コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 233

7月豪雨

2018年07月10日 00時00分

 西日本を中心に5日から降り続いた雨で各地に甚大な浸水被害が出ている映像をニュースで見て、東日本大震災で町が津波にのみ込まれる場面の記憶がよみがえった

 ▼九州から中国、四国、近畿とこれだけ広範囲に数日間、豪雨が集中すれば被害は津波と変わるところがない。ただ水は海でなく空から来るため、より頻繁で予測も立てにくく対応は難しい。さらに山や急傾斜地に落ちた雨は土砂崩れとなり集落を襲う。政府はきのう午前、今回の「7月豪雨」による死者が87人、心肺停止が13人、行方・安否不明が83人と発表した。残念なことだがきょうには数が変わっているだろう。被災した地域の方々の心痛はいかばかりか。お見舞い申し上げる

 ▼貴い人命が失われたばかりでない。家屋の損壊や農作物への影響、インフラの破壊も深刻である。こちらも全容判明には時間がかかりそうだ。それにしても今回の降り方は尋常でない。温暖化の影響なのだろうが、ここ20年ほどで雨は津波と見まごうほどになった。同種の災害が起こるたび思い知らされるのは、この変化に社会が追い付いていない事実である。極端な言い方になるが防災の国土づくり、まちづくりの基本構造が昭和のままなのでないか。山間の集落しかり、宅地開発しかり

 ▼最も懸念されるのが治水事業である。近年は回復傾向にあるが、公共事業悪玉論を受けてやはり20年近く前から予算が削られ続けた。これは地方から水防の知識や技術を持つ人が失われたことをも意味する。水害大国日本は今、大きな曲がり角に来ているのかもしれない。


麻原死刑囚らに死刑執行

2018年07月07日 07時00分

 20年ほど前のことだが、現場で一体何が起きていたのか知りたいと思い、村上春樹氏の『アンダーグラウンド』(講談社)を読んだ。1995年3月20日にオウム真理教が犯した地下鉄サリン事件の被害者ら60人から、当時の状況を詳細に聞き取った記録である

 ▼印象に残ったのは少なからぬ人が「自分がこんな目に遭わねばならなかった理由」を問うていたこと。人は理不尽な目に遭うとそこに意味を見つけたがる。この事件がいかに常軌を逸していたかを示すものだろう。車両内でサリンの袋をじかに拾い上げた地下鉄職員の男性が言っていた。「犯人は死刑になって当然だと思います。死刑廃止論もあるけれども、あれだけのことをやったんですからね」。彼は同僚を二人失っている

 ▼29人が犠牲となったオウム真理教による一連の事件を、教祖として首謀した麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚の刑がきのう執行された。共犯者同日執行の慣例通り、早川紀代秀ら6人の死刑囚の刑も各拘置所で行われたという。明るみに出た事件だけでも89(平成元)年の坂本堤弁護士一家殺害、94年の松本サリン散布、そして95年の地下鉄サリンといずれも凶悪。一区切りがつくまで平成の30年を丸々費やしたことになる

 ▼今回の執行には賛否議論もあるが、現行の法体系の下では当然の帰結だろう。ただ残念なのは松本死刑囚がついに被害者や遺族の「なぜ自分がこんな目に」の疑問に答えなかったことである。裁判では幹部に責任を押し付け、途中からはだんまりを決め込んだ。その卑劣さこそ真相と断ずるしかない。


文科省の悪代官

2018年07月06日 07時00分

 子どものころから「ザ・ドリフターズ」(ドリフ)を見て育ってきたせいか越後屋と聞くと悪代官がすぐ目に浮かぶ。そんな人、案外多いのでないか

 ▼志村けん扮(ふん)する悪代官に越後屋役の加藤茶が意味ありげに菓子折りを差し出す。悪代官はにやりと笑い「お前もワルよのう」。ふたを開けてみると中身は本当に菓子。裏返しても小判は出てこない。越後屋が自信満々に言う。「甘いものがお好きだそうで」。「たわけ者めが!」。悪代官が怒りだす、という流れである。当時、いわゆるゴールデンタイムのテレビ時代劇は勧善懲悪ものが主流。ドリフはその裏取引の部分を面白おかしく取り上げていたのである

