コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 268

福井の指導死事件

2017年10月21日 07時00分

 何が頭の中でスイッチを入れるのかは分からないのだが、突然、中学生だったころの恥ずかしい思い出がよみがえって一人で赤面することがある。調子に乗ってやらかした大失敗だったり、玉砕した片思いの告白だったり

 ▼動物王国で知られる畑正憲さんも同じだったらしい。『ムツゴロウの青春期』で、女生徒にラブレターを渡したときのぶっきら棒な態度や、教師に対して素直になれなかった昔を振り返っていた。畑さんによると、心の中で嵐が吹き荒れているようなこうした不安定さは、動物学的に意味のあることなのだという。成長ホルモンが機能し始めていると同時に、反抗しながら独立の準備をしている証しだというのである。それは人が育つ上で欠かせない「人生の宝」なのだとか

 ▼そんな「人生の宝」を一顧だにせず、土足で踏みにじったと考えざるを得ない。福井県池田町でことし3月、中2の男子生徒が自殺する原因を作った教師たちのことである。常軌を逸した厳しい叱責を繰り返していた。男子生徒は担任に、他の生徒も「身震いするくらい」怒鳴られ、副担任からも執拗(しつよう)に提出物の遅れなどを追及されていた。わが子の異変に気付いた親が改善を要請しても、行き過ぎを見かねた同僚が注意しても、担任らはかたくなに態度を変えなかったという

 ▼死より他に逃げる場所なしとまで思い詰めさせたそれを、教育と信じていたとしたらあまりに愚かである。担任らも中学時代、恥ずかしいことをたくさんしてきたろう。それでも今生きている。男子生徒は、もういないのだ。


初めての投票

2017年10月20日 07時00分

 ことし選挙権を得たわが家の高3の娘に投票に行くのかどうか尋ねてみると、間髪入れず「行く」との答えが返ってきた。「どうしよう、行かなきゃダメかな」といった反応を予想していただけに、迷いのない即答に少し驚いた

 ▼学校でも友達との間で選挙が話題に上ることはあるらしい。感触としては「みんな行くと思うよ」。頼もしい限りである。先生は毎朝、読むことだけ薦めて教室に新聞を置いていくそうだ。その第48回衆院選の投開票が次の日曜日に迫った。誰に投票するかそろそろお決めになったころだろう。本道は保守対革新の一騎打ちあり、3極そろい踏みありと、どの選挙区もなかなかの激戦である。それだけに各党の幹部が来道して街頭に立つ機会も多かったようだ。筆者も何人かの応援演説を見た

 ▼それにしても今回ほど与野党共に揺れ動いた選挙も少ないのでないか。支持率を落とした与党は起死回生を図り、魅力をなくした野党第一党は分裂し、受け皿としてできた新党は浮き沈み、と。おかげで政局としては面白くなったものの、争点はぼけてしまった。自分の一票を行使する形で初めて政治参加する高校生らにとって、分かりにくい衆院選になってしまったことは否めない

 ▼社会人の一歩手前にいる彼らにとって、教育負担の軽減策や就職で苦労しないための経済政策は本来なら大きな判断材料になったはずである。確かにどの党も主張を述べてはいた。ただ、それが伝わる選挙戦だったのかどうか。若者たちは案外よく見ている。政治家には若者たちが見えていただろうか。


冬近し

2017年10月19日 07時00分

 きのうの朝、札幌市内を歩いていて、時折雨に白い物が混じるのを見た。みぞれである。「雪まじり雨は首から骨に入る」横坂けんじ。まだ心身とも慣れていないからか、寒さが身にこたえる

 ▼10月も半ばを過ぎ急に冷え込みの度が増してきた。ストーブの点火が朝一番の日課になると、冬も間近である。紅葉で彩られた今頃の秋の山を表す言葉に「山装う」があるが、北海道ではもうすぐその装いは真っ白に変わる。山が装うなら人も装わないわけにはいかない。先日、いよいよ着る物に不便を来し、重い腰を上げてたんすの奥から冬物を引っ張り出した。事前の準備を怠り切羽詰まるまで動かないのは悪い癖だが、そんな人も案外多いのでないか

