コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 328

ポケモンGO

2016年07月23日 09時30分

 ▼子どものころ、夏からの大きな楽しみの一つといえば虫捕りだった。ランドセルを家に放り投げ、友達と原っぱや林に向かう。草をかき分けてバッタを探し、止まっているトンボの目の前で指を回した。まれにオニヤンマなど捕まえるとしばらくは鼻高々だったものだ。「鍬形虫執念の子にみつけられ」(井上厚明)の句もあるが、クワガタは成虫でなく、幼虫を掘り出して育てることにも面白味があった。

 ▼アナログとデジタルの違いはあるがそれと同じ感覚なのでないか。ポケモン捕りならぬ、「ポケモンGO(ゴー)」の話である。スマートフォンに映った実際の風景に合成映像のポケモンが現れ、それにボールを当てて「ゲット」(捕獲)するゲームだという。日本国内でもきのうからアプリの配信が始まったそうだ。これまでテレビやゲーム機の中でしか会えなかったポケモンが、スマホ画面を通してとはいえ現実世界に出現するのだから、ポケモン世代が熱狂するのもうなずける。

 ▼一方で問題も起きている。米国や欧州ではゲームに夢中になった若者が、危険地域に入ったり事故に遭ったりするケースが後を絶たないのだとか。崖から落ちた人までいるそうだ。ポケモンを手に入れるつもりが、逆に命や健康を手放すのではつまらない。昔も虫を捕まえようとして木から落ちることがあった。多くの虫をゲットしてきた昭和の子どもは夢中になることの危険を知る先輩である。子や孫にその経験と知恵をぜひ教えてあげてほしい。ただし、うるさがられない程度に。


機を見るに敏

2016年07月22日 09時28分

 ▼作家織田作之助は、明治期に大阪経済を復興に導いた五代友厚が無名であることに、我慢ならなかったらしい。1943年に、その生涯を描いた作品「大阪の指導者」(河出文庫『五代友厚』所収)を発表している。中に五代が成功するための心得を説く場面があった。「一歩先んじて進む者は成功し、後るる者は不遇を嘆つ。故に人は常に機を見るに敏なることを要する」。平素から公言していたそうだ。

 ▼この言葉を思い出したのは、ソフトバンクグループが18日、英半導体設計大手のARMホールディングスを買収すると発表したからである。買収金額約3・3兆円はことしのM&Aで世界3番目の規模という。いやはや庶民にはまるで想像もつかない。孫正義社長も「機を見るに敏」な人物だから、先を読んでかなりの勝算があると踏んだのだろう。ARMはあらゆるモノをインターネットとつなぐ「IoT」に積極投資していたとのこと。孫氏は新しいインフラに目を付けたわけだ。

 ▼ARMの名を今回初めて聞いたという人も多かったのでないか。筆者も全く知らなかった。ところが同社HPによると世界中のスマホに使われている半導体の実に95%を設計しているのだという。世の中の動きを見極め確実に先の時代のために布石を打っておく。なるほどソフトバンクが成長を続けられるゆえんだろう。さて、ビジネス界の大胆な挑戦は見た。次に見たいのは政府の挑戦である。経済対策は20兆円を超える規模との声も出てきた。「機を見るに敏」の実施を待ちたい。


トルコの苦境

2016年07月21日 09時37分

 ▼作家半藤一利氏は、著書『昭和史1926―1945』(平凡社)で日本陸軍の一部が暴発した二・二六事件のその後を分析している。最も適切な説明だと思うとして松本清張の『二・二六事件』(文芸春秋)を挙げ、重要な箇所をこう引用していた。事件以降「軍部は絶えず〝二・二六〟の再発をちらちらさせて政・財・言論界を脅迫した」。つまり軍が国民の恐怖をあおり実権掌握に利用したのである。

 ▼トルコで15日発生したクーデター未遂事件のその後の展開を見ていると、何やら二・二六事件後と同じ図式が出来上がりつつあるようで少々気味が悪い。エルドアン大統領はクーデターに関わったとされる者を片端から拘束し、厳罰に処すため死刑制度復活も辞さない構えだという。エルドアン氏はこれまでも意に染まない人物や言論、街頭デモを徹底して弾圧してきた。いわゆる強権型の指導者である。この5月にも大統領の権力強化に慎重だった首相を辞任に追い込んだばかりだ。

