▼テレビでよくお見掛けするタレントの阿川佐和子さんは、対談の名手でもある。週刊文春の連載「この人に会いたい」を読んでいて気付くのは、自然なやりとりの中から相手の本音を引き出すのが実にうまいということだ。ところが、インタビューは長らく大の苦手だったという。それも「いやだ、いやだ、あーいやだ」(『聞く力』文春新書)というくらいだから重症だ。克服の鍵は会話にあったらしい。
▼仕事を続けているうち、インタビューは人と人とが質問し合って交流する会話と同じ、と悟ったそうだ。それからは自分に知識がない分野の人が相手でも、気後れせずに話が聞けたという。会話つまり対話だが、英文学者の外山滋比古さんも『思考の整理学』(ちくま文庫)にこんなことを書いている。知的創造のためには「めいめい違ったことをしているものが思ったことをなんでも話し合うのがいい」。阿川さんも外山さんも、優れた仕事の裏には対話があったということだろう。
▼最近は日本でも世界でも、対話ではなく対立ばかりが目に付く。昨年日本で大きな議論を呼んだ安全保障関連法制。賛成派と反対派はそれぞれ自説を述べ立て、非難合戦を繰り広げた。世界では文明の衝突と称し、イスラムと西欧をことさら分断しようとの動きが目立つ。はて世の中に色は白と黒しかなかったのかと絵の具を確認したくなる。対立の行き着く先はしょせん暴力か武力。それを望む者はいないだろう。合意や平和のため役立つのが対話だ。必要なのは「聞く力」である。