コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 269

亡国の予感

2017年10月14日 09時02分

 小説家阿川弘之が随筆「亡国の予感」で、警世家でもある作家曽野綾子のエッセイを取り上げていた。新聞やテレビは当時、「経済的に国が亡びる」と騒いでいたが、阿川氏はその姿をうまく想像できずにいたらしい

 ▼この言葉を知ったのはそんなときだったそう。曽野さんは途上国での盗みの横行に触れ、「人間は堕落するのも早い。日本も経済の根本がゆらげば、すぐこういう泥棒国家になる」と指摘したそうだ。よく聞くことわざをもじっていえば「衣食足らざれば礼節も危うし」というところだろう。冒頭の随筆は月刊総合誌『文藝春秋』に連載していた巻頭文「葭の髄から」の一編。1998年10月号に掲載されたものである

 ▼それから20年。数字だけ見れば現在、国内景気は拡大を続けている。ただ、経済のゆがみは大きく進行しているのでないか。日本を代表する大企業の不祥事が続く。今度は神戸製鋼所の品質データ改ざんが発覚した。顧客をだまして利益を上げようとするなら泥棒と変わらない。主力の鉄鋼やアルミ、銅、鉄粉など多くの製品を取引先の強度基準に適合しないまま納入していた。管理職も関与して、何年間も組織的な不正に手を染めてきたらしい

 ▼製品は主要メーカーの基幹部品に使われていた。それだけに新幹線、航空機、自動車と余波はとどまるところを知らない。日本ブランドにも大きく傷が付いた。景気低迷に苦しんだいわゆる「失われた20年」は、大企業を泥棒に変えるまで衣食を奪ってしまったのか。二昔も前に書かれた「亡国の予感」に暗たんたる思いでいる。


どの弁当が好き?

2017年10月13日 07時00分

 衆院選挙戦真っただ中である。それにちなみきょうはご隠居、熊、与太郎3人の長屋政治談議をお聞かせしたい。ご隠居「おまえたち、もう決めたのかい」

 ▼与太郎「困っちゃうよ。俺うどんがいいから」。ご隠居「おいおい何の話だい」。与太郎「モリだカケだって叫んでるあれだろ。そばの好みくらいであんなに騒がなくても」。ご隠居「あれは野党が安倍首相を攻撃する決まり文句だよ。私が言うのは衆院選」。ご隠居「熊はどうだ」。熊「それがさっぱりよ。党が急にできたり消えたり一体どうなってんだ」。ご隠居「もっともな疑問だ。そうだな、ここに弁当があると思いな」。熊「よしきた」。ご隠居「民進党から和風のおかずを移して増量し、緑色で目を引かせたのが希望の党」

 ▼熊「なるほど」。ご隠居「で、残ってしまった中華をまとめたのが立憲民主党というわけだ」。与太郎「ほら見ろご隠居、弁当だなんてやっぱり昼飯の話じゃないか。俺はうどんがないなら米の飯をたらふく食いたい」。ご隠居「とんちんかんだが案外的を射てるかもしれん。要は何を食べたいかだ。定番の幕の内か、おかず使い回しのユリ弁当か、またはこてこての中華詰め合わせか」

 ▼熊「きのうの新聞に序盤は与党が優勢って出てたぜ。食い飽きてはきたけど幕の内にするか」。ご隠居「おいおい少しは自分の頭で考えな。時に与太郎は」。与太郎「おいらは飯が大盛りならそれでいい」。ご隠居「分かった分かった。一俵でも二俵でも好きなだけ食べな」。与太郎「二俵は食えねえ、一俵(一票)で十分だ」。


ならず者

2017年10月12日 07時00分

 江戸元禄期に人気を博した浄瑠璃作家近松門左衛門の「女殺油地獄」に、河内屋の次男与兵衛というならず者が出てくる。23歳になるのにろくに働きもせず、往来を歩いては人に因縁を付けたり、けんかを売ったり。わがままに育ったため思った通りにいかないとすぐにかんしゃくを起こして暴れ出す。ついには近所のおかみさんに借金を頼んだものの断られ、その腹いせに持っていた脇差しで殺してしまうのである。この浄瑠璃は享保6(1721)年5月4日に大阪の天満町で実際にあった油屋女房惨殺事件を近松が取材し、一編の台本に仕立て上げたらしい。『週刊誌記者 近松門左衛門』(文春新書)に教えられた

