっという間である。給付で最も多いのは年金の73・2兆円、次いで医療68・5兆円、介護25・8兆円と続く。一方で子ども子育ては13・1兆円にとどまる。高齢化のすさまじさ、ここに極まれりだ

 ▼政府としては入りを増やし出を抑えるしかないが、単純に給付を減らせば高齢者の暮らしが立ち行かなくなるし、さりとて消費税率を際限なく上げれば現役世代の生活が行き詰まる。「稼ぎを追い抜く負担あり」では希望も何もない。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • web企画
  • オノデラ
  • 日本仮設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,602)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,452)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,082)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,076)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (911)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。