 ▼街が装いを白く変えると頼りになるのが道路の除排雪である。急ごしらえでもしのげる服装と違い、こちらはしっかりした準備が欠かせない。人々の命と生活が懸かっている。備えは着々と進んでいるようだ。本紙にも除排雪の出陣式や安全大会の記事が出始めた。気になるのは冬将軍がいつおいでになるかである。初冠雪の状況が一つの目安となろう。札幌管区気象台のまとめによると道内は旭岳で平年より5日遅かったものの、利尻山で4日、斜里岳で8日、手稲山と雌阿寒岳で11日早かった

 ▼どうやらことしの将軍はややせっかちなようだ。歓迎はできないが早く来るのは致し方ない。ただ、暴れ回るのは迷惑である。近年は毎年のようにゲリラ豪雪がどこかの地域を襲い、想定外の被害をもたらす。装いを変えるのはいいが、壊すのはご遠慮願いたい。


子ども騒音問題

2017年10月18日 07時00分

 保育園での子どもの声は騒音で迷惑―と、近隣住民が問題視する例が増えているらしい。以前報道番組で見たのだが、「うるさい、何とかしろ」と突然怒鳴り込んでくる高齢者もいるのだとか

 ▼にわかには信じ難いが、どうやらほんの一部の偏屈な人が文句を付けているわけでもなさそうだ。古くからある園が住民から退去を迫られる、反対運動が起こって新設計画が暗礁に。そんなことが各地で相次いでいるという。そんなことを思い出したのも、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」が6日伝えたドイツの保育園事情を見たからである。それによるとドイツでは、広場や保育園での子どもの声は騒音でない、と法律に定められているとのこと

 ▼このため住民ともめることも、建設を巡り反対運動が起こることもないそうだ。さすがに合理性を尊ぶ国は違うと感心していたら、実はドイツもかつては今の日本と同じ問題を抱えていたと聞き驚いた。その事態を打開するために法律が整備されたのだという。ただ法律をつくるとなるとハードルが高い。ではどうするか。騒音問題と真正面から向き合った長野県松本深志高校の取り組みが参考になるかもしれない

 ▼一女生徒の発案で、近隣住民と生徒、学校が誠実に話し合い結論を出す場「鼎談深志」を立ち上げたのである。この経過をまとめたドキュメントは、ことしのNHK杯全国高校放送コンテストで優勝したそうだ。大切なことはそれぞれが分かり合おうとする努力を惜しまないこと。騒音問題が逆に寛容な地域づくりに姿を変えた好例だろう。


ダークヒーロー

2017年10月17日 07時00分

 弱きを助け強きをくじく、勧善懲悪の物語が好きな人は多いのでないか。テレビドラマ『水戸黄門』(TBS)が連綿と続いていることでもそれが分かる

 ▼社会生活でため込んだうっ屈をヒーローに託し吐き出すわけだ。ほとんどのヒーローは日の光の下で堂々と活躍するが、中には既存の秩序にあえて背を向け自分なりのルールで悪を撃つダークヒーローもいる。米国の映画『ダーティーハリー』はその典型だろう。従来通りの正攻法では事態を打開できないとの閉塞(へいそく)感が強まれば強まるほど、ダークヒーローへの期待が高まりやすい。米国にいささか破天荒なドナルド・トランプ大統領が誕生したのも、そんな感情を抱いていた国民がかなりの数いたからに違いない

 ▼そのトランプ大統領だが、最近は国内政策の転換だけに飽き足らず、国際間の取り決めも次々と反故にし始めている。地球温暖化対策のパリ協定離脱、ユネスコ脱退ときて、今度はイラン核合意を破棄する意思を鮮明にしたという。トランプ大統領は公平や協調を旨とするオバマ氏の政治遺産がよほど嫌いなようだ。それを洗い流すかのように、政策の継続性や国同士の約束など顧みぬ独断で「米国第一主義」実現にまい進している。そのダーティーハリー張りの猛進に熱狂する国民も少なくないらしい

 ▼ただ気になるのは北朝鮮問題である。現段階での圧力強化は妥当に思えるが果たしてこの先、交渉時機を適切に見定められるのかどうか。一戦交えて悪しきをくじき、勧善懲悪の大団円に持ち込めるほど事態は単純でない。


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