コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 321

リオパラ五輪

2016年09月14日 09時30分

 ▼素朴だけれど心に深く染み入る作品を数多く残した童謡詩人金子みすゞの一編に、「海とかもめ」があるのをご存じの人もいるのではないか。こう始まる。「海は青いとおもってた、かもめは白いと思ってた。/だのに、今見る、この海も、かもめの翅も、ねずみ色。/みな知ってるとおもってた、だけどもそれはうそでした」。くもりのない真っすぐな目でいつもの風景を見ていてふと気付いたのだろう。

 ▼みすゞほどの感性はないが、リオ・パラリンピックで躍動する選手たちの姿をテレビで見ていて、障害者と社会的弱者を「=」(イコール)で結んでいた自分の思い込みが、うそだったことに気付かされた。スポーツ用の義足を装着してトラックを走り抜ける陸上競技、相手が見えないまま戦う柔道、車いすでコートを駆け回るテニスやバスケットボール…。障害の程度によって細かくクラス分けされた種目の中で、選手たちは力を尽くし輝いていた。そこに弱者の影はみじんもない。

 ▼競技後のインタビューで、結果が満足のいくものであってもそうでなくても選手たちは必ず同じことを口にした。「諦めなければ夢はかなう」「頑張れば可能性は広げられる」。その言葉は障害のある人にもない人にも等しく向けられていたに違いない。相模原市の「津久井やまゆり園」が建て替えられることになったそうだ。入所者は新たな施設でまたそれぞれのパラリンピックを戦うことができるだろう。事件を起こした元職員も自らを呪縛するうそに、早く気付くといいのだが。


連続した警報

2016年09月13日 09時44分

 ▼きのうは本道のほぼ全域で青空を見ることができたようだ。久しぶりに穏やかな気持ちで一日を過ごせたという人も多いのでないか。「祝辞まづ祝ぎて台風一過かな」(松永恵子)。「台風一過」といえば悪天から解放され、晴れ晴れとした気分になることを表す言葉だが、ことしほどそれがしっくりこない年もない。一つ過ぎたと思ったらすぐに次、地面の乾かぬ間にまた次のがやってくるといった具合。

 ▼日本気象協会のHPで見たのだが、道内で2週間連続して出ていた警報が11日にやっと途切れたという。同日夕解除された羅臼町の大雨警報が最後だったそうだ。毎日どこかで警報が鳴り響くマンションに住んでいたようなもの。ただしこちらは自然が相手だから文句のつけようがない。8月12日からの1カ月間でも、警報の出ない日はたった4日だけだったという。この一連の台風の前に、被害は「56水害」を上回るのではとの予想を聞いたが、現実はその予想さえ超えてしまった。

 ▼8月に、本道へ上陸または接近した台風をあらためて時系列で並べてみると、9日5号、15日6号、17日7号、21日11号、22日9号、30日10号となる。近づくにつれ影響が出始め、過ぎた後も余波が残ることを考えれば、8月は丸々台風の腹の中にいたようなものだろう。川は決壊して泥が街や田畑をのみ、道路や鉄路は寸断された。亡くなった人もいる。今回は想定外だったが、次からは台風一過くらいで安心してもいられないということか。それにしても六過でようやく一息とは。


受信料の乱

2016年09月10日 09時40分

 ▼1637年に起こった島原・天草の乱は、キリシタン迫害に反旗を翻したものとして知られるが、根底には理不尽な重税に苦しむ農民の怒りがあったという。築城のため湯水のように出費し続けた藩主が、その埋め合わせで生活のあらゆる面に税を課していたのである。子を産めば「頭銭」、死者が出れば「穴銭」を取るなどはまだいい方で、棚を作れば「棚銭」、窓を付ければ「窓銭」を徴収したらしい。

 ▼とにかく名目を付けて徹底的に搾り取ろうとの魂胆だろう。これでは農民が生きていくことさえかなわない。一揆を起こされても当然ではないか。それを思い出したのは、さいたま地裁のワンセグ受信料訴訟でNHKが敗訴したとの報に触れたからである。NHKはテレビ視聴機能が付いた携帯やスマホの所有は受信設備の設置と同じとして、受信料の支払いを求めていた。さいたま地裁は先日、これに対し携帯などは設置に当たらないと、NHKの主張を退ける判断をしたのである。

