モンゴル通信「農業事情リポート」 NGO組織AML発

2018年10月27日 16時00分

 【ウランバートル=AML】モンゴルの農業は国営で発展してきた歴史がある。しかし1990年の市場経済への移行期に衰退を招いた。現在は主力の小麦やジャガイモは国内需要を満たしているものの、他の野菜類は不足している。衰退期には種子生産の衰退も招き、種子の開発も急がれている。モンゴル政府は、2025年までに農地適地の105万㌶の整備と1㌶当たりの収穫量を1・35㌧から2㌧に引き上げる計画を打ち出している。野菜貯蔵庫や卸売センター建設の調査を実施する一方で、放牧地帯と農業地帯を区切る柵の構築や植林なども計画している。モンゴルの農業事情をリポートする。(Z・ボルギルマー)

■主力は小麦、野菜が不足 25年までに農適地105万ha整備、収穫増へ

 モンゴルは農地に適している105万㌶の土地のうち、約87万㌶で実際に栽培が行われていると、食料・農牧業・軽工業省農業政策実施調整局のボロルチョルーン氏が述べている。約87万㌶の8割は小麦畑で、年間の国内需要をある程度満たす水準に達してきている。

 小麦以外はジャガイモなどの野菜で、ジャガイモは国内需要を満たしているが、その他の野菜は需要の5割にも満たない。

 モンゴルにおける耕種農業は今から約60年前に平原を農業地として開拓したことから始まった。それから90年まで、社会主義経済であったモンゴルで農業は政府管轄下にあった。しかし90年に社会主義経済から市場経済へ移行し、国民に資産を持つ権利、ビジネスを起こす機会を与えた。

モンゴルで農業の主力生産品の一つは小麦。広大な小麦畑が広がっている

 この頃から国営農場が民営化され、株式会社として上場を始めた。企業は資産を持つようになり利益を生む必要性が生じたため、企業にとって市場経済への移行は容易ではなかった。

 企業の経営経験に乏しい、資産の少ない民間企業、起業して間もない銀行、国家予算が不十分な政府。これら全てが市場経済に移行する90年代のモンゴル経済の姿だった。

■干ばつに強い農業が課題 かんがい開発や種子生産、専門家育成を

 1990年までは国営の農業は発展しており、当時最高で年間80万㌧の穀物を収穫した年もあったと、ボロルチョルーン氏は述べている。民営化してからは、わずか7・5万㌧しか収穫できない年もあったが、2000年からは回復傾向にある。

 これは民間企業の資本が充実し、経済的な基盤がある程度出来上がったことと、国家の政策支援が行われるようになったからだ。現在は年間50万㌧の穀物を収穫しており、そのうち45万―47万㌧が小麦で、国内需要を十分に満たしている。

 しかし、干ばつが起きた年は収穫が大きく減るため、かんがい農業の開発が必要であると専門家は指摘している。事実、15年には全国的に農産物の5割しか収穫できなかった。また、90年からの農業の衰退は種子生産の衰退も招いたので、種子生産の開発が必要であると、食料・農牧業・軽工業大臣のバトゾリグ氏が強調している。

計画的な農業生産の確立に向けて課題解決が急がれている

 現在、ダルハン市にある国の農業試験場だけが種子の生産を行っている。しかし、年間3000㌧の生産を必要とされているものの、同試験場では年間4―5㌧しか生産できていない。モンゴルの自然、気候に適した乾燥に強い品種の種子を開発する必要がある。現在、民間企業10社が生産の許可を受けて開発を行っている。

 モンゴル政府は15年に食料農牧業分野で政策を策定した。その政策には、25年までに農地に適している105万haの土地を完全に利用することと、現在1ha当たり1・35㌧の収穫量を2㌧に引き上げることを目標に掲げている。近年は小麦畑が拡大し、国内消費だけでなく輸出する可能性もあるとボロルチョルーン氏は言っている。

 モンゴルの家畜(大半はヒツジとヤギ)頭数は6700万頭に達しており、さらにことしの春には2200万頭の子どもが新たに生まれた。放牧地帯と農業地帯を細かく区切らないと遊牧民と農業団体の間で対立が起きるため、政府はことし5月に農業地帯を詳細に特定した。

 この中で政府はセレンゲ県、中央県、ダルハン・オール県、ヘンティー県、ウブルハンガイ県、ブルガン県、アルハンガイ県にある60のソム(郡に当たる)の113バグ(村に当たる)を農業地帯と発表した。

 これに関連して、食料・農牧業・軽工業省は来年度から放牧地帯と農業地帯を区切るための柵を設けることと、植林を行うことなどの計画を立てている。また、ジャガイモや野菜類は6割しか貯蔵できていないので、野菜貯蔵庫、卸売センターの建設に関する調査を実施中である。

 このように60年間の歴史を持つモンゴルの耕種農業分野は、市場主義経済への移行に伴い一時衰退したが、ここ10年間で回復傾向にあり、干ばつなどの自然災害に左右されないかんがい農業の導入、畑の柵構築、種子生産、さらにエコノミストや農業経営者などの専門家を育成するのが重要な課題になっている。


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