札幌出身の随筆家森田たまに「夏の北海道」と題する一編がある。講演旅行で作家仲間と7月に各地を巡った思い出をとっかかりに、そこから話を広げ本道の魅力を生き生きと伝えるエッセイだった
▼きっと車窓からの眺めが記憶を呼び覚ましたのだろう。「かねがね私は北海道は日本の中の異国だと考へてゐた」と打ち明け、欧州を旅した際に見た風景が、本道そのままだったことに驚きを感じたと振り返っていた。何十年も前の話ではあるが、本道に異国情緒があるのは今も変わらぬ事実だろう。広大な牧草地には緑が萌え、青空は見果てることがない。道路は幅が広く、市街地も伸び伸びとして明るい。それをひときわ強く感じさせられる季節が夏である。森田さんもそうだったに違いない
▼本道にもようやく夏が来たようだ。「夏めきて雲間の青のときめけり」古閑純子。ぼんやりしていた青空と雲の境界もくっきりしてきた。気持ちを浮き立たせている人も多かろう。道産子にとって短い夏は特別である。現在、異国の雰囲気を漂わせるのは風景だけでない。文化もである。世界の音楽家を育てるPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)や日本屈指のジャズの祭典サッポロ・シティ・ジャズ。夏の道都札幌はクラシックやジャズの音楽であふれる。PMFは6日、ジャズは7日に開幕した
▼これらのイベントを目指して世界中から人々が訪れ、本道の自然や風景も楽しんで帰る。垣根はどこにもない。「北海道は日本の中の異国」。森田さんは泉下で一層その思いを強めていよう。