コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 238

神戸のいじめ調査メモ隠蔽

2018年06月05日 07時00分

 今回の第一生命「サラリーマン川柳全国ベスト10」第2位はこんな作品だった。「『ちがうだろ!』妻が言うならそうだろう」

 ▼あの店へ行くにはここを右に曲がった方が早いのだが、妻が左と言うのだからそういうことにしておこう―。夫のそんな心のつぶやきが聞こえそうだ。逆らったら後が怖い、夫婦の間に波風を立てたくない、理由はいろいろあろうがこれぞ家庭円満の極意。共感する人も多いのではないか。夫と妻ならかろうじて笑い話にもできるが、現実社会ではこうしたいびつな力関係が良識を破壊してしまう例も少なくない。日本ではよくありがちな事態だろう。最近話題の大学運動部員と監督をはじめ、部下と上司、出入り業者と取引先の幹部など上げればきりがない

 ▼最近明らかになった神戸市立中学校の女子生徒いじめ自殺調査メモ隠蔽(いんぺい)問題もどうやら同じ。こちらは神戸市教育委員会の首席指導主事が「出すな」と言い、校長が「主事が言うならそうだろう」と従ったらしい。調査メモとは2016年10月に生徒が自殺した直後、教師が同級生6人から聞き取りをした文書のこと。存在は知られていたものの、遺族の求めに校長は一貫して「記録として残していない」と主張していた。その裏には主事からの指示があったというわけだ

 ▼主事のこの隠蔽理由を聞いてさらにあきれた。「事務処理が煩雑になるから」。生徒が亡くなっているのに主事は事なかれ主義で校長は言われるがまま。その上、教職員に口止めまでしていた。こんな身内円満の極意に誰が共感できよう。


笑いはがんに効く

2018年06月04日 07時00分

 貧乏長屋に口うるさい大家、そそっかしい若旦那にしっかり者のおかみ。落語ではおなじみの登場人物である。皆少々変わっているが憎めない。どこか人間の本質をついた部分があるからだろう

 ▼私事で恐縮だが小学生の時、親にねだって買ってもらった本が分厚い講談社文庫の『古典落語』(興津要編)だった。学校で嫌なことがあっても、貧乏長屋の熊さんや与太郎を眺めていればすぐに気分が良くなったものだ。人間について学べ、気持ちも明るくなるのだからこんな有意義な娯楽もない。そんなわけで、落語をはじめとする「笑い」の効用はよく分かっていたつもりである。ただ、それががんに対抗する力になると聞いたときには最後にオチがあるのではと疑ってしまった

 ▼ところが事実だという。「大阪国際がんセンター」が先頃、「笑い」ががん患者の免疫力を高めるとの研究結果を発表したのである。吉本興業や松竹芸能の協力を得て、桂文枝さんらの落語や漫才を隔週で患者に見てもらったそうだ。何が起きたか。がんを攻撃する免疫細胞「NK細胞」が有意に増加したのである。中には最大で1・3倍になった人もいたらしい。同時に抑うつや痛みが改善する傾向も見られたというから、まさに笑いが止まらない状態だろう

 ▼「笑いは人の薬」のことわざもあるくらいである。笑いが健康にいいことは古くから多くの人に知られていた。研究はそれががんにも適用できることを医学的に証明したわけだ。そのうち病院で落語の本やDVDが処方されるようになるかも、なんて想像すると笑える。


党首討論

2018年06月01日 07時00分

 越後国を統一した戦国武将上杉謙信に言葉がある。「我は兵を以て戦ひを決せん。塩を以て敵を屈せしむる事をせじ」。武田信玄の領国が塩不足で苦しんでいるのを知り、敵方にも関わらず塩を送って助けたときに語ったことという

 ▼よく使われる「敵に塩を送る」の元となった逸話である。相手を弱らせてから攻めるような姑息(こそく)な策略を嫌い、いつも正々堂々、真っ向勝負を貫き通した名将謙信らしい。その謙信と肩を並べるとまで褒めるつもりはないが、おととい、1年半ぶりに行われた党首討論での玉木雄一郎国民民主党共同代表の正々堂々とした戦いぶりには大いに見るべきところがあった

