「壊す理由」の根拠集め まるで探偵
旧炭鉱住宅が残る三笠市弥生町の一角。崩れて原形をとどめない状態だった空き家が今月16日、解体の工程に入った。
実施主体は市だ。元の所有者は20年前に亡くなり、相続人も一部所在不明で解体の意思統一ができない。周辺住民の安全確保を考慮して、市が代執行に踏み切った。
住宅は私有財産で、自治体は本来手を出せない。法的な道筋がついたのは、2015年春施行の空き家対策特別措置法によってだ。危険な家屋の整理が進むとも期待されたが、現実には、道内で代執行に至った例は昨年10月時点で11件にすぎない。
なぜ進まないのか。一因は、自治体が壊すほかないと判断する根拠集めに労力がかかることだ。三笠市が今夏解体した旧医院兼住宅は、登記上の所有者は故人で、関東在住の子どもは相続放棄していた。市は子どもに文書で管理を呼び掛けたが反応がない。そこで戸籍をたどるなどして、相続の可能性がある別の16人を洗い出した。
最終的に15人と接触して相続放棄を確認したが、1人は連絡が取れない。住民票のある関東の市役所に依頼し、住所を訪ねてもらっても所在がつかめなかったことから、代執行に至った。
法人が持つ物件の場合、相続制度がない。室蘭市が今春解体した市中心部の空きビルは、昔あった企業が所有者になっていた。市担当者は法人登記資料などから当時の取締役を割り出し、親族が東北在住と分かって現地に飛んで面談。それでも有力情報は得られず、所有者不明と結論付けた。
探偵さながらの作業の後に、最大の壁が待ち受ける。解体経費だ。室蘭のビル解体なら1億3800万円。国から一定の補助は出るものの、自治体負担分は事実上持ち出し。更地にした土地が高く売れれば回収できるが、地価は安く、買い手も簡単には見つからない。「空き家は放置すれば市が解体するという考えが広まると、担当者の業務が増え、財政も圧迫する」(力弓晃継三笠市建設課長)。
金融機関が自治体向け対策支援も
代執行に頼るより、建物に危険がない段階で手を打つ方が地域の負担は少ない。現状では、所有者に対処を働き掛けるのが王道だ。そんな中、民間企業から、自治体の空き家対策をサポートする動きが出てきた。
北洋銀行は9月中旬の週末、夕張市と当麻町の空き家相談会を、札幌・大通の同行本部ビル内ホールで開いた。相続人が地元にいない空き家が多いことを受け、札幌圏在住の所有者に対策を促す狙いだ。会場では北海道行政書士会、全日本不動産協会のほか、物件借り上げサービスの日本管理センター(東京)、不用品整理のネクステップ(札幌)など、関連しそうな企業がブースを構えた。
ふたを開けると夕張9件、当麻8件の空き家所有者が来場。不動産鑑定や売却などさまざまな見積もり依頼が発生した。イベントは、北洋銀が連携協定を結ぶ自治体向けに18年に始めた取り組みの一環で、自治体の支出はゼロ。夕張市建設課の草野憲蔵建築住宅係長は「来場者数は予想の倍以上。来年も開く方向で調整中」と手応えを感じている。北洋銀は物件処理から派生する資金需要や、関連ビジネスのマッチングを視野に入れる。
北海道銀行もこの分野に着目。昨秋、空き家問題の専門家を地元に育成する趣旨で、鷹栖町と東京の資産評価業者との連携協定をコーディネートした。7月には月形町でも同様の連携を実現した。
少子高齢化で住宅から人が抜け続ける一方、問題解決に知恵を絞るプレーヤーの裾野は広がっている。感染症を機に時代が大きく動き始めた今、空き家に光が差し込む。
(北海道建設新聞2020年10月28日付1面より)