コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 306

見て見ぬふりは

2017年01月13日 10時00分

 つい最近、心温まるニュースに触れた。埼玉新聞のWeb版で読んだのだが、同県行田市の女子高生が通学路に散乱していた大量の紙を一人で拾い集めたというのである

 ▼一度は通り過ぎたものの、「見て見ぬふりをして通り過ぎる自分を受け入れられず」戻ってきたそうだ。わざわざコンビニでごみ袋を買い、交通量の激しい道で車の切れ目を見つけながら懸命に回収を続けたという。なかなかできることではない。終わってみれば紙はごみ袋3袋、合計10㌔に達していたという。駆け付けた鴻巣署員が到着すると、安心したのか彼女の目から涙が落ちたそうだ。危険な場所にその量である。自分で始めたこととはいえ、大変な思いだったに違いない

 ▼見て見ぬふりをして通り過ぎないといえば、今時期の本道でよく繰り広げられる、雪で埋まった車の救助もそうだ。この女子高生ほどの勇気は必要としないが、当たり前の文化として助け合いが根付いている。つまりあすはわが身、お互いさまということだろう。安倍首相がおととい、昨年末大規模火災に遭った糸魚川市を訪れた。地域復興のため積極的にかかわる考えを表明したという。国として見て見ぬふりをすることはないとの宣言といえる

 ▼規模が大きいとはいえ、首相が自然災害でもない火災の対応に乗り出すのは珍しい。いずれにせよこの報を聞いてほっとしたのは現地の人ばかりでなかったろう。あすはわが身なのである。「見て見ぬふりはできない」。この国にそんな言葉が当たり前にあることの価値を、今更ながらかみしめている。


今季最強の寒気

2017年01月12日 09時55分

 たらいを日常生活で使っていたことがおありだろうか。当方は経験がないため、その道具名を聞いてまず思い浮かべるのはザ・ドリフターズ主演の『8時だョ!全員集合』である

 ▼前半のコント部分で、毎回、頭の上に金だらいが落ちてくるお決まりの小ネタを見ていたせいだ。ドリフメンバーの絶妙な間と小気味の良い音で、分かっていてもつい笑ってしまったものである。毎週土曜日の夜が楽しみで仕方なかった。底の平たい独特な形が目に焼き付いているのはドリフのおかげというわけ。現在、日本列島を覆っている寒気がまさに、そのたらいのような形なんだとか

 ▼日本気象協会によると北日本の上空5000mに平年より5度低い氷点下36度の空気が流れ込んでいるそうだ。寒気は通常、点や線で動くため長く続かないが、今回はたらいの底のような大きな面でゆっくり移動しているため、厳しい寒さがしばらく居座るらしい。氷水でいっぱいのたらいが、体の上をゆっくり通り過ぎていくようなものか。きのうは札幌の大通を歩いていてもしばれで顔がこわばった。札幌は今季最低の氷点下9・2度だが、陸別は道内最低の同25・6度を記録したという。「頭の奥キーンと鳴れる寒さかな」水野美春。想像しただけで身が縮まる

 ▼寒気は2段構えで、西日本に勢力を広げて今週末、また次の底が来るらしい。ちょうどセンター試験である。暴風雪や大雪の予報だから、受験生はもちろん親御さんらも万全の備えをしておいた方がいいだろう。このたらいはドリフと違って笑い事では済まない。


日韓合意はどこへ

2017年01月11日 09時36分

 できることなら昔に戻ってやり直したい。誰もが一度は空想することではないか。ホラー作家スティーヴン・キングは『11/22/63』(文藝春秋)でそれを描いて見せた

 ▼過去へつながる穴を知った主人公の男が1963年に起こったケネディ米大統領暗殺を阻止しようとする物語である。男は未来の知識を駆使して目的に迫るが、改変されまいとする歴史も次々と邪魔に入る。苦難の末、犯行現場に到着した男は…。結末を書くのは控えるが、キングはいわゆる時間のパラドックスを描いていた。つまり過去に手を加えると未来を大きく変えることになってしまうのである

