学校進出、巻き返しの切り札
「産・学・官のうち、産がないと思った」。大和ハウス工業の菅原貴志北海道支社マンション事業部長は、新さっぽろG・I街区の複合開発プランをまとめる中で、最初に感じた課題を一つ挙げた。厚別区の高齢化の一因は、産業が少なく、地元で仕事を得にくいため若者が根付かないことにあると考えた。
同社が新さっぽろの将来像を探り始めたのは、札幌市が団地などの跡地売却先を公募提案型で募るはるか以前だ。市は2010年ごろ、G・I街区の再開発に向けてかじを切り始めた。街づくり構想は大和グループの得意分野。市が地域住民へのヒアリングを始めるころには、再開発への参画を目指して動きだしていた。当時から同じ考えを持っていたのが今の中核メンバーである大成建設とドーコンで、3社は早くからチームを組んで議論を深めていたという。
協議の末、構想の重点と位置付けたのは若者を呼び込むこと、そして、若者がとどまるように働く場をつくることだった。これを実現する具体策として、学校と病院を核とした複合開発を見据えた。
G街区に入る札幌学院大は、公募提案前から候補に決まっていた。江別を本拠とする同大は学生確保に苦慮し、16年度は入学定員に対する入学者割合が68%まで下がっていた。巻き返しの切り札としたのが、札幌市内でJRと地下鉄が重なる好立地の確保だ。新校舎には経営学部と経済学部を再編した新たな経済経営学部を置き、次に医療・福祉と親和性のある心理学部を移転する。同じ敷地では、学校法人滋慶学園が札幌看護医療専門学校の新設を決めている。いずれも21年4月の開学予定だ。
医療に関しては、多くの病院を建ててきた大成建設の経験、ネットワークを生かし、厚別区内の有力な病院にI街区への移転集約を働き掛けた。移動手段が限られる高齢者が増える中、交通の利便性を高く評価した新札幌整形外科病院、新さっぽろ脳神経外科病院、記念塔病院が参画を決めた。
このほかI街区には、大和ハウス工業が商業施設やホテル、メディカルビル、タワーマンション、立体駐車場を配置し、周辺の施設機能を補完する。
病院を産業の核に据えることで、医療に関わる人材の育成・確保のサイクルが生まれる。菅原事業部長は「学校側が人を育て、病院側が学生の実習を受け入れ、そこで学んだ学生がエリア内の病院で働く流れが期待できる」と述べる。描くのは、人材の循環による若者の定着だ。
消費活動、エリア内完結可能
道内でさまざまな街づくりに関わってきた北海道科学大の浜谷雅弘教授は、新さっぽろの再開発計画について「まち全体を面で捉え、既存施設や新施設がお互いの付加価値になる相乗効果を図っている」と評価する。
浜谷教授が指摘するのは大学の重要性だ。最寄り駅から距離がある大学は都市計画上、周辺は住宅街で、店などが栄える駅周辺と分断されているケースが多いという。その場合、学生が集うような店がキャンパス周辺にはできず、地域に大学がある経済的優位性を生かし切れない。
一方、新さっぽろは買い物、飲食、交通、住宅、病院、学校が徒歩圏内に全て集まっている。学生はほぼ全ての消費活動をエリア内で完結でき、「大きな経済効果をもたらす」(浜谷教授)。
再開発は完成して終わりではない。菅原事業部長が次に取り組むのは、事業者と住民が主体となって地域活動をするエリアマネジメントだ。イベントや市場などを通じて、街の魅力付けや発信力を強めることが、持続可能なまちづくりにつながる。街の発展を担う若者を呼び込むためのチャレンジは続く。
(北海道建設新聞2020年9月24日付2面より)