▼ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の季節がまた巡ってきた。夕張市の財政破綻後に再生した映画祭は、長く親しまれてきたメーン会場アディーレ会館が老朽化により閉館するという新たな困難に直面していた。選んだメーン会場は、山の上にある夕張北高を改装した「合宿の宿ひまわり」の体育館だった。鈴木直道市長が「バスケットボールもできる映画祭の会場」と笑いをとっていたユニークな会場だ。
▼ことしのオープニング上映は、平山秀幸監督の「エヴェレスト 神々の山嶺」。前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑む登山家の羽生と、その姿を追う山岳カメラマンの深町の生き様を描く作品。岡田准一、阿部寛、尾野真千子は、邦画で初めて標高約5000mでの撮影に挑んだ。CGでは決して感じられない臨場感ある映像が、映画を盛り上げる。あまりの迫力に見終わっても言葉が出ない。世界に誇れる山岳映画の誕生。その妥協のない制作姿勢に、深く感動した。
▼平山監督は上映の前に「夕張に、10年ぶりに新作を持って帰って来れたことが何よりうれしい。夕張はヒマラヤと同じくらい寒く、ふぶいていた。ふぶかなければ夕張ではないと思った」と話していた。吹雪の中、山の上の会場で山岳映画の上映が行われるとは。ハンディをプラスに変えた、こんなにもスリリングな映画祭があるだろうか。市民が「お帰りなさい」と迎え、映画人とファンが気さくに交流する楽しく温かな夕張の映画祭は、一方では困難に果敢に挑戦する映画祭でもある。