 ▼NHKの存在意義や受信料自体に異議を差し挟むつもりはない。ただ取れるところからは取ろうという姿勢は、おごりと思われても仕方ないのでないか。受信料は義務である以上、税金と似た性格を持つ。ワンセグからも徴収するとの大きな規約変更であれば、消費税率を上げるときと同様に、あまねく丁寧な説明が国民に対し必要だったろう。そもそも携帯の販売店で、NHK受信料が発生すると聞いた覚えもない。今どき「下に~下に~」では、NHK藩も時代に取り残されよう。


味覚の秋だが

2016年09月09日 17時05分

 ▼誰もが知っている誰かさんの歌である。「ちいさい秋/ちいさい秋/ちいさい秋/みつけた―」(サトウハチロー作詞)。今月に入ってからトンボをよく見掛けるようになった。地域によって差はあろうが、トンボの出現に秋を見つける人も多いだろう。白露も過ぎ、まだ露が降りるほどではないものの朝夕の風はめっきり涼しい。暦の上では仲秋で秋も半ばだが、本道はやっと秋が始まったばかりである。

 ▼秋といえば楽しみの一つは「味覚の秋」だろう。それに水を差すような話題で申し訳ないのだが、最近とにかく野菜の値段が高い。農林水産省が毎週、全国の量販店を対象に実施している食品価格動向調査を見ても軒並み上昇している。8月最終週の結果は、平年に比べレタス117%、キュウリ111%、トマト112%。さらにタマネギに至っては、141%と4割を超える高値で推移している。今、スーパーの野菜売り場には、主婦らの嘆きとため息があふれているに違いない。

 ▼この高値は、8月に相次いで日本列島を襲った一連の台風が主な原因とのこと。本道も道東を中心に農業被害が多数出た。壊滅的打撃を受けた農家も少なくない。収穫期直前だっただけにさぞ悔やしかったろう。消費者も困惑しているが、生活の糧を丸ごと奪われた農家の苦しみには比ぶべくもない。手厚い支援を望むばかりである。加えて農産物を運ぶ物流網もズタズタだ。トンボならぬ人間のこと、空を群れなして運んでいくわけにもいかぬ。こちらも一日も早い復旧を願いたい。


未来技術遺産

2016年09月08日 09時53分

 ▼22世紀から「のび太」君を幸せにするためやってきたネコ型ロボットの「ドラえもん」を知らない人はいないだろう。最近も、リオ五輪の閉会式に遅刻しそうになった安倍(マリオ)晋三首相を、未来のひみつ道具「土管」で一気にブラジルまで運ぶなど大活躍である。生まれたのは2112年のこと。あと100年弱であれだけ便利な道具がそろうのか、この目で見ることはできぬが楽しみなことである。

 ▼漫画のことはさておき、もし江戸時代の日本人が現代に来たら、やはり「ドラえもん」の道具を見たときのように驚くのではないか。国立科学博物館が6日発表した未来技術遺産の本年度登録分を、そう思いながら眺めていた。この遺産は世界的に見て特筆すべき発明や開発品を、国民の財産として記録保存していく取り組みだそう。派手さはないが、製作当時の日本で文字通り未来を切り開いた技術ばかりである。江戸時代なら「ドラえもん」ポケットからしか出てこなかったろう。

 ▼今回は「ユンボ」の商品名が製品の代名詞にまでなった国産初の油圧ショベル「Y35」(新三菱重工・当時)も登録されていた。61年に初めて出荷され、「戦後日本の国土開発に顕著な貢献を果たした」ものだ。30年以上前の話になるが、駆け出し記者のころ現場に行くと、違うメーカーの油圧ショベルも全て「ユンボ」と説明されるので戸惑ったことを覚えている。それだけ普及していたのだろう。さて普及といえば世界に知らぬ人のない「ドラえもん」である。登録もそろそろか。


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