 ▼とはいえトルコが今かなり不安定な状態にあるのも事実。過激派組織「IS」が活動するイラクやシリアと国境を接しているためテロや紛争が絶えず、難民流入にも悩まされている。大統領が権力の集中を狙うのにはそんな背景もあろう。それでも人々の恐怖をてこに権力を強めるやり方は再び国内に騒乱の種をまくだけでないか。もちろんトルコ国民だってそんなことは分かっているはず。ただ分かっていても権力者からの弾圧におびえて口に出せないとすれば息苦しいことである。


現代禁酒番屋

2016年07月20日 09時16分

 ▼今も昔も三度の飯より酒が好きという人はいるようで。落語の「禁酒番屋」にもそんな人が出てくる。酒で不祥事を起こしたある藩が禁酒令を出し、家中に酒が入らないよう取り締まり所を設けた。それでも酒を飲みたい近藤氏は工夫して酒を届けるよう酒屋に頼む。店の者は最初に水カステラ、次には油と偽って番屋を通ろうとするがすぐにばれて大目玉を食う。悔しさのあまり酒屋は最後に…という噺。

 ▼落語にもあるくらいだから、江戸時代も飲酒を原因とする不祥事や事件は絶えなかったのだろう。藩も家来の不始末には苦労したようだ。残念ながら時代が進んでも酒がしばしば社会問題を引き起こす状況に変わりはない。大きな問題の一つは小樽や砂川であったような残酷な交通事故である。警察が現代版「禁酒番屋」といえる取り締まり検問をしなければならないのもそれ故だ。警察庁によるとことし5月末現在で、飲酒に絡む死亡交通事故が前年より11件多い91件発生している。

 ▼きょうで11日から実施されていた「夏の交通安全運動」が終わる。ただ、本道の行楽シーズンはこれからが本番だ。避暑や観光、夏季休暇、お盆、各種イベントなどで人の移動と交流が盛んになれば、酒を飲む機会も増えるだろう。折しもきょう20日からは、さっぽろ大通ビアガーデンも始まる。暑い日に冷たいビールの誘惑を退けるのは難しいが、対処は簡単である。飲んだら運転しない。それだけ。もし飲んで運転すれば、待っているのは落語のオチでなく人生からの転落である。


ウルトラマン

2016年07月16日 09時30分

 ▼巨大ヒーローが活躍する特撮テレビ番組『ウルトラマン』(TBS系)の第一回放送が1966年7月17日だったそうだから、あすでちょうど50年である。怪獣とウルトラマンの戦いに胸を熱くしていたかつての少年たちも、今や還暦前後だろう。当時、ヒーローが巨大化するテレビドラマは世界で初めてだったらしい。特撮技術や演出を一から考えねばならなかったというから、作る方は大変だったろう。

 ▼とはいえ見ている方も、次々と襲来して破壊の限りを尽くす怪獣にハラハラしているのだからある意味楽ではない。中でも記憶に残る怪獣はと問われて、「バルタン星人」と答える人はかなり多いのでないか。『ウルトラマン』第2話「侵略者を撃て」に登場するセミの顔とザリガニの手を持つ知性の高い怪獣である。ファンならこのバルタン星人が難民だったことを覚えているかもしれない。母星が爆発してしまったため新たな星を探しに出て、その途中で地球を見つけたのである。

 ▼バルタン星人は帰る星がない。科学特捜隊はまず対話を、一方の地球防衛軍は即時攻撃を提案する。この話、何だか最近の欧州の移民受け入れ派と排斥派の議論に似ていないか。国連難民高等弁務官事務所は6月、難民ら家を追われた人が2015年末で過去最高の6530万人に上ったと発表していた。人道問題を超えて欧州の安定を大きく揺るがせている。ウルトラマンは侵略者となったバルタン星人を倒すしかなかったが、50年後の今、世界はもっと優れた解決策を持てるはず。


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