コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 234

潜伏キリシタンが世界遺産に

2018年07月03日 07時00分

 徳川幕府のキリシタンに対する弾圧は苛烈極まりないものだったという。幕府が直轄領に禁教令を出した慶長17(1612)年頃の様子を田中貢太郎が小説に書いている。その名も「切支丹転び」

 ▼それによるとまず疑わしい者を全て捕縛し、こもで巻いて河原に山積みにする。そうしておいて鉄棒で激しく殴り、改宗の意志ある者は「転がれ」と脅したそうだ。転がらなかった信者には、火あぶりの刑が待っていた。江戸時代とはいえなぜそこまで残酷なことを、と考えるのが今なら自然だろう。島原の乱に関する論考もある坂口安吾はこの辺の事情について『安吾新日本地理』で、弾圧は当然の帰結と説いている

 ▼天下を取ったばかりの家康は、支配の妨げになりそうなものは全て排除した。徳川ではなく神に信を置くキリスト教もその一つ。故に「論争もいらん。理由も不要。ただ断乎たる禁令と、その徹底的な実施あるのみ」と断を下した。これでは「信者は地下にくぐらざるを得ん」。安吾の結論である。以来200年以上、徳川の目をかいくぐって信仰を伝えてきた人々の歴史を伝える「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が、世界文化遺産に登録されることが決まったそうだ

 ▼信者は寺社に聖画を置いたり貝殻を聖母に見立てたり、独自の信仰形態を生み育ててきた。12構成資産のうち大浦天主堂と原城跡を除く10遺産が集落というのも珍しい。それだけ生活に根差していたわけだ。ちなみに家康の霊廟・日光東照宮も1999年に世界文化遺産登録されている。文化とはなかなか奥深い。


全国安全週間始まる

2018年07月02日 07時00分

 調査のため潜入した「宇宙人ジョーンズ」がいろいろな職業を経験しながら地球の内情を探る、サントリー缶コーヒー「BOSS」の物語風CMがある

 ▼最近たまたまラジオで流れているのを聴いたら、今度は工事現場の監督になっていた。事故を防ぐためには妥協を許さず、厳しく部下を教育する監督との設定である。安全意識の徹底を図るには、実際の現場にもこうしてたゆまず安全を訴え続ける指導者が必要だ。繰り返し啓発する意味で指導者と同じ役割を期待されているのが標語だろう。本紙もゼロ災達成の一助になればと〈建設安全標語コンクール〉を毎年実施している。今回の最優秀作は「思いこみ だろう作業が 事故のもと」。ただ選には漏れた標語にも優れた作品は多い。幾つか紹介してみよう

 ▼「みんなで決めた ルールを守れ 勝手に決めるな マイルール」。手前勝手は禁物。法令順守が大原則である。「『つもり』が積り 崩れる安全 確かな確認 心がけ」。安全は確かな基礎の上に。「追い込み時期の時間外 疲労のピークが 事故の元」。週休2日の導入も進む。健康と時間の管理はしっかりと。「ベテランも 青葉のマーク 心には」。ベテランこそ初心を忘れず

 ▼「『あぶない』と思う気持ちを 声にして!」。口に出して伝えるその声が仲間の命を救う。「事故は一瞬、悩むは一生、危険を予知してゼロ災職場」。後悔先に立たずである。万全の備えで日々現場に臨みたい。きのう、第91回全国安全週間が始まった。本道もそろそろ工事最盛期。ことしもどうかご安全に。


党首討論

2018年06月29日 07時00分

 禅を修業する者たちが室町時代から連綿と編み続けてきた語録『禅林句集』に「龍吟雲起虎嘯風生」の言葉がある。「龍吟じて雲起こり、虎うそぶきて風生ず」と読む

 ▼中国の古典に元となる一節があるそうだ。「龍」と「虎」ときたらすぐにけんかが始まり、全て破壊してしまいそうだがこの句にそんな意味はない。諸説あるものの「それぞれがそれぞれを相伴うことによって一層その勢いを増す様」を表すという。つまり「龍」が雲、「虎」が風を伴うことでますます勢いを増し、互いに刺激し合うことで両雄並び立つ存在になるわけだ。人も同じこと。大きな器量を持った二人の禅者が相まみえれば、より高い境地に達することができるのである