 ▼面白い小説だが、これが現実となると厄介なこと極まりない。というのも、韓国がまた反日という過去へつながる穴に入り込もうとしているのである。どうやら1年前の慰安婦問題をめぐる日韓合意をなかったことにしたいらしい。次期大統領選の候補者はそろって合意への批判を始めた。国家間の正式な約束だったにもかかわらずである。とはいえこの韓国の動きには、驚くというより、やはりそうなったかと冷静に受け止めた人が多かったのでないか。当事者能力を失った韓国政府、日本総領事館前など増える「少女像」、抗議で大使を帰国させる日本政府、憤慨して反日気運を高める韓国民

 ▼どうやら韓国は周期的に昔に戻ってやり直したくなるらしいのだが、日本にしてみればいささか食傷気味である。キングは作品で、過去にこだわるだけでは幸せな未来が開けないと伝えていた。韓国もキングに学んでみてはどうか。


鍋の季節

2017年01月10日 09時55分

 こう寒さが厳しいと、恋しくなってくるのが鍋料理だろう。見た目の華やかさもさることながら、ぐつぐつ煮えた頃合いを見計らってふたを開けたときの、香りと湯気といったら。何とも幸せな気分にさせてくれるものではないか

 ▼肉と魚、野菜や豆腐。好みの食材を適当に切って鍋に入れ、しばらく煮れば出来上がりの簡単さも魅力である。とはいえ必ず出てきて単純なことを難しくする鍋奉行には少々閉口するが。鍋がこれほど愛されているのは、おいしいからだけではなさそうだ。練り物食品大手紀文のHPで近茶流宗家の柳原一成氏が解説していたのだが、歴史をたどれば土器とほぼ同時に誕生したという。つまり縄文期からあったわけで、もしかするとあの湯気が遺伝子に刻まれた記憶を呼び覚ますのかもしれぬ

 ▼その土地ならではの食材と結び付き、独自の食文化と郷土意識を形づくっている点も見逃せない。秋田なら米できりたんぽ鍋、広島ならカキで土手鍋、本道ならサケで石狩鍋が代表格だろう。家族でも、友人でも、同僚でも、一つの鍋を分け合って食べれば親近感が増す。「大鍋を囲んでみたき夜がある」五島治人。昨今は一人鍋も多くなってきたと聞くが、やはりわいわい大勢で囲む方がしっくりくるのではないか

 ▼そういう鍋が人々の生きる力になった時代もあったのである。鍋一つ抱えて開墾に入った北海道開拓民がそうだ。あれこれ書き連ねていたら紙数が尽きてきた。続きは今晩あたり、皆さんそれぞれで鍋をつつきながらどうぞ。今週末もかなり冷え込むらしいから。


寒の入り

2017年01月06日 09時45分

 朝起き出して素足で板の間を歩くと、足裏を刺す氷のような冷たさに思わず声が漏れる。「うわあ」「冷てー」。時にはつい、「全くふざけてもらっちゃ困る。きょうはしばれすぎじゃないか」なんて、誰にともなくぶつぶつ文句を言ってみたりして。きっと覚えのある人は多いだろう

 ▼「寒の入り多くなりけり独り言」(加藤容子)というわけである。きのうは小寒で寒の入り。これから節分までが一年で最も寒い。新年を迎える準備だ、お年玉だと年末年始の出費がかさみ、家計や懐が一年で最も寒くなるのも正月明けのこの時期かもしれない。しばらくは厳しいやりくりに、つい独り言も増えてしまうのでないか

 ▼ところで寒中暖ありではないが、最近、大いに景気のいい話もあった。4日の東京株式市場大発会で、日経平均株価が1万9594円と、1年1カ月ぶりの高値を付けたというのである。ただ、これも企業と株主にはいいお年玉となったが、デフレに体力を奪われた庶民には遠い世界の出来事か。安倍首相が今、最も関心を寄せているのが、まさにそのデフレという寒に入ったままの日本経済だろう。年頭の会見で「本年も経済最優先、デフレ脱却に向けて金融政策、財政政策、成長戦略の三本の矢を撃ち続ける」と語っていた

 ▼インフラ整備や雇用など経済再生に重点を置く2017年度予算政府案も決まり、20日から通常国会が始まる。経済効果を最大にするには早期の成立と執行が欠かせない。つい文句を言いたくなるような、お寒い国会茶番劇などないと期待はしているが、さて。


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