コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 326

縄張り意識

2016年08月06日 09時50分

 ▼ムツゴロウさんの愛称で知られる動物研究家の畑正憲氏は、著書『自然界の建築家たち』(ミサワホーム総合研究所)で、カモメの縄張り争いに触れている。「ナワバリを守ることによって、オスはいよいよオスらしくなってくる。一家の主人として、それから長く続く闘いに耐えていく自覚が生じているかのよう」。攻撃はかなり激しいらしい。読んでいてカモメでなく北朝鮮の金正恩氏が思い浮かんだ。

 ▼氏も必死になって力を誇示し、周りを脅し続けなければ、縄張りというべき自らの権力基盤を保てないと考えているのでないか。3日にも日本海に向け「ノドン」とみられる弾道ミサイルを撃ち込んだ。弾頭が着水したのは日本の排他的経済水域内だったという。ミサイル発射はことしに入って急に回数が増え、何やら切迫したものさえ感じる。縄張りが危険にさらされているとの恐れが募っているのだろう。国際社会の包囲網もさることながら、政権内の暗闘も激烈なのではないか。

 ▼ともあれ強引に進める核兵器開発とも相まって、周辺国の安全が脅かされているのは確かなこと。日本ではきょう6日の広島、9日の長崎と原爆慰霊の日が続く。毎年この日を機に多くの人が核兵器なき世界の実現を願うが、そんな日本のすぐ隣に、時代に逆行して核兵器保有に突き進む国が出現するとは皮肉なものだ。しかも自国民の幸せは顧みず、共産主義の名の下に恐怖政治を敷く国である。やれやれ、カモメでもあるまいに、知恵で勝負すればいいものをいつまでも武力とは。


食料自給率

2016年08月05日 09時44分

 ▼農林水産省が今週の初めに、2015年度の食料自給率(カロリーベース)を発表していた。6年連続で39%だったという。数字で「サンキュー」が続いているわけだが、この低さでは感謝する気にもならぬ。1965年度には73%あったことを思うと、何とも頼りない数字である。食生活の変化で自給率の高いコメの消費が減り、資料や原料を海外に依存する畜産物や油脂などの消費が増えたためらしい。

 ▼そういえば、と思い出したことがあった。いつも手元に置いている短歌選集の中の、現代歌人の作品を読んでいたときのことなのだが、例えば―「生没年不詳の人のごとく坐しパン食みてをり海をながめて」(大塚寅彦)、「砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている」(俵万智)。パン食を織り込んだこんな歌は割合によく目にするのだが、米食に触れたものはあまり見当たらないのだ。時代の空気に敏感な歌人のことだから、きっと変化を読み取っているのだろう。

 ▼ところで農水省は都道府県別の自給率も出していた。2014年度の概算値だが本道は208%と堂々の第1位。秋田190%、山形141%がこれに続く。ちなみに東京は1%しかない。これではTPPで、食料のほぼ全てを外部に頼る東京と、高い供給能力を誇る本道に温度差があるのも当然だろう。秋の臨時国会はそのTPPが主要議題になる。担当は都知事選で深手を負った石原伸晃大臣だ。内閣改造で留任したものの、歌人のような鋭い時代の読みは期待できるのかどうか。


経済波及効果

2016年08月04日 09時12分

 ▼マイナス金利時代に入り、銀行にお金を預けておいても一向に増えなくなった、とお嘆きの人は多いだろう。一般の預金が目減りすることはないが、金利だけはどんどん下がっていく。身近なところを見ると、北洋銀行と北海道銀行の普通預金金利は現在、共に0.001%である。つまり1000万円を1年間預けても100円の利息しか付かないということ。つくのは利の息でなくため息ばかりなのだ。

 ▼単純に比較できるものでないのは重々承知しているが、そこへいくと公的固定資本形成、いわゆる公共投資の経済波及効果は本道でも約1・8倍ある。要は1000億円の投資があったとすると、約1800億円の生産が誘発されるということだ。どうも世間には公共事業との言葉を聞くと拒否反応を起こし、「無駄遣い」「税金の浪費」などと批判する人もいるが、確かに実体経済を潤すものなのである。インフラとなって生活を豊かにし、給与となって消費を拡大するという具合。

