コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 330

リオ五輪

2016年07月08日 09時27分

 ▼自分の流儀を貫くハードボイルドな名探偵といえば、レイモンド・チャンドラーの小説に登場するフィリップ・マーロウを忘れるわけにいかない。せりふに味がある。『ロング・グッドバイ』(村上春樹訳、早川書房)にこんな場面があった。ある女性がマーロウに、なぜ安全とはいえない場所に住んでいるのか尋ねる。彼は「安全な場所なんてこの世界のどこにあるだろう」。さらりとそう答えたものだ。

 ▼まさにマーロウならではの意表を突いた一言だろう。ただ、われわれのような一般人にも、ここから学べることはあるのでないか。それは「安全な場所などない」と思い定めて、常日頃からリスク管理をしておくことである。といっても日本国内で、というつもりはない。ブラジル・リオデジャネイロ五輪に出掛ける際はの話である。8月5日の開幕まであと1カ月を切った。現地の治安は相当に悪いらしい。妊婦の感染で新生児への影響が懸念されるジカ熱の心配もまだあるようだ。

 ▼今月早々、リオの日本国総領事館が五輪観戦のための安全の手引きを公表した。「世界有数の犯罪都市」に注意を促している。2015年にリオ市で発生した殺人は1205件、強盗が8万1740件。開催期間中も会場周辺では、凶悪な強盗や銃撃戦に気を付けねばならないらしい。路上でスマホは使わない、目立つ服装は避ける、襲われたら抵抗しない―が鉄則だそう。要はリスクを知り自分の身は自分で守ること。日本の流儀を貫くのでなく、リオに入ってはリオに従えである。


川の日

2016年07月07日 09時11分

 ▼室生犀星は川を愛する人だったという。泳げないため川遊びをするというより、もっぱら散歩などで風情を楽しんでいたようだ。そんな犀星が一度だけ子どもたちと川遊びをしたことがある。長女の朝子さんが随筆に書き留めていた。川で「石のおうち」を作っていると、犀星が「面白そうだね、わしも一緒にしよう」と川に降りて来たそうだ。普段子どもと遊ばない人だけに、とてもうれしかったらしい。

 ▼親として、子どもとして、そんな川で遊んだ懐かしい記憶を持つ人も多いのではないか。きょう7日は「川の日」である。七夕の天の川や水と親しみやすい季節にちなんで、国交省が1996年に定めた。川に思いをはせるにはちょうどいい日だろう。ことしで20年だが、新たに国民の祝日となる「山の日」(8月11日)と違って、祝日化の話はあまり聞こえてこない。とはいえ「山」と問えば「川」と返すのが合言葉の定番だから、次の有力な候補として挙がっているのかもしれぬ。

 ▼西日本では大雨による濁流、関東圏では降雨不足による渇水と、最近は険しい表情の川ばかり話題になる。そうでなくとも川に背を向けた生活が当たり前になっているというのに、残念なことだ。犀星にこんな詩がある。「うつくしき川は流れたり/そのほとりに我は住みぬ/春は春、なつはなつの/花つける堤に座りて/こまやけき本のなさけと愛とを知りぬ」(「犀川」)。本道の暑さもいよいよ本番だ。時には川で夕涼みをするのもいい。犀星のように愛を見つけられる、かも。


再建に身投じ

2016年07月06日 09時18分

 ▼財政再建団体の制度を霞が関用語で「見せしめ」というのではないか。財政破綻後に夕張市が置かれた過酷な状況を見るにつけ、度々そんな言葉が思い浮かんだものだ。税負担は増し、行政サービスは削られ、新規事業など及びもつかない。計画では再生をうたいながら、実際には衰退と人口流出を早めているようにさえ感じた。もとより市に責任がなかった訳ではない。再建の申し出をしたのも市である。

