コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 320

夕暮れ時は

2016年09月22日 09時40分

 ▼現代短歌の旗手、穂村弘さんに夕暮れ時を歌ったこんな作品がある。「校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け」。暮れ始めた校庭でふと目を上に向けると、空全体に燃えるような夕焼けが広がっていたのかもしれない。そんな美しい光景に思わず息をのむことは、誰にでもあるのでないか。ところがこの夕暮れ時、いわゆる薄暮時は車を運転する者にとって「魔の時間帯」ともいわれている。

 ▼徐々に暗くなっていくため視力と認識に差ができるらしい。はっきり見えるほど明るくはないのに、運転者はまだ見えるから大丈夫だと思っているのである。ヘッドライトがついていないことも多いため、歩行者も車に気付きにくい。筆者も運転していて、横断しようとする歩行者にヒヤリとしたことがある。透明人間が突然目の前で姿を現したように、「おいおい、一体どこから出てきた」となった。もちろん透明人間がいるわけもない。魔の時が視覚に影響を与えていたのだろう。

 ▼きょうは秋分の日である。「はなれゆく人をつつめり秋の暮」(山上樹実雄)。昼が夜に変わるまでの時間はますます短く、いま歩いていた人の姿もすぐに見えなくなる。交通事故の危険性が高まる時期だ。注意を促そうと、きのう、秋の全国交通安全運動が始まった。「透明人間」になりがちな子どもと老人の事故防止が重点だそう。歩行者らが危険を察知しやすいよう、運転者には早め点灯と適切なハイビーム使用を求めている。光で「魔」をはらおうというわけだ。励行したい。


こち亀終わる

2016年09月21日 09時09分

 ▼この口上を聞くと、どこかとぼけているが温かいあの笑顔を思い出さないわけにはいかない。「私、生れも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯使いました根っからの江戸っ子」。ご存じ松竹映画『男はつらいよ』の「寅さん」である。物語の中の人物だが、26年も続くシリーズともなれば、もし横町ですれ違ったとしても違和感はなかったろう。つらいときに元気をもらった人も、少なくないのではないか。

 ▼寅さんがいなくなって21年。その間も下町を拠点に大活躍していた葛飾のもう一人の人気者が最近、舞台を降りた。漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」で連載していた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(作・秋本治)の「両津勘吉」こと「両さん」である。1976年から17日発売号の最終話まで40年、一度の休載もなく続いてきた。突然の終了には驚いたが、作者によれば「不真面目でいい加減な両さんが40年間休まず勤務したので、この辺で有給休暇を与え」ようと思ったとのこと。

 ▼人並み外れた悪知恵と体力を持つ両さんが巻き起こす事件に、どれだけ笑わせてもらったことか。時折ある人情話も魅力の一つ。中でも両さんの子ども時代、女性臨時教員の見送りに東電千住火発の巨大煙突から感謝の垂れ幕を掲げる「おばけ煙突が消えた日」(89年)は名作だった。寅さん、そして両さん、常に元気をくれた下町のヒーローが去っていくのは寂しい。愛すべき不完全な人間と、それを包み込む世間のおおらかな雰囲気や下町の人情まで、どこかに消えていくようで。


傀儡がえし

2016年09月17日 09時50分

 ▼長編時代漫画『カムイ伝』で知られる白土三平の作品に、「傀儡(くぐつ)がえし」がある。「傀儡」とは操り人形のことで、人の心を自在に操って戦いを有利に進めるのが「傀儡の術」だ。甲賀の美女丸は任務遂行のため村の娘を「傀儡」に仕立てた後、術の本質についてこうつぶやいていた。「人を自分のつかいよいように作りかえるのさ」。物語では敵対する術者との息詰まるだまし合いが描かれる。

 ▼忍術といえば日本のお家芸だと思っていたら中国も負けてはいなかったようだ。国を挙げて他国に「傀儡の術」をかけていたらしい。時事通信が先日、伝えていた。聞くと中国政府と深い関わりを持つ中国企業が、オーストラリアの複数の政治家に多額の献金をしている実態が明らかになったのだとか。政策決定に中国の意向が反映されかねない、と憂慮する声が出ているそうだ。経費を肩代わりしてもらい、南シナ海問題で中国寄りの発言をする議員まで現れたというからあきれる。

