コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 325

台風7号

2016年08月18日 10時04分

 ▼落語では決まった時期になると、貧乏長屋の住民たちのところに必ず顔を出す招かれざる客が登場する。お分かりとは思うが、借金取りである。とはいえそんな職業があるわけもなく、時に大家だったり仕入れ先だったり、酒屋だったりする訳だが。「掛け取り漫才」という噺では、全く支払う気のない亭主が借金取りたちを趣味の話に誘導し、上機嫌にして次々と帰してしまう。なかなか才に長けている。

 ▼とはいえあまり来なくなると、「たまに借金取りの顔を見ないと調子が出ない」なんて、かえって気になったりもするらしい。ところで、ことしは台風の襲来も随分と少ないようだ。何せ昨年は8月末時点で既に16個も発生していたのに、今回はまだ台風7号なのである。もっともこちらは取り立てでなくいらぬ暴風雨をもたらすもの。ひとたび猛威を振るえば被害や影響が出ること必至だ。顔を見ないに越したことはないが異常気象が続く昨今、少な過ぎるのも妙に気掛かりである。

 ▼台風7号は温帯低気圧に変わっても、きょういっぱい厳重な警戒が必要だ。道東と道南の太平洋側が勢力の中心とはいえ、大気が不安定なため道内全域で突風や集中豪雨、落雷、土砂災害などの懸念がある。特に屋外で従事する人は、くれぐれも油断なきよう願いたい。招かれざる客だが渇水に苦しむ関東地方にとっては、水がめとなるダムへの恵みの雨と期待されていたと聞く。落語の亭主ではないがうまく調子を合わせて被害を小さく抑え、早々にお帰りいただくのが一番だろう。


終戦記念日

2016年08月13日 09時40分

 ▼次々と訪れる困難に立ち向かう、けなげなヒロインを応援せずにはいられない。そんな気持ちでNHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」を、毎日楽しみに見ている。作り話にそんな感情移入してどうする、と言うなかれ。多少の演出はあるにせよ、今も発行が続く雑誌『暮しの手帖』を創刊した大橋鎮子さんをモデルにしたドラマなのである。昭和23(1948)年創刊だから、まだ戦後の混乱期だった。

 ▼大橋さんはその第一号のあとがきにこう記している。「はげしい風のふく日に、その風のふく方へ、一心に息をつめて歩いてゆくような、お互いに、生きてゆくのが命がけの明け暮れがつづいています」。さらっとした文章だが「生きてゆくのが命がけ」とは何とすさまじい表現か。もっとも、戦後の困窮を経験していない者が読むからそう思うので、当時の人々からすれば「そうそう」と共感できる事実だったのだろう。食糧難の上、着る物も住む所も満足にはなかった時代である。

 ▼そんな過去を知るとデフレから抜け出していないとはいえ、豊かな現代に暮らす幸せを感じないわけにいかない。この豊かさの理由は幾つかあろうが、平和が長く続いたことも大きな一つである。ことしも終戦記念日が近付いてきた。平和歴71年といえばもはやベテラン。周辺には軍事的野心を持つ国もあるが、日本は培ってきた知恵と経験で難局を乗り越えていきたいものだ。終戦記念日をまた1周年からやり直し、「生きてゆくのが命がけ」になることなど誰も望まないのだから。


「山の日」に

2016年08月11日 10時20分

 ▼温泉教授として知られる洞爺湖町出身の松田忠徳氏は、身も心も癒やし「深い精神的な安らぎと心地よさ」をもたらしてくれる日本の温泉の効用を、「温泉力」と呼んでいるそうだ。『黒川温泉 観光経営講座』(光文社新書)に教えられた。日本人なら「温泉力」の存在に疑いを持つ人などいないだろう。文字通り肌身で理解している。特に冬、雪を見ながら露天風呂に漬かるあの気持ち良さといったら。