 ▼今回、政府が決めた事業規模28・1兆円の経済対策の主題も「未来への投資」。インフラ整備に重点を置くという。実際、事業メニューを見るとリニア中央新幹線開業前倒しや大型クルーズ船対応港湾整備、防災強化などが並ぶ。このうち国と地方の財政支出分(真水)は7・5兆円とのこと。本道にも追加補正として、開発事業費で直轄と補助合わせ1000億円超の予算が配分されることになりそうだ。効果は銀行の金利並みとやゆされないよう、リターンの大きい投資にしたい。


時代劇都知事選

2016年08月03日 09時34分

 ▼天下人豊臣秀吉の甥に当たる関白豊臣秀次は、秀吉に謀反の疑いありとされて切腹を命じられ、京の三条河原でさらし首になった。世にいう秀次事件である。このとき、子どもや妻ら一族も同罪として全て処刑されたという。古代から封建制度の下で行われてきた、犯人の親族に連帯責任を負わせる「縁座」が適用されたのだ。ただこの制度、筋が通らぬと評判が悪く、江戸中期頃には既に制限されていた。

 ▼よもやこの平成の時代に、公序良俗に反するとして昔打ち捨てられたその「縁座」を見ることになろうとは思わなかった。自民党東京都連が今知事選を戦うに当たって所属議員らに出した文書「党紀の保持について」のことである。都民に限らず、あきれて開いた口がふさがらない人も多かったのでは。脅しまがいのこんな一文があったからだ。「各級議員(親族等含む)が、非推薦の候補を応援した場合は、党則並びに都連規約、賞罰規定に基づき、除名等の処分の対象となります」

 ▼処分をちらつかせて親族まで力づくで押さえつけようとの考え。おそらく自民党都連に熱烈な中世時代劇の愛好家がいて、「ええい、そのような不届き者は、一族郎党全て追放してしまえ」となったのでないか、と勝手に想像している。この影響も少しあったのかどうか、推薦した候補は敗れ、小池百合子氏が当選した。きのう、新知事が初登庁し小池都政が始まった。さて問題は都議会だ。日本中が注目していよう。まさか、悪代官が暗躍する古くさい時代劇にはならないと思うが。


さよならウルフ

2016年08月02日 09時39分

 ▼戊辰戦争最後の戦場となった箱館戦争で、幕府軍幹部として活躍した元新撰組副長土方歳三。その一生を描いた司馬遼太郎の作品に『燃えよ剣』(新潮文庫)がある。言葉よりも行動で示す人との印象が強いからか、小説ながら土方が自身を評価する「むしろ頽勢になればなるほど、土方歳三はつよくなる。本来、風に乗っている凧ではない。自力で飛んでいる鳥である」、とのくだりが記憶に残っていた。

 ▼久々にその一文を思い出したのは、ああ、あの人も窮地に追い込まれるたび必ず強くなって土俵に戻ってきてくれたなと、かつての雄姿が脳裏によみがえったからである。「ウルフ」の愛称で親しまれた元横綱千代の富士の九重親方が7月31日、膵臓(すいぞう)がんのため亡くなった。親方は福島町出身だ。訃報は折しも東京都知事選の当確が出た直後。都知事選の結果など頭から吹っ飛んでしまった道産子も多かったろう。昨年11月の北の湖前理事長に続いて、巨星がまた落ちた。

 ▼1981年に、第58代横綱に昇進した。在位59場所は北の湖に次ぐ歴代2位だという。幕内優勝は31回を数え、こちらは同3位。角界初の国民栄誉賞も受けている。そうそうたる記録だが、ファンの心に残っているのはそんな数字より、一番一番のひたむきな戦いぶりに違いない。小兵ながら巨漢力士に対し一歩も引かず、鋭い眼光で突っ込んでいった。苦しみ抜いた肩の脱臼は筋肉を鍛え上げることで乗り越えた。自力で飛ぶための勇気を教えてくれたわれらの真のヒーローである。


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