コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 181

なつぞらと終戦

2019年08月14日 09時00分

 あんなにつらい幼少期を過ごしたのだから、もう不幸は味わってほしくない。そう願いながら見ている人も少なくないだろう。広瀬すずさん演じるNHK連続テレビ小説『なつぞら』の主人公「なつ」のことである

 ▼戦地で父、空襲で母を亡くしたなつら3兄妹は終戦直後の東京を子どもたちだけで生き抜いてきた。1946年、十勝にある父の戦友柴田の牧場に引き取られたものの、兄妹は生き別れになってしまう。ドラマは日本アニメ草創期にアニメーターの道を切り開いた一人の女性を描いたものだが、物語にはしばしば太平洋戦争の影が差す。先日もなつの兄を育てたおでん屋「風車」のおかみ岸川亜矢美の恋人が、学徒出陣で帰らぬ人となったとの余話が明かされていた

 ▼先の大戦では程度の差こそあれ、ほとんどの日本人がなつや亜矢美のように大切な人を失う経験をしている。「敗戦忌別れを重ね生きのびて」北さとり。戦後は悲しみや苦しみを胸の奥深くに閉じ込め必死に前へ進む毎日だったろう。あすは終戦記念日である。ことしも新聞やテレビなどは戦争の悲惨さや残酷性を訴える人や団体を数多く取り上げるに違いない。ただ、こうした定型手法が多くの日本人の心にどれだけ響いているのか、疑問を感じないでもない。戦後74年、当時を記憶する人もずいぶんと減った

 ▼そんな今、放映されているのが『なつぞら』である。そこでは戦争の悲惨さとともに日本を再び開拓しようとする人間の底力が描かれている。戦争にも加害と被害の二元論でない、いろいろな語り継ぎ方があっていい。


表現の不自由展

2019年08月10日 09時00分

 きょうは無礼講だから―。社長のその言葉を真に受けて幹事は大張り切り。この際だからと会社の不満分子に演説をさせるわ、好き放題に社長をののしらせるわと大騒ぎを演じる。似たような場に遭遇した人も少なくないのでないか

  ▼そのうち「無礼講とはいえ最低限の礼儀があるだろう」と良識ある社員が現れ、調子に乗って暴走する幹事とけんかになる。無礼講と言ってしまった手前、社長は抑えに回るしかない。そんな悲喜劇ともいえる情景をつい思い浮かべてしまった。国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展の一つ「表現の不自由展・その後」が中止になった経緯を聞いてのことである

 ▼同展には昭和天皇の写真を焼き灰を踏みつけにする映像作品や特攻隊の寄せ書きを載せた「馬鹿な日本人の墓」、在韓日本大使館前に設置されたのと同じ「慰安婦」像などが並べられ、公的芸術祭にふさわしくないとする人々から批判が殺到。脅迫まであったため安全策として中止措置を取ったという。この芸術祭は自称ジャーナリストの津田大介氏が監督を務める。同展も氏の肝入りで、表現の自由を巡る現状に思いをはせるため過去に公立美術館で展示を拒否・撤去された作品を集めたらしい。その結果、思想的に偏った作品ばかりになってしまったようだ

 ▼芸術か否かはさておきこれらもある種の表現。その自由はできるだけ守られるべきだろう。脅迫状を送った容疑者は逮捕された。大村秀章愛知県知事は再開を考えてはどうか。あとは実際に見た人が自らの良識に従って評価を下せばいい。


道がIRで道民意向調査

2019年08月09日 09時00分

 
 ニセコを世界に通用するブランド「NISEKO」に押し上げた立役者の一人に、ニセコアドベンチャーセンター(NAC)社長のロス・フィンドレー氏がいる

 ▼ニセコの雪質が気に入り、1992年にオーストラリアから倶知安町に移住してきた人である。スキーのインストラクターをしていたが、夏は仕事がない。アウトドア関連の仕事もほとんどなかったため、建設会社で働きながら生活を維持していたという。そんなときに思い付いたのがラフティング、尻別川の急流下りだったそうだ。これをきっかけにニセコ観光の通年化が進み、今の国際リゾートにつながっていったのである。観光資源は雪だけ、アクセスが悪い、若者は出ていく…。弱点にばかり捉われていれば今のニセコはなかったろう

