コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 322

仮説独り歩き

2016年09月07日 10時02分

 ▼ビジネスを成功させるには、行き当たりばったり進むより、まず仮説を立ててから始める方が良いと聞いたことがある。0から1や2を作ることは難しいが、1を修正して2にすることは比較的容易だからだという。仮の答えを携え、あっちにぶつかり、こっちにつまずきしながら本当の答えに迫っていくのである。風呂に入っただけで新発見できた古代ギリシャの天才もいたが、凡人には望むべくもない。

 ▼仮説の手法はビジネスにとどまらない。日常生活から国際交渉まで幅広く応用できる。ところが、それが全く通用しないのが北朝鮮の動きである。今度は日本の排他的経済水域に、3発のミサイルを相次いで撃ち込んだ。5日正午頃のことという。折しも中国で主要20カ国・地域首脳会議が開かれているさなかのこと。中国の面目は丸つぶれである。日中や中韓関係の改善に対するやっかみ、米国への示威行動との見方もあるが、どれも仮説の域を出ない。一体何を考えているのやら。

 ▼北朝鮮つまり金正恩氏ということだが、その伝えられ方はいつも「~との観測もある」「~かもしれない」とあやふやだ。材料が極端に少ないため、仮説が検証されないまま独り歩きするのである。そうして恐怖心ばかりが肥大していく。駅に置かれた不審な紙袋のようなものだ。毒物や爆弾が入っていると想像すればうかつに手は出せない。まあ実際に中をのぞいたら、いるのは弱みを見せたくなくて殊更強がっているだけの人間かもしれないが。おっと、また「かもしれない」だ。


日ロ首脳会談

2016年09月06日 09時51分

 ▼第2次世界大戦が終わって71年が過ぎた。ほぼ人の一生分に当たる年月である。決して短い間とはいえない。ただし一つの問題を解決するには全く十分でなかったようだ。「柘榴の実ざくりと割れて忘却かそれとも風化北方領土」(沼野勇)。以前目にした歌だが、この71年という年月は北方領土問題を、「忘れる」から「関心なし」へ、そして「知らない」に変えてしまった。時の流れとは無情なものだ。

 ▼近年、ロシアは外交パイプが細るのをいいことに、実効支配を強めてきた。問題が風化せぬよう大声を出しているのは新党大地代表の鈴木宗男氏だけのような気さえしたものだ。まあ、もともと声の大きな人だが。そんな中で届いた朗報といえるのではないか。安倍晋三首相が2日、ウラジオストクでプーチン大統領と会い、ことし12月に日本で首脳会談を開くことが決まったという。招く側が言うことでないのは承知しているが、まさかプーチン氏が手土産なしで来るとも思えない。

 ▼日ロ双方にはそれぞれ事情がある。ロシアは経済制裁の影響から抜け出したい。日本は中国をけん制したい。もちろん裏表なしに経済強力のメリットも大きいはず。日本での安倍・プーチン会談は、国民の北方領土に対する意識を、「知らない」から再び「知っている」に、そして「関心がある」「忘れず解決しなければならない」へと変えていくきっかけになろう。現地で見ると北方領土は驚くほど近い。領土返還のためには実際の距離以上に国民の気持ちを四島に近付けなければ。


正体見たり

2016年09月03日 09時10分

 ▼誰もが一度は経験があるのではないか。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のことである。怖いと思うとただのススキさえお化けに見えてしまう。星新一の短編SFにも「夜の会話」の話があった。男がハイウエーを走っているとき宇宙人に会うのだが、話しているうちにそれは思念の産物だったと判明するのである。「怖いもの見たさ」とも言う。見たい気持ちが募ると「それ」は目の前に現れるものらしい。

 ▼なぜそんなことを考えたかといえば、海外のあるニュースに触れたからである。米国のCNNが8月30日、ウェブで伝えたのだが、ロシアの天体望遠鏡が地球から約94光年離れた恒星系から発信されたとみられる「非常に強い信号」を捉えたというのだ。もし人工的な信号なら人類を超える技術を持った文明が発したことになるという。この広い宇宙のどこか、地球以外の星に知的生命体が存在する可能性が出てきたのである。天文ファンならずとも大いに胸躍るニュースではないか。