 ▼前夕張市長の藤倉肇氏が3日、亡くなったそうだ。財政再建団体に移行したばかりの市に、希望の道筋をつけようと尽力した人である。菅義偉総務大臣(当時)が計画に同意し、財政再建団体に移行したのが2007年3月のこと。藤倉氏は同4月22日、新市長に当選し、後藤健二市政を引き継いだのだった。走り出しは、とにかく苦労の連続だったらしい。箸の上げ下ろしまでとは言わないが、何をするにも総務省の許可がいる。不便を強いている市民からの突き上げも厳しかった。

 ▼困難を乗り越える原動力になったのは郷土愛だったという。氏は炭鉱マンの父を持つ生粋の夕張っ子である。藤倉氏が策定した再生計画は、11年4月にバトンを渡された鈴木直道市長の下でしっかりと実を結んだ。ことしは財政破綻から10年目。本当の意味で再生に踏み出す準備が整いつつある。鈴木市長は6月3日付本紙インタビューでこう話していた。「仮に20年間で人口が半減してもその人たちが住んでいて幸せな気持ちだったら勝ちだと思う」。藤倉氏の夢はまだ生きている。


バングラテロ

2016年07月05日 09時36分

 ▼常に現地に出向き、自分の目で実情を見ながら発展途上国の貧困解消に取り組んできた元世界銀行副総裁の西水美恵子さんは、「国づくりは人づくり」との信念を持っている。『国をつくるという仕事』(英治出版)に記していた。人づくりの要は「人間誰にでもあるリーダーシップ精神を引き出し、開花することに尽きる」。それを引き出すのが、西水さんのように外から来た人の仕事である場合も多い。

 ▼今回、バングラデシュでテロの犠牲になった日本人男女7人も、専門知識と技術を生かして地域の発展に力を尽くしながら、現地で新たなリーダーとなる人を育てていたのだろう。東南アジアへの貢献を自分の夢とする崇高な精神の持ち主たちだったそうだ。残念でならない。心よりご冥福をお祈りする。同国は現在、急成長する経済にインフラが追い付いていない状況と聞く。インフラはいわば暮らしの土台だが、それを計画的に整備する知識も技術も足りていないのが実態らしい。

 ▼彼らはJICAが支援するインフラプロジェクトに、建設コンサルタント3社から派遣されていた。困っている国の役に立ちたいとあえて異国の地に赴いたそうだ。テロはそんな志を無残に打ち砕いた。イスラム過激派組織「IS」が犯行声明を出したが、実行したのは地元のグループだったという。テロリストは「国づくりは人殺し」とでもいうように未来の可能性をつぶし続ける。人をつくり、インフラを造る。そんな地道で真面目な努力なしに、国づくりなどできるわけがない。


国民年金納付

2016年07月02日 09時10分

 ▼ある人が楽観的なのか悲観的なのかを判断する実験として、水が半分入ったコップを見せる方法はよく知られている。「まだ半分ある」と喜んだ人は楽観的、「もう半分しかない」とがっかりした人は悲観的というわけ。お遊びみたいなものだが、単純なだけに妙にふに落ちる。もっとも、中身と気分によっても見方は随分変わるだろう。人間ドックのバリウムなら間違いなく「まだ半分も」とげんなりだ。

 ▼こちらも、人によって見方は大きく分かれるかもしれない。自営業者や農業者が支払う国民年金保険料の2015年度納付率が、63.4%だったというのである。厚生労働省が6月30日に発表した。個別の事情もあろうから、当事者にしてみれば特に不思議のない数字なのかもしれぬ。ただ脱水症状で苦しんでいるのに、コップに6割強の水しかたまらないようなもの。毎月給与明細を眺め、疎にして漏らさぬ天引きにため息をついている人にとっては何とも割り切れない話でないか。

 ▼年齢別の納付率も興味深い。最高はゴール間近の55から59歳で74.9%。最低は25から29歳の53.5%だった。若者の年金不信が理由の一つだろう。地域にも特徴がある。上位3県は島根、富山、新潟で総じて日本海側の納付率が高い。最下位は沖縄の44.5%で極端に低かった。短期の損益で一喜一憂すべきでないが、15年度の公的年金積立金の運用成績に5兆円を超える損失が出たとも伝えられたばかり。コップの底に穴まで開いているのでは、楽観的でいるのもなかなか難しい。


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