 ▼このニュースを聞きまず思い浮かんだのが本家時代劇でなくドリフのコントだった。現役の文部科学省科学技術・学術政策局長が受託収賄容疑で逮捕された事件である。佐野太容疑者は息子を東京医大に合格させてもらう見返りとして、私大支援事業に同大が選ばれるよう便宜を図ったという。まさに絵に描いたような裏取引である。菓子折りにはお金でなく佐野容疑者の一番欲しかったものが入れられていたわけだ。しかも大学側に供与した支援は自分のでなく、文科省の懐から出した。事実とすればあまりにばかばかしい話だがコントと違って少しも笑えない

 ▼文科省は昨年も組織的な天下りが明らかになり関係者が処分されたばかり。こちらも補助や助成を交換条件にしたいわば裏取引だろう。文科省には悪代官しかいないのか。庶民の側から一言申し上げたい。「たわけ者めが!」。


悩ましい雨

2018年07月05日 07時00分

 本道が時ならぬ大雨に見舞われている。きのうまでの雨で石狩川や雨竜川などが氾濫して一部住宅地が浸水。各地で法面崩壊や路肩決壊も相次いだ。水田や畑の浸水も広範囲に及んでいる

 ▼うんざりしている人も多かろう。おととし8月のひどい台風被害の記憶もまだ消えぬうちである。居座る停滞前線の仕業だが、きょうは台風7号崩れの温帯低気圧が本道に近付き大雨に一層の拍車を掛けるという。油断できない。7月にこんな降り方をするのも珍しい。思えば先月も随分と雨が多かった。札幌管区気象台によると札幌で平年の3倍、函館で1・9倍、旭川で2倍の降水量を記録している。ことしは雨の当たり年なのかもしれない。天の恵みとはいえ、お手柔らかに願いたいものだ

 ▼本道のことはもちろん心配である。ただ、多くの人は今、その「大雨降るな」の願いをタイ北部の町にも向けているのではないか。13人の少年らが遭難しているタムルアン洞窟から脱出するには雨が最大の障害になるからである。行方不明から10日余り。大雨による増水でふさがれた洞窟での生存はほぼ絶望視されていた。それが全員無事だったのである。こんなうれしいことはない。すぐにも助けたいがそう簡単ではないようだ

 ▼少年らがいる地点まで約4・7㌔。所々で水が行く手を阻む。洞窟救助専門のダイバーがやっと抜けた箇所を、練習するとはいえ少年らが通れるか。さらに大雨が来れば避難場所がなくなる可能性もある。悩ましい雨だ。少年と捜索隊が頑張っている間だけでも降らずにいてくれればいいのだが。


高齢化社会の企業対応

2018年07月04日 07時00分

 生命保険各社が保険金の請求漏れを減らす取り組みに本腰を入れているそうだ。2日付の読売新聞が伝えていた

 ▼改善のきっかけとなった出来事を覚えている人も少なくないだろう。高齢者が亡くなったとき、請求がないのをいいことに不払いを続け、金融庁から行政処分を受けた事件である。2005年のことだがほぼ全ての会社に、誠実さに欠け契約にも反するケースが多数あるとの実態が明るみに出たのだった。黙っていれば丸もうけ。そんな業界体質が当時、強く批判された。以来請求漏れを防ぐ方法が各種講じられてきたのである。ただ高齢化は進む一方。各社の努力にもかかわらず確認作業が難航し、適切に支払えないケースも後を絶たない

 ▼そんな事態を打開するため、ここらで一層顧客本位のきめ細やかなサポートを打ち出す必要があったようだ。各社HPを見ても、その辺を丁寧に説明している例が多い。ところでこの読売記事を読みながら思い浮かべていたのは、実は生保でなくNHKだった。最近、「亡くなって何年もたつ母宛に、NHKから多額の受信料の督促状が届いた」との話題がネットで物議を醸しているのを知っていたからである。これを書き込んだ人がNHKに問い合わせると、返ってきたのは複雑な手続きと冷たい対応だったという。ネットではNHKへの不満が渦巻いていた

 ▼ネットのことゆえ話をそのまま信じるわけにはいかない。それでも高齢者のこうしたケースが今後さらに増えるのは確実だろう。NHKも生保並みの顧客サポートをと望むのは無理なのだろうか。


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