コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 161

国会で台湾の名を呼ぶ

2020年01月22日 07時00分

 池田町出身の吉田美和さんがボーカルを担当する音楽ユニット「DREAMS COME TRUE」の楽曲の一つに、吉田さんが作詞した『何度でも』(作曲・中村正人、吉田美和)がある

 ▼いつ聞いても励まされる歌だが、特に落ち込んでいるときなどはふつふつと元気が湧いてくる。中でも胸に響くサビの部分はこんな歌詞だ。「何度でも何度でも何度でも 立ち上がり呼ぶよ きみの名前 声が涸れるまで」。名前を呼ぶというのは、「きみ」を大切に思っているとのメッセージだろう。20日開会した通常国会でもそんな名前を呼ぶ光景が見られた。安倍首相が施政方針演説で「台湾」に触れたのである

 ▼復興五輪の文脈でホストタウンを紹介する際、「岩手県野田村は台湾」と数あるホストの中からあえて台湾を取り上げた。演説で外交関係のない台湾に言及するのは極めて異例なこと。東日本大震災時の多額の義援金への感謝と、先日の総統選で民主派の蔡英文氏が再選したことへのエールに違いない。首相が「台湾」と言った瞬間、議場は歓声と大きな拍手に包まれた。立場は違えどお互い助け合い、中国と対峙しながら民主主義を堅持する者同士。思わず友好の情があふれたのでないか

 ▼蔡総統もその夜にツイッターで、「日本の国会で大きな拍手を浴びたのは実に嬉しい」「頑張ろう!東京オリパラ!」と発信していた。エールの交換だ。中国の「一国二制度」の正体は香港で白日の下にさらされた。大きな力によって消されることのないよう、日本は何度でも「台湾」の名を呼ぶ必要がある。


新型コロナウイルス

2020年01月21日 09時00分

 古代ギリシャの医聖ヒポクラテスが、紀元前460年頃の出来事を書き残している。それは街のこんな様子だった。「突然、多くの人々が高熱を出し、震えがきてせきも止まらない。病気は瞬く間に広がり、人々は恐れおののいた」

 ▼症状や感染態様などからインフルエンザの流行について記述したものと考えられているそうだ。ペニシリンのような特効薬もない時代である。肺炎で死ぬ人が後を絶たなかったらしい。呼吸器を機能不全に陥れる肺炎は医学が格段に進歩した現代にあっても恐ろしい病気である。原因としてインフルエンザウイルスや細菌がよく知られているが、最近にわかに注目を浴びているのは新型のコロナウイルスだ。中国湖北省の武漢市で発症者が相次いでいる

 ▼初めて確認された昨年12月12日以降、きのう朝までに中国全土で201人がり患。うち3人が死亡した。感染者はもっと多いとの説もあり、拡大の懸念は高まる一方だ。2003年に猛威を振るった新型肺炎SARSを思い出す。それはお隣の話、と安心してはいられない。中国は24日から春節の長期休みに入る。この機会に日本を訪れる人が毎年大勢いるのだ。6日には日本の空港の検査をパスして発症者が入国した事例もあった。防疫体制も万全ではない

 ▼幸い新型ウイルスの感染力は弱く、重篤になるのもまれという。ただ子どもや高齢者、体力のない人はその限りでない。いったん肺炎になれば容易に危険な状態に陥ろう。古代から人々を悩ませる肺炎をこれ以上はびこらせないために、手洗いとうがいを励行したい。


現代学生百人一首

2020年01月20日 09時00分

 昭和歌謡の一つに「若いってすばらしい」という題名通りの歌詞の印象的な曲(安井かずみ作詞、宮川泰作曲)があったが、こちらも一首一首読んでいくとそんな気持ちにさせられる

 ▼東洋大学の第33回「現代学生百人一首」入選作品が発表になった。「元号をスマホ片手に待ちわびてSNSで令和と知りぬ」(阿南工専5年高島雄太)。改元で万葉集が脚光を浴びたため、今回は6万首を超える応募があったそうだ。若さゆえのはじけるような喜び、つらい悩み、大人への階段を上る中での迷いが歌から伝わってくる。数首紹介したい。「母の背が大人になるなと語ってるごめんよ僕はもう子供じゃない」(品川区立大崎中3年早川将風)。引き留めてくれるなおっかさん

