コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 250

一つのストーリー

2018年03月07日 07時00分

 もし自分がこんなつらい目に遭わされたら、どこまで耐えられるか分からない。2009年、冤罪(えんざい)で大阪地検特捜部に逮捕、起訴され、大阪拘置所で約半年勾留された元厚生労働事務次官村木厚子さんのことである

 ▼読売新聞の人物連載「時代の証言者」で5日まで村木さんが語り部を務めていた。なすすべもなく犯罪者に仕立てられていくくだりを読み、鉛を飲んだような重たい気分にとらわれた次第。村木さんは検察の証拠を見て驚いたという。覚えのないことばかりだったからである。弁護士にはこう教えられたそうだ。「検事が勝手にストーリーを作って、そこからバーゲニング(交渉)が始まるんだ」。その間マスコミは村木さんを犯罪者と見立てて過熱し、悪徳官僚許さずの世論を形づくっていく

 ▼村木さんの連載にことさら関心が向いたのは、このところそれとよく似た構図を見せられていたためだろう。マスコミが「関係者の話で分かった」と連日伝えるリニア談合事件のことである。2日には逮捕者も出たが捜査は進行中。なのに細部を含む談合内容が一つのストーリーとして報道されるのはどうしてだろう

 ▼元検事の郷原信郎弁護士は自身のブログで「この事件は『独禁法違反の犯罪』で刑事責任を問うような事件ではない」と断言。ゼネコンの技術力を前提とする難易度の高い民間プロジェクトでは事前協議や情報交換があってもおかしくないとしていた。いずれにせよ本件は裁判に持ち込まれよう。「関係者」もいたずらに世論を誘導するのは控えた方がいいのではないか。


冬山で遊ぶなら

2018年03月06日 07時00分

 冬の遊びと問われて真っ先に思い浮かべるのは何だろう。雪国北海道の住民なら皆それぞれ好みのものがあるのではないか

 ▼子どものころということなら雪合戦や雪だるまづくり、築山でのそり遊びを挙げる人が多いに違いない。大人になってからであればスキーやスノーボード、登山、スノーモービルといった少々お金のかかる遊びを挙げる人が増えてこよう。冬ならではの遊びがあるのも本道の魅力の一つである。ただ、楽しむためには安全への配慮が欠かせない。冬の遊びは時に危険と隣り合わせになることがあるからだ。そのことをまた思い知らされる痛ましい出来事が、暴風雪で本道が大荒れとなった先週の1日に起きてしまった

 ▼趣味のシカ撃ちのため苫小牧市丸山の林道に入り立ち往生したNHK記者を救援するため、現地に向かったロードサービス会社の従業員筒井智寛さんが亡くなったのである。筒井さんは深い雪を懸命にこいで体力を著しく消耗。動けなくなった末、低体温症に陥ったらしい。なぜそんな悪天の日に趣味とはいえ林道へと疑問もわくが、これは一人NHK記者だけの問題ではない。近年、山岳地でスキーなどを楽しむバックカントリーや、ゲレンデ外の滑走で遭難するケースが多発しているのである

 ▼共通するのは冬山リスク無視。危険に対する感受性が鈍っているのではないか。冬の林道も山である。要請があれば救助隊は出動するが常に2次遭難の恐れは付きまとう。山で遊ぶ人は冷静にリスクを見積もる判断力が必要だ。自分ばかりか他の人まで危険にさらさぬため。


サツドラ

2018年03月05日 07時00分

 平昌五輪のカーリング女子で銅メダルを獲得した「LS北見」の司令塔藤沢五月選手は、チーム内で「サツドラ」と呼ばれることがあるそうだ

 ▼道産子にはおなじみの「サッポロドラッグストアー」を模した愛称である。アロマをたいたり薬を出したりと、「女子力」が高いことから「五月ドラッグ」略して「サツドラ」になったのだとか。日本テレビの情報番組『ZIP!』でメンバーが明かし、話題になっていた。会社説明会など採用活動が1日解禁され、2019年卒業予定学生の就職活動がいよいよ本格化の時期を迎える。そんな中、その本家「サツドラ」が始めた新しい採用方法「えらべる制度」が注目を集めているという

