そのときに備える 自然災害の記憶と教訓

その時に備える 自然災害の記憶と教訓(4)

2017年10月10日 17時15分

垣根を越えた連携必要
 農地の復旧に河道掘削土転用

9月18日の台風で冠水した伊達市内

どこでも起き得る危機への備えが欠かせない(9月18日の台風で冠水した伊達市内)

 「十勝での取り組みを参考に今後は各行政機関で連携を取ってもらいたい」。9月14日、札幌市内で自治体の災害事務担当者を集めて開かれた財務省などが主催の「大規模災害査定方針キャラバン」。被災地の早期復興を支援するため、激甚災害指定の見込みが立った時点で査定効率化の内容を適用できる「大規模災害査定方針」を解説する説明会だ。この中で財務省主計局の林弘行広域災害実地監査官は、河道掘削土の農地への転用という画期的な取り組みで復旧を図った十勝の事例を高く評価。垣根を越えた連携が大規模災害時には欠かせないことを強調した。

 農業者のために関係機関が連携

 農業王国十勝の中でも屈指の生産量と高いブランド力を誇る芽室町。昨年8月の台風災害での濁流は先人たちが1世紀余りにわたって造り上げてきた農地を押し流し、収穫を前にした作物は壊滅的な被害を受けた。農地や水路など農業施設の被害は約13億円に上り、小麦、ジャガイモ、小豆、テンサイ、スイートコーンなどの農作物も大打撃を受けた。

 これらの農地や水路の復旧に大きく役立ったのが、十勝総合振興局が設置した「十勝地方連絡調整会議」だ。この中で農地から流出した土壌の代わりに、帯広開建が洪水防止のために行う河道掘削で生じた土を活用する、農地復旧事業を決定。芽室町の手島旭農林課長は「農家にとって失われた土の復旧が最大の問題。『農業者のために』という思いを共有して関係機関が連携して対策を進めた」と振り返る。農家と思いを分かち合う画期的な取り組みは、復興の力強さを象徴するものとなった。

 ことしも台風上陸 建設業は心強い存在

 9月18日、大型の台風18号が道内に上陸した。大雨による河川の増水などの被害は渡島や桧山、後志、胆振、日高、十勝管内などに集中。白老町の国道36号竹浦橋では主桁の一部にひび割れが生じ、路面が沈下するなど重大な損傷を受け、通行止めが続いている。道建設部によると、公共土木施設被災状況(5日現在)は、道と市町村管理合わせて112カ所、被害総額は約43億円に上った。

 流木処理などに当たった胆振管内の建設会社は、「住民は水が増えることに不安を感じていたようだが、土のうなどを積んで『これ以上被害が拡大することはない』と伝えると、ホッとした表情を見せていた」と語った。昨夏の連続台風でも地元建設業者や測量・地質コンサルタント業者らが24時間体制で復旧に尽力しており、地域に精通する建設業者は住民にとって心強い存在といえる。

 年々激甚化する自然災害。かつて未曽有とされた規模も珍しくなくなった。それだけに災害に強い国土づくりは最優先課題だ。開発局と道の「北海道緊急治水対策プロジェクト」の着実な推進とともに、危機管理の現場が直面した多くの困難を教訓に、次なる災害への備えを固めるべきだ。

2017年10月6日掲載


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