コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 40

食品の値上げ

2022年09月05日 09時00分

 児童文学『クマのプーさん』で知られる英作家A・A・ミルンは、エッセーの名手でもあった。風刺とユーモアを織り込んで日常を描くのが得意だったらしい

 ▼その一つに「昼食」という話がある。主張は「食べ物は会話の話題としては天候よりも新鮮で面白い」。なぜかというと食べ物の好みは人によって大きく違うため、熱っぽく議論を戦わせることができるからだという。逆に意見が一致すると親密の度が増す。確かにその通り。〝主食はパンか米飯か〟〝焼き鳥は塩に決まってる〟〝ホヤが好きな君とは良い友だちになれそう〟。食べ物のことだと小さな話題にもつい熱が入る。誰にでも関係する値段の話ならなおさら黙ってはいられまい

 ▼今月は生活に身近な多くの食品で値上げが予定されている。報道によるとメーカーによって幅はあるものの、例えば家庭用のマーガリンやチーズ、スナックやチョコレートなどのお菓子類、コーヒー、ハムは3―20%程度値上げされるそうだ。たまったものではない。1品当たりは数十円でも、毎日のことだ。まとまればすぐに数千円、数万円の負担増になる。ボディブローを食らい続けたボクサーのようなもので、気がついたら膝から崩れ落ちているかもしれない

 ▼値段は変えずに中身の量を減らす商品も少なくない。新型コロナやウクライナ情勢で原材料価格や燃料費が上がっているからだと理解してはいるが、こう値上げばかり続くと家計がもたない人だって出てこよう。スーパーで小さくなったちくわをじっと眺めている人を見ると、思わず親近感が湧く。


電力自由化の今

2022年09月02日 09時00分

 自由という言葉には、どこか心引かれるものがある。小説家国木田独歩も「自由は飲んで尽くることなき希望の泉を予想せしむ」と言ったとか。束縛を受けず、伸び伸びとした状態を思い描くからだろうか

 ▼ただ自由といってもいろいろある。思想や言論の自由のような政治的なものから、貿易や価格といった経済的なものまで。特に戦後は自由化といえば物やサービスの値下げを意味した。心引かれないわけがない。自由化は経済のグローバル化が招いた自然の成り行き。多くの場合、競争原理が働き市場の活性化にもつながった。もちろん消費者も得になることなら、もろ手を挙げ大歓迎である。ところが元々の制度設計に無理があると、自由の裏に隠されていた現実が突然牙をむく

 ▼電力自由化を機に導入された格安の「自由料金」が、従来型の「規制料金」より高くなる可能性が出てきたのである。北海道電力が、燃料費の上昇分を料金に転嫁できる上限を廃止すると発表した。ことし12月分から適用する。これまで上限を超えた分は電力会社の持ち出しだった。これ以上燃料費の高騰が続くと、経営が傾きかねない。この際、利用者に負担願おうというのだ。自由料金の自由とは価格変動の自由だったわけ

 ▼自前の発電設備を持たずに市場から電力を仕入れていた新電力も、昨今の卸価格高騰で相次ぎ経営難に陥っている。自由化により電力を市場原理に任せた結果、今や本来旨とすべき安定供給に必要なはずの責任は曖昧だ。「自由とは責任を意味する」。作家バーナード・ショーの言葉が重く響く。


糸の切れたたこ

2022年09月01日 09時00分

 いったん手を離したが最後、どこへ行ってしまうものやら見当もつかない。そんな行先定めぬ行動をよく「糸の切れたたこみたい」と表現する。子どものころ遊びに行くと暗くなるまで戻らず、「全くお前は家を出て行ったら出て行ったきりで糸の切れたたこみたいだ」と親に叱られた人もいるのでないか

 ▼たまに台風にもそんな厄介なものがある。本道に大きな被害をもたらした2016年の台風10号がそうだった。日本から遠い北太平洋で発生した10号は西進して房総半島に接近し、列島に沿って沖縄まで到達。ところがそこからほぼ180度進路を変えて北上し、大型で強い勢力を保ったまま本道をかすめたのだ