 ▼安倍首相を困惑させることはできても多くの国民には関係のない「モリカケ問題」はあえて避け、現下の重要課題である外交にテーマを絞ってきた。政権攻撃でなく、国の基本政策に視点を移したのは責任政党を意識してのことだろう。他の党がモリカケに終始する中で玉木氏の討論はひときわ映えた。失礼ながら選挙互助会のような設立経緯から国民民主には注目する気も起きずにいた。ところがである。玉木氏は日ロ交渉について、共同経済活動ばかり先行し領土返還が進展していない点を指摘。日米貿易問題では、同盟国でも首相はトランプ氏に「言うべきことは言わなければ」と強く行動を求めた

 ▼国会は本来、こうして建設的な議論を重ねながら国政を前へ進めていく場である。国民が期待しているのも姑息なだまし討ちや兵糧攻めなどでなく、与野党が知恵で真っ向勝負することだろう。


6月の北海道

2018年05月31日 07時00分

 早いものであすからもう6月である。そう考えただけで自然と心が浮き立ってくる人も少なくないのではないか。暑過ぎず寒過ぎず、梅雨とも無縁の爽やかな気候に楽しいイベントめじろ押し、おいしい農水産品の恵みも豊富な6月は快適さにおいて北海道でも屈指の時期だろう

 ▼いっそ独り占めにしたいくらいだが、それもまた偏狭な話。ここは落語「饅頭怖い」と同じ逆説の手法で、本道の魅力を紹介してみたい。まず1日に漁が解禁される道南のスルメイカだが食べない方がいい。透明で甘くパリパリの食感を一度経験すると普通のイカでは満足できなくなる。解放感が心地良いからといって屋外でビールを飲みながらジンギスカンをするのもご法度だ。家に帰りたくなくなってしまう

 ▼峠の雪も消え全道を車で回れるようになったが、スイーツ巡りだけは思いとどまるべき。各地に新鮮な牛乳で作った絶品のスイーツが数多くある。次から次へと食べたくなるはず。体重計に乗ってから後悔するのでは遅い。6日に開幕する「YOSAKOIソーラン祭り」は避けて通るのが無難だろう。踊り手の躍動感とソーラン節に胸を揺さぶられる。どれほど時間を奪われるか。山開きする十勝や大雪の山々を訪れたり、緑もえる釧路湿原をカヌーで下ったりするのも厳につつしみたい。まかり間違えば生き方を問い直す体験になってしまわないとも限らぬ

 ▼それでもいいなら6月の北海道はお薦めである。世界中からぜひおいでいただきたい。ただし二度と頭から離れなくなるから、それなりの覚悟はお忘れなく。


消費税10%へ

2018年05月30日 07時00分

 失業率と自殺者数との間に相関があるのはよく知られている。分かりやすいのは時系列グラフで、両者はほぼ並行して動く。それを語る上でしばしば例に出されるのが1998年である

 ▼この年、自殺者数が前年から一気に8000人増え、3万2000人に達した。20年前の話だが長く事業をしている人にとっては忘れられない年だろう。金融機関が相次いで破綻した97年の翌年。連鎖倒産が深刻だった時期である。本道経済を大混乱に陥れた拓銀破綻もこのころだ。金融機関の経営に乱脈融資など失敗があったことは論をまたない。ただ、過熱するバブルを抑えるための公定歩合引き上げや不動産融資の総量規制、危機発覚後の公的資金投入見送りといった政策の不手際が問題を広げ傷を大きくした側面も否めない

 ▼その結果がこの自殺者数の激増なのである。凶器のはずもない政策が間接的に人の命を奪うことになった実例だろう。そこで気になるのが来年10月に予定される消費税率10%への引き上げである。政府はおとといの経済財政諮問会議で「骨太の方針」骨子案を示し、税率引き上げに備えて思い切った財政出動を行う構えを見せた。いよいよか、の思いである

 ▼その差2%だがこれを小さいと考える人はあまりいないのでないか。消費税には真綿で首を絞めるようなところがある。必要な物さえ買い控えざるを得なくなるなら、やはり政策が命を奪うことにもなりかねない。財政出動も大切だが、負担が重荷にならないよう経済を確実に成長させていくことこそ政府がまず目指すべき方向だろう。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 日本仮設
  • web企画
  • オノデラ

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,623)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,460)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,091)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (932)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (773)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。