 ▼なぜそんなことがといぶかる人もいよう。日本はもちろん米国、フランス、英国など民主主義国には外国人からの政治献金を禁止する法律がある。ところがオーストラリアにはそれがないそうだ。そこに中国が目を付けたらしい。それにしても金で他国の政治家に影響を与えるとは…。これまた時代劇だが、越後屋と悪代官のようではないか。白日の下にさらされれば、国際関係で最も大切な価値である信頼を失う。先の物語で甲賀の美女丸が身を滅ぼしたのも術への過信からだった。


雪だるま

2016年09月16日 09時49分

 ▼小さな雪玉を雪山の上から転がすとどんどん大きくなる。雪だるまを作るときにも使う方法だから、北国の住人なら誰でも経験のあることだろう。借金が知らぬ間に膨らんでいくことの例えとして、「雪だるま式に」との形容もあるくらいだ。このところの東京で次々起こる劇場型の出来事をはたから見ていると、そんな雪だるまが巨大になり、手が付けられなくなっていく風景が浮かんできて仕方がない。

 ▼まずは東京五輪の施設群である。とりわけ新国立競技場の選考は大もめにもめ、ついには選考自体を白紙にしてやり直した。ことしに入ると舛添要一前都知事が公私混同疑惑で辞職に追い込まれ、都知事選が行われることに。途中、「都議会のドン」なる人物も登場して観客をざわつかせたが、最後に都民の心をつかんだのは小池百合子氏だった。どれもこれもお祭りのような騒ぎ。やれやれこれで幕引きかと思いきや、今度は築地市場の豊洲移転で新たな地下空間問題が噴き出した。

 ▼どうやら東京都政劇場には終幕というものがないらしい。全国ネットのワイドショーや報道番組は連日、新市場地下に盛り土がないことを鬼の首でも取ったように伝えている。このドタバタを外から眺め、都民の皆さん少し勢いがつき過ぎてやしませんか、と眉をひそめている人も多いのでは。聞くと都の対応が稚拙なのは事実だが、新市場が機能・安全面で要求性能を満たしているか調べてから騒いでも遅くはなかったろう。まあ、雪だるまを作るのが好きな人たちに何を言っても。


最近の若者

2016年09月15日 10時19分

 ▼古代遺跡を発掘し、残されていた文字を苦労して解読してみると、「最近の若い者はまるでなっとらん」と書かれていた、というのは有名な笑い話である。いつの時代も年寄りと若者の間には深い川が流れているということか。年寄りも昔は若者だったはずなのだが。以前、第一生命のサラリーマン川柳でこんな作品を読んだ。「OA化結局なじめずOB化」(老兵)。やはり川を渡る時期はあるとみえる。

 ▼一方、2015年度の現代学生百人一首(東洋大学)では、「八人の思いをのせたロボットがその手を伸ばす夢を掴みに」(八戸工高3年 荒瀬将文)の作品を目にした。当時は夢物語だった鉄腕アトムのようなロボットが、もはや身近な存在なのだろう。現代の若者はインターネットやスマホもやすやすと使いこなす。そんな彼らの姿を横目で見ながら「最近の若者は」と批判し、殊更世代間の断絶を強調するのは無益なことだ。むしろ若者が力を発揮できる場を用意した方がいい。

 ▼政府が12日、GDP600兆円の目標を実現するため、「未来投資会議」の初会合を開いたと聞き、未来への投資とはつまり、子どもや若者のための投資だろうと考えた次第。柱の一つはIoTやロボット技術、人工知能を産業に活用していく「第4次産業革命」だそうだ。若者の得意分野で雇用の受け皿が増えれば、今の賃金格差や不安定な就労状況も改善されよう。会議成功の暁には若者が、遺跡ならぬWebに「最近の年寄りは超クール」と文字を打ち込んでいるかもしれない。


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