コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 17

札幌ドームに新モード登場

2023年03月16日 09時00分

 買い物をしているときに飲食料品の前でしばし立ち止まり、買おうか買うまいか迷うことが増えた。値段のせいではない。量である。一つでも多すぎるのだ

 ▼悲しいかな、これが老化というものか。歳を重ねるにつれ飲み食いできる量が減った。飲みたいし食べたいけれども、こんなにはいらないとなるわけである。たまに思い切って買ってみると案の定。半分ほど食べたあとは、冷蔵庫の肥やしになっていたりする。メーカーがそんな市場動向を見逃すはずがない。日本コカ・コーラが2020年に350mℓペットボトルを出してきたのはさすがだった。狙いは大当たり。500mℓは飲みきれないと敬遠する人も多かったのだろう。最近はどんな商品にも、こうした最適化の傾向が見られる

 ▼ただこれほど大きな商品となると、実現は難しかったのでないか。札幌ドームが内部を暗幕でおよそ半分に区切り、小分けして貸し出すことにしたそうだ。14日、報道陣にその「新コンサートモード」を現地公開した。本塁側と一、三塁側の三方に暗幕を張り、外野席側に2万人規模の会場を設けようというのである。北海道日本ハムファイターズ本拠地移転の穴を埋めるため、以前から検討が進められていた

 ▼5万人規模の催しはそうそうない。小分けして料金を抑えるのは妥当に思える。とはいえ音響効果も座り心地も良くはない会場で2万人規模の音楽イベントをどれだけ開けるか。勝負はこの先の売り方とサービスにかかっていよう。350mℓペットのようなちょうどよさを顧客に実感させられるかどうか。


侍ジャパン あす準々決勝

2023年03月15日 09時00分

 本道ともゆかりの深い思想家新渡戸稲造は主著『武士道』で、その基本原理の一つに「礼」を取り上げていた。数ある徳行のうちでも高く評価すべきものだというのである

 ▼ただ、形式に堕しているのは貧弱な偽物。本質は「思いやり」にこそあると説いていた。「礼の必要条件とは、泣いている人とともに泣き、喜びにある人とともに喜ぶことである」。稲造は礼が慈愛と謙遜から生じるとして、そう指摘していた。見ていてうれしくなるのは、選手たちがそんな古き良き日本の文化を体現してくれているからでもあるのだろう。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で快進撃を続ける日本代表チーム「侍ジャパン」の話である。1次ラウンドを全勝で駆け抜け1位通過を決めた

 ▼12日のオーストラリア戦は初回から圧巻のひと言。1番ヌートバーが四球で出塁し、2番近藤健介がライト前ヒットでチャンスを広げると、3番大谷翔平が外野看板直撃の特大ホームランを放ち3点をもぎとったのである。仲間への思いやりや相手への敬意など礼の精神は試合中随所に見られるが、球場の外でもそれは発揮されていたようだ。チェコ戦で死球を出した佐々木朗希が13日、チェコの宿舎までおわびに出向いたというのである。お菓子を両手いっぱいに携えていったそうだ

 ▼死球はままあることで本来そこまでする必要はない。侍ジャパンの一人としての心意気に違いない。さあ、あすは準々決勝のイタリア戦だ。いずれ劣らぬ剣豪たちが力を合わせてどんな戦いを見せてくれるのか。今から楽しみである。


マスクは自己判断で

2023年03月14日 09時00分

 エッセイストの平松洋子さんはスポーツクラブを退会したとき、意外にも「こざっぱりとした爽快感」が押し寄せてきて驚いたという。いわゆる「幽霊会員」で、運動を続けられない自分にダメ出しをしてやめたのにである。「スポーツクラブのマナー」に記していた

 ▼自己嫌悪に陥ってもおかしくないが、そんな兆候はなかった。そこで一つ気づいたらしい。人が集まる場所には「表と裏のマナーが生息している」。表のマナーはトレーニングマシンを大切に扱う、飲食の場所をわきまえるなど常識的な事柄。一方、裏のマナーは「古株のお歴々のご機嫌を損ねない」気遣いだった。退会して初めて無言の圧力から解放された事実に気づいたそうだ