 ▼きょうはことしから国民の祝日となった「山の日」である。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」日だという。山に親しむのはもちろんだが、恩恵といえば温泉を忘れるわけにはいかぬと思った次第。さかのぼれば古事記や日本書紀にまで湯治の記述があるというから、日本人の温泉好きは歴史的にも裏付けがある。文学の舞台に温泉が多く使われているのも当然のこと。夏目漱石もそんな愛好家の一人だったようで、「二百十日」など、作品にはたびたび温泉が出てくる。

 ▼温泉といえば北海道を抜きには語れない。環境省の2015年版環境統計集によると、温泉地数は北海道が249カ所で第1位。その他にも一般には知られていない自然の中の野天風呂がどれだけあることか。筆者もかつてヌプントムラウシ温泉で河原を掘って湯船をこしらえ、野趣あふれる入浴を堪能したことがあった。そうした山の恵みが身近にあるのも北海道のいいところ。「温泉力」が相当高いということだろう。さて盆も何かと忙しい。まずは温泉に力をもらうとしようか。


スポーツの秋

2016年08月10日 09時10分

 ▼治安や政情に不安を抱えたまま開幕したリオ五輪だが、競技が始まればそんなことは忘れ日本選手の活躍に胸を熱くする毎日である。スポーツの祭典に松本可奈子さんの詩「なみだ」を思い出す。「わたしがなくとき/心の中でおまつりがあります/たいこがたくさんあって/そのたいこを/神様がおもいっきりたたくのです」。神様ならぬ選手がたたく挑戦の太鼓に、われわれの涙腺も緩みっ放しである。

 ▼こだわらないと言いながら気になってしまうのがメダルの獲得数だろう。それが9日までに金3個、銅7個である。絶好の滑り出しといっていい。内村航平選手率いる体操男子団体は3大会ぶり、柔道は大野将平選手が2大会ぶりに日本に金をもたらした。快挙である。金と銅二つのメダルを同時に獲得した競泳男子400m個人メドレーも圧巻だった。日本時間で夜から早朝にかけて競技が行われるため、寝不足もいとわずテレビの前で声をからしている人も少なくないのでないか。

 ▼ウェイトリフティング女子で銅の三宅宏実選手が競技後、バーベルに頬ずりした姿にも胸を打たれた。さぞ苦しい道のりだったのだろう。五輪に限らず最近はスポーツの話題に事欠かない。米大リーグのイチロー選手はついに3000本安打を達成した。道産子としてはプロ野球日本ハムファイターズとサッカーJ2コンサドーレ札幌が快進撃を続けているのもうれしい。高校野球の本道代表は12日が初戦。さて立秋も過ぎた。どうやらことしは実り豊かなスポーツの秋になりそうだ。


象徴とお務め

2016年08月09日 09時38分

 ▼子どものころは全く意味が分からなかった。「象徴天皇」のことである。最初に学んだのはおそらく、日本国憲法でだったろう。第1章が「天皇」である。その第1条にこうあった。「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」。まあ、子どもに理解できる文章ではない。たとえ大人が読んだとしても一知半解といったところでないか。

 ▼天皇陛下のこれまでのお務めは、象徴天皇というものの姿を、国民に分かりやすく示そうとしてなされてきたことだったそうだ。きのう、「象徴としてのお務めについての陛下のおことば」がビデオメッセージとして公表された。この中で陛下は、「国民の安寧と幸せを祈ること」と同時に「人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えてきました」と述べられた。だからこそ自ら各地に足を運び、国民と触れ合うことで信頼を築き上げてきたのだ。

 ▼被災地や先の大戦の激戦地を訪れているのも国民の気持ちに寄り添っているからだろう。そのお務めなしには象徴天皇もないとの強い自覚があったようだ。今回の「おことば」は、高齢や健康上の理由から「全身全霊をもって」お務めができなくなることに懸念を表明したものという。「生前退位」の文言こそ使ってはいないが、憲法第1条を順守するための最善の方法について、国民にも考えてほしいということに違いない。簡単な問題ではないが、ねぎらいの答えを出せるといい。


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