コロナ受け航空便運休
活況を呈するサハリンの今を伝え、北海道とのビジネスチャンスを広げる一助になろうと試みているが、新型コロナウイルス感染症の猛威の前にかすんでしまいそうな現状である。サハリンで何が起こっているか、そのリアルタイムの動きを報告したい。
2月28日、北海道の鈴木直道知事が緊急事態宣言を公表。それに対するサハリン州政府の対応は迅速で、翌29日の土曜、ワレリー・リマレンコ知事が北海道とのオーロラ航空定期便を中止する許可を求め、ロシア連邦政府に働き掛ける意向を表明した。そこから私が稚内に一時帰国する3月4日まで連日、ロシア外交代表部、サハリン州保健省、ロシア連邦消費者監督庁などから北海道に対するサハリン州側の検疫体制強化について一連の発表がなされた。
結果、新千歳便は3月7日以降ストップし、成田便も北海道に滞在歴のある搭乗者はユジノサハリンスク空港到着後、14日間の検疫隔離が必要となった。これらの措置で、それまで日本のどの地域よりも濃密な交流を展開していた北海道とサハリンの人の往来が実質的に途絶えた。
指摘したいのは、州政府の一連の反応は、道の緊急事態宣言に端を発しているということだ。この時点では、ロシア側が北海道以外の日本に対する規制を強化した事実はない。鈴木知事の宣言は法的裏付けのない「外出自粛のお願い」という意味合いだったが、言葉の重みの受け止め方は、サハリン側では明らかに異なっていた。私は「道は緊急事態宣言を発したが、宣言が出ていない本州では状況はコントロールされていると認識している」という州政府高官の発言を聞いた。
3月中旬以降、事態はもはや北海道とサハリンの関係を超えたところに進む。3月18日から5月1日までの期間、全外国人の入国を制限する措置がロシア首相府により公表され、3月27日にはロシア全土の国際フライトが停止された。
航空便の運休は人的交流の停滞にとどまらず、航空貨物や手荷物などの手段で物が運ばれる機会が失われることも意味する。商談成立に向けたサンプル品、あるいはホテル、レストランの食材など影響は多岐にわたる。
サハリンでは4月1日から30日まで、全住民に対して「自己隔離」体制が導入されていて、食品スーパーや薬局など必要な施設以外は閉鎖され、緊急の用務以外で外出することは許されない。レストランなどは宅配で一部営業を続けている。
だが思い起こしてほしい。2020年は本来「日露地域交流年」である。JAL、ANA、AIRDOなどが日ロ間の新規航空路線を開設し、23年までに日ロ間の相互訪問者数を現在の20万人から40万人へ倍増させるという目標に向かって官民一致で進むはずだった。
このような状況下ではあるが、両地域間の経済的な活動が完全に途絶えたわけではない。稚内港や小樽港とサハリンの間を往来する貨物船はまだ運航されているほか、建設、食品など多分野で、商談や取引に向けた動きが継続している。逆風下でも、ビジネス再開を目指す心構えを保ち続けているタフな民間事業者が北海道とサハリンにいることは希望であり、両地域が長年にわたって築き上げてきた信頼と交流の歴史が、今後も続いていくことの証左である。
(北海道建設新聞2020年4月8日付3面より)