 ▼悲しいことにいつの時代にも、協調性を身に付けぬまま大人になり、狂犬のように振る舞う者がいるようだ。ことし6月、東名高速で相手の車を無理やり停車させ、夫婦2人の命を奪う多重事故を引き起こしたとして逮捕された25歳の男のニュースを聞きそのことを考えずにいられなかった。パーキングエリアの出口付近に迷惑駐車していた石橋和歩容疑者が、注意されて腹を立てたのが発端だという。夫婦の車を追い回し危険な目に遭わせた揚げ句、進路をふさいで停止させたため、そこに後続のトラックが突っ込んだ

 ▼同乗の子ども二人も重軽傷を負った。一人のならず者が仲良し家族の幸せな暮らしを一瞬にして壊してしまったのである。夫婦の無念、子どもたちの寂しさを思うと憤りを禁じえない。与兵衛のように処刑はされないが、ならず者の性根を断つ厳しい処分は必要だ。


二重権力

2017年10月11日 07時00分

ミャンマーのアウンサンスーチー氏は子どもや配偶者が外国籍の場合は国家元首になれないとの憲法上の制約から、大統領になることができなかった

 ▼苦肉の策として編み出したのが国家顧問を新設してそこに納まること。最高権力者であるはずの大統領を飾りとし、実質的な国の運営は何の法的裏付けもない国家顧問が行う形である。軍部との対立を避けるために仕方がなかったとはいえ二重権力の懸念は拭えない。二重権力は真の権力者が国民の目から見えないため政策決定過程が不透明になりやすい。国際的信望の厚いスーチー氏でさえ、少数民族ロヒンギャ迫害問題では情報が出てこないゆえに関与が疑われているくらいである

 ▼理想に燃える女性として共通するものがあるからか、最近、希望の党の小池百合子代表がスーチー氏と二重写しになって仕方ない。国政政党の代表でありながら国会議員にはならないというのだから、裏から国政を操ろうとしているのでは、との懸念が生まれても不思議はない。政界再編劇の大詰め、第48回衆院選がきのう公示された。展開の読めぬ政局は安手のドラマよりよほど見応えがある。立役者はやはり他党を解体、分裂に導きながら拡大し、与党勢力に次ぐ第2極を形成した希望の党だろう

 ▼代表たる小池氏の策が見事はまっている。ところが、だ。その肝心要の人が衆院選に出ないとなるとまた話は違ってくる。政権選択選挙で首相指名候補にできないのである。小池氏の狙いはどこにあるのか。選挙後は都政に専念というがどうも額面通りには受け取れない。


ノーベル文学賞にイシグロ氏

2017年10月07日 07時00分

 平安前期の歌人小野小町に一首がある。「花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに」。百人一首にも選ばれている和歌だからご存じの人も少なくないのでないか

 ▼まだ心行くまで見てもいないのに、春の長雨のせいで桜の花もすっかり色あせてしまったというのである。消えゆくものに「あはれ」を感じ取ったのだろう。寂しさや悲しさの中に普遍的な美を見いだす日本ならではの情感である。英国作家カズオ・イシグロ氏がことしのノーベル文学賞を受賞したそうだ。代表作『わたしを離さないで』(早川書房)を以前読んだことがあるが、全編を通じて消えゆく運命を持つ者に寄り添う「あはれ」に似た情感にあふれていた

 ▼この作品は患者への臓器移植のためだけに生み育てられた若者たちの、全寮制施設での短い人生の物語である。残酷な話だ。ただ、氏はそれを悲哀で覆い尽くしはしなかった。命の一瞬の輝きをたたえ、はかなさの中から永遠の価値を拾い上げてみせたのである。長崎市で日本人の両親の下に生まれた氏は、父親の赴任に伴い5歳の時英国に移住したという。受賞後、自宅前で取材陣のインタビューに応じているのをニュースで見たが、「ものの見方や世界観は日本の影響を受けている」と語っていた。日本の記憶は薄れても、その感性まで失いはしなかったらしい

 ▼毎年取り沙汰される村上春樹氏はことしも受賞を逃し、皮肉にも盟友で日本の普遍的価値が作風に溶け込んだイシグロ氏が栄誉を勝ち得た。これは「あはれ」か、それとも「いとをかし」か。


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