▼子どものころ、夏からの大きな楽しみの一つといえば虫捕りだった。ランドセルを家に放り投げ、友達と原っぱや林に向かう。草をかき分けてバッタを探し、止まっているトンボの目の前で指を回した。まれにオニヤンマなど捕まえるとしばらくは鼻高々だったものだ。「鍬形虫執念の子にみつけられ」(井上厚明)の句もあるが、クワガタは成虫でなく、幼虫を掘り出して育てることにも面白味があった。
▼アナログとデジタルの違いはあるがそれと同じ感覚なのでないか。ポケモン捕りならぬ、「ポケモンGO(ゴー)」の話である。スマートフォンに映った実際の風景に合成映像のポケモンが現れ、それにボールを当てて「ゲット」(捕獲)するゲームだという。日本国内でもきのうからアプリの配信が始まったそうだ。これまでテレビやゲーム機の中でしか会えなかったポケモンが、スマホ画面を通してとはいえ現実世界に出現するのだから、ポケモン世代が熱狂するのもうなずける。
▼一方で問題も起きている。米国や欧州ではゲームに夢中になった若者が、危険地域に入ったり事故に遭ったりするケースが後を絶たないのだとか。崖から落ちた人までいるそうだ。ポケモンを手に入れるつもりが、逆に命や健康を手放すのではつまらない。昔も虫を捕まえようとして木から落ちることがあった。多くの虫をゲットしてきた昭和の子どもは夢中になることの危険を知る先輩である。子や孫にその経験と知恵をぜひ教えてあげてほしい。ただし、うるさがられない程度に。