 ▼新卒一括採用を見直し、希望があれば大学1年生から採用面接を受けられるようにしたそうだ。優秀な学生には内定を出すこともあるらしい。学生にとっては選べる、企業にとっては選ばれる制度を目指したものだが、それだけ人材の確保が難しくなっている現実があるのだろう。それもそのはず。厚生労働省が2日発表した1月の有効求人倍率は、相変わらず1・59倍の高水準。本道と高知が共に1・26倍で一番低いのは気になるものの、それでも47都道府県全てで1・2倍を超えているのだからたいしたものだ

 ▼企業もあの手この手で魅力づくりを進め、それを伝える努力をしなければ、有望な人材は振り向いてもくれないご時世である。応募の少なさに悩みながらも実際にはどうしていいか分からない企業も多いのでないか。力ない「そだねー」の声が聞こえそうである。


ざんねんないきもの

2018年03月02日 07時00分

 生物進化の不思議を独自の切り口で紹介する児童書『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)が2月20日の増刷で100万部を突破したと知り、にわかに興味がわいた

 ▼この出版不況に児童書のミリオンセラーは極めて異例である。早速読むと実に面白い。題名の「ざんねん」は、見た目と違ったり、イメージを裏切られたりといった意外な一面を表す。ページを繰るたび、思わず「へー」と感嘆せずにはいられない。内容を少し紹介すると例えばこんな風である。ホッキョクグマといえば真っ白な毛をなびかせて氷原を走る姿がすぐ頭に浮かぶ。ところが「毛をそったらクロクマになるよ」。肌は黒いのだそうである。太陽の熱を効率よく吸収するためらしい

 ▼もう一つ挙げよう。体長6m、重さ1㌧にもなる巨大なイリエワニ。かむと小型トラックほどの力をかけられるが「口を開く力はおじいちゃんの握力に負ける」。開く力は30㌔しかないため片手で押さえ込めるのだという。なるほど「ざんねん」である。さて「ざんねん」といえば人間だって相当なもの。この時期よくある風景を借り、その生態を描写してみたい。職場に新人が配属された。見るからに快活で優秀な若者である。早速上司が指導を始めたが、程なくこう思い始める。「返事だけはいいが動きが遅い。十言ってやっと二分かる。残念なのが来たな」

 ▼一方の新人はこう。「人の話を聞かない上に説明も下手。残念な上司に当たってしまった…」。人間の「ざんねん」をまとめようとすると百科事典ほどになろう。きっと全く売れないが。


きょうから本道大荒れ

2018年03月01日 07時00分

 きょうから本道の天気は大荒れのようだ。年度末3月といえば仕事の追い込み、異動、子や孫の卒業や入学準備とただでさえ慌ただしいのにその初っぱなからこれである

 ▼「雪しまく天に戦ひあるごとし」(濱佐文)。「雪しまく」とは雪を伴って激しい風が吹くさまをいうが、札幌管区気象台によると、ちょうどこの句のごとき状況が予想されるため十分な警戒が必要という。天の戦いになど巻き込まれては大変だ。きょうは主に太平洋側で大量に湿った重たい雪が降り、あすは日本海側や太平洋側西部で暴風雪、その他の地域でも暴風となる見込みなのだそう。この時期の低気圧は暖気にエネルギーを得て、強力に発達することがあるためたちが悪い

 ▼車内での一酸化炭素中毒や低体温症で、9人もの命が失われた2013年3月2日から3日にかけての暴風雪災害のことを、何度でも思い出す必要があろう。あの時と同様、今回の低気圧も道東地方に大きな影響をもたらしかねない。油断も楽観も禁物である。気を抜けないのは他の地域も同じである。今冬の特徴の一つは局地的な大雪。幌加内町では一時、積雪深324cmに達し道内最高記録を更新した。「大雪の底に生き延びゐたりけり」伊藤玉枝。住民はまさにそんな心境だったのでないか。渡島・桧山地方も慣れぬ大雪にずいぶん悩まされたと聞く

 ▼この積もりに積もった雪が今度は、低気圧による雨や暖気で雪崩や河川の氾濫、浸水といった災害を呼び寄せる。どこに危険が潜んでいるか分からない。慌ただしくとも無理だけはしないことである。


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