 ▼IR(カジノを含む統合型リゾート)誘致を巡る議論を聞いていると同じ懸念を感じる。カジノを弱点と考えるあまり、交流人口や雇用の増加による本道発展の可能性まで議論しにくくなっているのでないか。IRは老若男女、人種、国籍の垣根を超えて誰もが楽しめるリゾートとして構想されている。重要なのは国際会議を開けるMICE施設やテーマパーク、ショッピングモール、ホテルなどが一つのエリアに存在すること。経済波及効果はかなり大きなものになろう
 
▼道は近く、意向把握のため無作為に抽出した一定数の道民を対象とするグループインタビューに乗り出すそうだ。フィンドレー氏が先入観に曇らされていない目でニセコを再発見したように、将来を見据えた深い議論ができるといい。


立秋

2019年08月08日 09時00分

 先週末、近所のスーパーへ行くと思いのほか多くの人でにぎわっていた。いつもならすいている夕方である。涼みに来た人もいたのだろう。本道ではクーラーのない家も少なくない。よく冷えたスーパーは格好の避暑地である

 ▼見ていると惣菜の売れ行きがいい。この暑いのに家で煮炊きなんかしていられない。考えることは皆同じである。「炎天へ打つて出るべく茶漬飯」川崎展宏。食事はできるだけ簡単にしたい。札幌もきょうで一段落する見込みだが、きのうまで10日間連続して真夏日を記録していた。1976年に地域気象観測システム(アメダス)が開始されて以来、最長の日数だという。道内はどこも似たようなものである

 ▼消防庁の発表によると、7月29日から8月4日にかけて熱中症で緊急搬送された人が全国で1万8347人(速報値)いたそうだ。このうち死亡は57人で、北海道が47都道府県中最も多い7人だった。特に自宅で発症する例が目立つ。我慢強さが裏目に出ているのかもしれない。例年に増して実感はないがきょうは立秋である。寝苦しい夜が続いたため夏バテの人も少なくなかろう。夏の甲子園も開幕したばかり。きのうはやきもきしながら、1点を追う旭川大高を応援した道民も多かったはず。夏真っ盛りである

 ▼ところが立秋を境に今週末から、本道は急に涼しくなるらしい。札幌管区気象台の1カ月予報を見ても、8月2週目以降の気温はほぼ平年並みに戻るようだ。ただ、昼間はまだ暑く湿度も高い。自宅が暑過ぎるときは迷わず近所の避暑地へ出掛けるべきだろう。


渋野日向子プロ

2019年08月07日 09時00分

 笑いというと単なる瞬間的な感情の発露のようだが、実際は多くの効用のあることが知られている。疲れているときに無理にでも笑うと元気が湧いてくる、つらいときに形だけでも笑顔を作ると幾らか気持ちが楽になる、といった具合

 ▼歌手AIさんも『ハピネス』でこう歌っていた。「君が笑えば この世界中に もっと もっと 幸せが広がる 君が笑えば すべてが良くなる この手で その手で つながる」。笑顔には本人のみならず、周りの人をも幸せにする力があるということだろう。この人を見て、あらためてその力に気付かされた。女子ゴルフの渋野日向子選手である。4日、今季メジャー最終戦となる全英女子オープンで優勝した

 ▼プレー中も笑顔を絶やさぬ明るい姿が観客の心をつかみ、英紙『ザ・ガーディアン』が「スマイリング・シンデレラ」と伝えるほどだったらしい。まだ20歳で海外メジャーは初挑戦。しかも日本勢としては42年ぶり2人目の海外メジャー制覇だそうだから恐れ入る。ミスしてもすぐ気持ちを切り替え攻めにいく姿勢、〝もぐもぐタイム〟に好物の駄菓子を頬張る様子、カップインした瞬間のはじける笑顔。テレビ越しに見ているこちらまで自然と笑顔になる

 ▼大会後の公式会見で出た言葉は、「なんで私が優勝しちゃったんだろう」。大物である。メジャー挑戦は当面考えないとのことだが、来年の東京五輪出場は確実に視野に入ってきた。うれしいことに帰国後1戦目は、あさって開幕する「北海道meijiカップ」だ。さてどんな笑顔を見せてくれるのか。


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