 ▼こうなると続報が待ち遠しい。それがもたらされたのはこの1日。意外と早かった。再びCNNが伝えたが、ざっくり言うとこういうことである。謎の信号は地球外生命体が発信したものでなく、おそらく地球に由来するものらしい…。旧ソ連時代にも、同国軍事衛星の信号を同様に検知した例があったそう。何のことはない、地球外生命体を熱望するあまり、正体不明の信号に、すわメッセージかと早合点したわけ。やれやれ科学が進む現代、枯れ尾花の正体は幽霊に限らぬようだ。


概算要求

2016年09月02日 14時07分

 ▼長田弘さんが人生の深い味わいを詩に託した作品集『食卓一期一会』(晶文社)に、「アレクシス・ゾルバのスープ」がある。ゾルバが旅人にこう話すのだ。「ある奴ァ食いものを贅肉にする。ある奴ァ食いものを魂に変えちまう。まったく高くつく食いかたをする奴がいる。食いものは上機嫌に変えなくっちゃいけねえ」。同じ食べ物を、栄養にする人もいれば、足かせにする人もいるということだろう。

 ▼そう言われると視線を落とし、突き出た腹をしみじみ眺めながら納得する御仁もいるのではないか。ところで、結果が考え方や行いに左右されるのは、何も食べ物の話に限らない。お金についても全く同じことが言える。つい先日、本道のインフラ整備を賄う2017年度の開発予算概算要求が公表になった。事業費にすると前年度当初比17.3%増の7658億円だという。毎年のことながら、中身にはなかなか見応えがある。肝心なのは、どれだけしっかり栄養にできるかである。

 ▼本年度始まった北海道総合開発計画は「世界水準の価値創造空間」の形成をビジョンに掲げている。主要な柱は食と観光だ。新鮮でおいしい食と広大で豊かな自然は道民の自慢。総意を結集するにふさわしい目標だろう。概算要求でも農業や空港など、食・観光分野に重点を置いている。ただ今回の台風では、図らずもその後ろ盾となる交通インフラのもろさが露呈した。ぜい肉はいらない。道民が力を発揮できる強靱(きょうじん)な体の北海道。それを作る予算にすることである。


台風相次ぐ

2016年09月01日 10時07分

 ▼先月、本道は手痛い集中攻撃を受けた。ほかでもない台風の話である。1カ月に上陸と通過・接近合わせて6回にも上ったのは過去に例がないという。「泣き面」に、ハチが何匹も続けざまに襲ってきたようなものだ。休むことなく繰り返される攻撃に、各地とも防戦一方で傷は癒える間もない。「台風の通りし後はゴジラ道」(田崎茂子)。8月の最後に接近した10号も、まさにそんな被害をもたらした。

 ▼豪雨で空知川や札内川の堤防が決壊。他にも多くの河川が氾濫し街は濁流に飲み込まれた。道路は冠水や崩壊による通行止めが相次ぎ、道南では強風が吹き荒れ屋根が飛ぶ被害まであったそうだ。JRや航空便にも大きな影響が出た。きょう1日は「防災の日」。この前後に台風災害が多いとされる厄日の「二百十日」でもある。そんな厄日の約束など、果たされなくても一向に構わないのだが…。自然のなすこととはいえ、ここまでくると天を見上げて恨み言の一つも言いたくなる。

 ▼開発局や道などは一連の被害をまとめていたが、この10号でそれはさらに膨らむ。高橋はるみ知事は近く、国に激甚災害の指定を要望するようだ。決まれば復旧にも弾みがつこう。今災害では生活の基盤を失った人も多い。磯田道史国際日本文化研究センター准教授は『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)に、「失うつらさのなかから未来の光を生みださねば」と書いていた。この前例のない台風集中を教訓に、より安全な地域づくりを進めていくのがわれわれの責務である。


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