 ▼「おめでとう妹祝う誕生日こっそり祝う姉になった日」(西武学園文理高1年小川璃乃)。「しわくちゃの手を握って行った墓参り今年は握らず会いに行く夏」(秋田北高1年塩田遥子)。生も死も柔らかな心に深く、優しく刻まれていく。まだ十代後半ながら早くも職人魂を熱く燃え立たせている歌もあった。「ただの鉄それだからこそ俺達の技術使って命吹き込む」(広島工高1年山根飛和)。「測量でかげろうできて誤差が出るピントが合わずとても悔しい」(八幡浜工高3年山下一平)。実に頼もしい

 ▼とはいえ、時には現実の厳しさに打ちのめされることもある。「帰り道惰性で買ったマシュマロに救われるような夜もあります」(慶応義塾湘南藤沢高2年天田憲壮)。甘く切ない味だったろう。いやー、若いって素晴らしい。


阪神・淡路大震災から25年

2020年01月17日 09時00分

 大切にしている絵本がある。作品名を『でも、わたし生きていくわ』(ぶんけい)という。共にベルギーの作家コレット・ニース=マズールが本文、エステル・メーンスが絵を担当している

 ▼物語は突然の事故で両親を失った7歳の女の子ネリーのその後の生活を描く。おばさんの家に引き取られたネリーは、いとこたちと分け隔てなく育てられる。転校もしなければならなかったが新しい学校ですぐに友達もできた。周りはいい人たちばかり。何不自由のない暮らし。それでもネリーは夜ベッドに入ると時々考えてしまうのだ。「なんであんなことが、おこったのだろう。パパやママがいまもいたら、どんな毎日になっているだろう」

 ▼ネリーと同じ思いの人は、いまも少なくないだろう。阪神・淡路大震災からきょうで25年。震災関連死を含め6434人もの人々が犠牲になった。発生は1995年1月17日午前5時46分。死亡者の9割以上が、直後の6時までに亡くなったとみられている。突然すぎる別れだ。その日の朝、テレビをつけたとき目に飛び込んできた神戸の惨状を忘れることはできない。原形をとどめぬビルや家々、煙と炎に包まれた住宅街、崩壊した高速道路…。一瞬にして多くの人の人生が狂わされた。25年がたち、街は以前よりきれいで機能的になったと聞く。心の復興は同じだけ進んだろうか

 ▼先の絵本でネリーは、泣き疲れて眠った次の日の朝にこうつぶやく。「悲しみは消えないけれど、いま、わたしは、しあわせ」。阪神・淡路の被災地にもそう言える人がたくさんいるといい。


偏西風の蛇行

2020年01月16日 09時00分

 日本酒が好きで、品ぞろえが豊富な地酒店によく通っている。先日立ち寄ったとき、店頭にお気に入りの銘柄「大信州 番外品」(大信州酒造、長野県)が並んでいた
 
 ▼見ると何か紙片がぶら下がっている。そこにはこう書かれていた。「がんばろう長野 この商品の売上の一部を『令和元年台風19号』の災害義援金として長野県へ寄付させて頂きます」。そうだ、長野県も千曲川の氾濫で甚大な被害が出たのだった。長野に限らず被災地では復興が緒に就いたばかり。災害ごみなどはいまだ処理にめどが付いていない状況らしい。そんなこともあって助け合いの輪が広がっているのだろう。やはり地球温暖化が影響しているのだろうか。それだけ昨年の台風は普通でなかった

 ▼その異常の原因の一つとして指摘されているのが偏西風の日本付近での北側への蛇行である。偏西風のゆがみは地球規模の現象で発生メカニズムは複雑だが、昨年の日本では結果として台風が東北地方に入り込みやすい条件が整えられた。どうやら今の暖冬や少雪も偏西風のいたずらのようだ。北側への蛇行が続いているのである。気象庁などによると、高緯度にある偏西風が大陸からの寒波を押しとどめているのだとか。太平洋中西部の海水温の高さがそれに拍車をかけている

 ▼暮らすには楽でいいとはいえ、雪を資源にする観光やレジャー産業にはある種の災害のようなものだろう。除雪業者も維持費を捻出できないかもしれない。「百獣の雄叫び分だけ寒波来る」長内博。今季、偏西風を押し戻すそんな寒波は訪れるのだろうか。


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