 ▼おとといの党首討論もそんな高みを目指す議論になればいい、と期待したが肩すかしを食った。枝野立憲民主党代表ら野党5党首も安倍首相も、これまで何度も聞いたような話を一方的に主張するばかり。どうやら今の国会には「龍」も「虎」もいないとみえる。野党5党首も舌鋒(ぜっぽう)だけは相変わらず鋭かった。ただ内容に新味がないため勢いはつかず、風も雲もまるで起きない。揚げ句、途中から党首演説になってしまった枝野代表は安倍首相に、「党首討論の歴史的使命は終わった。まさにそう思う」と前回の自身の発言を混ぜっ返される始末

 ▼もっとも、これが首相の真意なら考え直すべきだろう。国政の最重要課題を、優れた議論で国民に分かりやすく伝えられるのが党首討論の意義である。わけの分からぬ「禅問答」に興じる場ではない。


富山の発砲事件

2018年06月28日 07時00分

 小学校の耐震化工事を安全、円滑に進めるため、警備員が出入り口付近で人や車両を誘導している―。本紙の読者にとってはなじみのある風景でないか。まさかそんな現場で白昼、惨劇が起きるとは

 ▼富山市久方町の交番で、警察官が刃物を持った若い男に拳銃を奪われた事件のことである。最初に刺された富山中央署奥田交番所長の稲泉健一警部補と、奪われた拳銃で撃たれた警備員の中村信一さんが犠牲になった。何と荒っぽい犯行だろう。逮捕されたのは元自衛官でアルバイト店員の島津慧大容疑者(21)。交番の裏口から押し入って稲泉所長をめった刺しにし、拳銃を強奪したその足ですぐ斜め前にある奥田小に向かったらしい

 ▼交番で何があったかは知る由もなかったろうが、中村さんは警備員として不審者の侵入を止めようとしたに違いない。正門付近で発砲を受け倒れていたそうだ。もし中村さんがいなかったら被害はもっと大きく深刻だったかもしれない。昼間のことゆえ学校にはまだ児童がいた。今月は若者による異様な犯罪が相次ぐ。9日に新幹線で3人を殺傷した22歳の男、19日に小4の男児に重傷を負わせた18歳の男、そして26日である。いずれも心のタガが外れたように、憎しみと暴力性をそのまま他者にぶつけているようなところが気に掛かる

 ▼新幹線でも今回の事件でも、結果としてごく普通の人たちが身をていして被害を小さくした。命が助かれば良かったのは言うまでもない。本人や遺族にとっては美談も空しいだけだろう。ただやはり、彼らの勇気には深く敬意を表したい。


はやぶさ2がリュウグウに

2018年06月27日 07時00分

 山塊の奥にある頂を目指して登山を始めるとき、麓からは大抵その山の姿が見えていない。しばらくは眺めのない森の中を行く。「青葉より青葉へ入る登山靴」(堂本ヒロ子)といった風情である

 ▼途中、見晴台と呼ばれる所に出てやっと遠くに目当ての山を望む。ただそこからではまだ青くかすみ、形も明瞭でない。岩を抱いた山頂の表情がはっきり見えるのは、あと300mほどの地点まで迫ってようやくだろう。その先、頂上直下で心臓破りのきつい登りが待っていると分かっていても、目の前に山頂を捉えた喜びに心は浮き立つ。自然、気合も入ろうというものである。それと似たような感覚なのかもしれない

 ▼自分が向かっているわけでもないのに、「はやぶさ2」が目的の小惑星「リュウグウ」まであと少しの所まで迫ったと聞き、ワクワクする気持ちを抑えられずにいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東大などが24日に撮影したリュウグウの鮮明な画像を公開した。約40㌔離れた地点という。タイやヒラメが舞い踊る姿はないものの、表面が岩でゴツゴツし、クレーターもあるのがはっきり確認できる。目的地も見えぬまま闇の中を3億㌔も飛び続け、とうとうここまで到達した

 ▼今の速度は秒速2cmというから、きょうには約20㌔の位置に来る。大したものだ。とはいえここからがまた難しい。最適な着陸地点を見極め、惑星表面を破壊して内部の物質を地球に持ち帰るのが使命である。まだまだ幾つも山を越えねばならない。再び地球を見る所まで戻ってやっと8合目くらいだろうか。


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