 ▼沖縄の南海上を今うろついている猛烈な台風11号も、同じ「糸の切れたたこみたいな」迷走タイプらしい。のろのろと西進した後、2日ころから急に北へ進路を変えるとみられている。動きが非常にゆっくりなため、沖縄本島や南大東島周辺はしばらく暴風と大雨に見舞われる危険な状態が続く。「雨戸閉め全身耳の二百十日」山本香代子。きょうは台風など災害への警戒を呼び掛ける二百十日。二百二十日とともに農家では昔から厄日とされてきた。その真っただ中を通過する11号である。もし列島縦断の進路をとるようなら、相当な被害が予想される

 ▼16年は8月17日からの1週間で本道に3つの台風が上陸。29日に接近した10号が追い打ちを掛けた。集中豪雨で十勝川や石狩川水系の河川が数多く氾濫し、甚大な被害を出している。今回も「糸の切れたたこ」の動きには十分注意したい。


イカキングの勝利

2022年08月31日 09時00分

 人気商品を生み出すデザイン会社のノウハウをひもとく『発想する会社!』(早川書房)に、店に多くの客を集めるためのこんなヒントが記されていた。「目標は店舗をより素敵にすることではない。買い物という経験をよりすばらしいものにすることだ」

 ▼示されている例の一つは米国シアトルの、ある魚市場だ。そこでは客がサーモンを注文すると、店員の一人が5㌔もの魚を6mほど先の別の店員に放り投げる。アメリカンフットボールさながらガッチリ魚を受け止めた店員は、箱詰めにして客に商品を渡す。見事な離れ技に店内の人々は皆大喜び。必然性のない行為に当初は批判もあったようだが、始めてから市場の売り上げは大幅に伸びたという

 ▼目標を明確に定め、またとない経験を提供したことが成功につながった。こちらも同じだろう。石川県能登町が昨年4月、観光交流施設「イカの駅つくモール」に設置した巨大イカ像「イカキング」の話である。制作費を上回る経済効果が現れているそうだ。全長13m、高さ4mというから大型トラックくらいある。新型コロナ交付金2700万円で作ったため内外から批判も浴びたが、町は収束後も見据えた観光振興が目標と説明してきた

 ▼狙いは当たり客は引きも切らず。町がきのう経済効果を発表。県内波及額は6億円、宣伝効果は18億円に上った。先の本は教える。「オフィスにこもっていては、よりすばらしい経験を提供するためのアイデアなど得られない」。オフィスにこもって文句を言う外野に負けず、地域資源を生かした町の勝利である。


縁食

2022年08月29日 09時00分

 本道出身の小説家小路幸也さんの人気作『東京バンドワゴン』(集英社)シリーズは、東京の下町で古本屋を営む大家族堀田家の周りで起こるいろいろな出来事を人情味たっぷりに描く

 ▼作品で毎回必ず描かれる名物場面に、大きな食卓を皆で囲んでの食事風景がある。そこでは家族の予定から近所のうわさ、抱えている問題、果ては「焼海苔にかけちまったぜソース」といった嘆きまで、さまざまな話題が飛び交う。それもこれも家訓に〈食事は家族揃って賑やかに行うべし〉とあるためで、家族一同それを楽しく実践しているのである。かつては当たり前にあったものの、核家族が多い現代ではなかなか見られなくなった風景だろう

 ▼今は逆に「孤食」化が進んでいるとされる。その名の通り一人ぼっちで食べることだが、形は一様でない。近頃は全員が一つ屋根の下に暮らしていても、仕事や塾、趣味などで時間が合わず、食事はそれぞれ別に取る家庭も増えた。1人暮らしの若者や高齢者はもちろんである。気楽な一面はあるものの、精神的に孤立を深めることも少なくない。藤原辰史京大准教授はそんな孤食と大勢での食事の間を埋めるものとして「縁食」を提唱してきた。子ども食堂や炊き出しなど人々が緩やかにつながる食事形態である

 ▼ところがコロナ禍で真っ先に動きを止められたのがこの縁食だったという。気軽に集まれないのだからどうしようもない。逃げ場を求めていた人、かろうじて孤立を免れていた人が行き場を失った。縁をつなぐ最後のとりでまで壊す。なんと悪質なウイルスか。


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