 ▼何ごとにも表と裏がある。世間にはよくあることだろう。コロナ禍、中でもここ一年くらいのマスク事情もそれと似たところがあったのでないか。表向きの理由はウイルスの出入りを防止するためだが、裏では周りの目が気になってという人も多かったはずである。きのうからマスクの着用が個人の判断に委ねられた。新型コロナの位置付けが5月8日に、「2類相当」から「5類」へ引き下げられるのを前に政府が呼び掛けたのである

 ▼とはいえ、今までもマスクに法的な規制はなかった。着用徹底は組織や個人が自主規制を強く働かせた結果。感染より他人の目が怖い日本的現象だった。さて今後は。表のリスク低下は理性で評価できても、裏の同調圧力は心の問題のため簡単には乗り越えられそうにない。外せば爽快感が得られるのは分かっているのだが。


12年目の3・11

2023年03月11日 09時00分

 去年11月に公開された新海誠監督の新作アニメ映画『すずめの戸締まり』(東宝)では、一人の女子高生がいろいろな地を巡りながら成長していく姿が描かれる。その主人公すずめには昔からよく見る不思議な夢があった

 ▼どこまでも廃虚が続く草原で、幼い自分が母親を探してさまよい歩く夢である。実は記憶にはないが、すずめは4歳の時に東日本大震災で母を亡くし、宮崎県に住む叔母に引き取られたのだった。東日本大震災からきょうで12年。かけがえのない人を津波や地震でなくした遺族は今も、誰とも共有できない心の痛みを抱えて日々過ごしているのだろう。宮城県石巻市の日和幼稚園で起きた出来事も、そんな悲しい例の一つだった

 ▼「日和幼稚園遺族有志の会」のHPで最近知ったのだが、その日、園児たちは園バスに乗せられ、まず沿岸部へ降りていったそうだ。津波警報が出されていたのにである。途中で引き返したものの、渋滞に巻き込まれて立ち往生しているうちに津波に巻き込まれた。悲劇はそこで終わらない。バスはその後、猛火に襲われた。あと数メートル上がれば安全圏だったのだ。しかも運転手だけは先に逃げて無事だった。親御さんの心中を思うと言葉もない

 ▼津波で妻を亡くした男を描き、ことし芥川賞を受賞した仙台の作家佐藤厚志さんはその『荒地の家族』(新潮社)にこう書いていた。「道路ができる。橋ができる。建物が建つ。人が生活する。それらが一度ひっくり返されたら元通りになどなりようがなかった」。苦しむ人がまだいる現実を忘れてはいけない。


インフルエンサー

2023年03月10日 09時00分

 大人数で構成する女性アイドルグループの人気は相変わらず高いようだ。今や一つの音楽ジャンルを確立したといってもいいのでないか。ファンではないため楽曲はほとんど知らないのだが、この曲は2017年ころ、よく流れていたので覚えていた

 ▼「乃木坂46」の『インフルエンサー』(秋元康作詞、すみだしんや作曲)である。題名の意味が分からないのも逆に興味を引かれた。インフルエンサーとはなんぞや。歌詞を聞いて考えたものである。こんな一節があった。「その他の誰かなんて 全然 興味ないけど(なぜだか) 君が何を考えてるか 知りたくてしょうがない(振り回されてる)」。実はいまだにはっきりとは正体がつかめていない。ただ、どうやら特定の層にはかなり影響力を持つ人たちらしい

 ▼それをなりわいにして、もうけている人が意外といるのである。報道によると東京国税局が最近、SNSで人気を集めるインフルエンサー女性9人の申告漏れを指摘。追徴課税をしていたという。漏れは2021年度までの6年間で総額3億円に上り、加算税を含め所得税など計8500万円を追徴されたそうだ。女性たちは企業側から商品やサービスのPRを受注し、SNSで紹介して報酬を受け取っていたのだとか

 ▼先の曲の通り〝あの人のことが知りたい。彼女が薦めるならいい物に違いない〟ということだろう。もちろん適切に確定申告をしていれば問題にはならなかった。ずるは見逃さないと国税局がアピールしたわけだ。インフルエンサーとしては国税局が一枚上手かもしれない。


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