被災時に日本海側の港湾活用を
震災を契機に海溝型地震の調査・研究が進んでいる。2017年12月、政府の地震調査研究推進本部は、30年以内に千島海溝沿いで超巨大地震の発生確率が7―40%という見解を示した。さらに、20年4月には内閣府が日本海溝・千島海溝の巨大地震モデルを公表。千島海溝地震はMw9・3を想定し、太平洋沿岸で震度6―7、内陸部でも震度5以上を予測。揺れは5分以上も続く可能性がある。地震発生から短時間で津波が襲来し、津波高はえりも町で最大27・9mに達すると推計した。
こうした分析に、北大大学院理学研究院地震火山研究観測センターの高橋浩晃教授は、津波の前に地震対応が重要だと指摘する。広範囲の揺れで「特に札幌や旭川など、これまで強い揺れの経験がない地域は、沿岸部より耐震化率が上がっていないところもある」と、着実な耐震化を促す。
津波に関しては「北海道が島であることが最大のウイークポイントだ」と指摘。道民500万人分の燃料と食料を輸送するには航路が基幹で、太平洋側の港湾被災時のバックアップとして、石狩湾新港など日本海側の活用を考えるべきだと話す。交通網も道東自動車道を補完する北回りルートや、石狩湾新港につながる高規格道路整備を挙げる。
事前復興計画の策定も提言。震災が起きると全国から工場や企業の引き抜きがすごいため、震災前にインフラやまちの復興手順を示して、地元事業者をつなぎ止める必要性を強調。「人の命をいくら守っても、地元のなりわいを守れない限りまちはなくなる」と述べ、産業界も声を上げることを望んだ。
道立総合研究機構建築研究本部は、厚岸町と神恵内村の要請を受け、津波防災対策の協定を締結。17―19年度で津波防災対策の研究を進めた。神恵内村では、津波対策を盛り込んだ役場庁舎の整備を提案。基本設計から関わり助言した。
新庁舎は人口が集中する市街地に避難施設を設けるため、津波浸水区域内の建設となった。村はRC造で検討していたが、道総研はS造を提案。担当した北方建築総合研究所地域研究部の戸松誠環境防災グループ研究主幹は、東日本大震災の事例を基に「S造だと津波が壁を突き破り、上がってくるのを避けられる」と説明する。庁舎1階に津波を受け流せるピロティを設け、執務室は浸水を防ぐため2階以上に配置した。
戸松主幹は、道内自治体が取るべき津波対策として①冬季の避難路確保②行政と住民が危機意識を持つ③公共施設の再配置④施設の耐震改修―の4点を強調。津波対策を踏まえたまちづくりを進めるよう促し「防災の部局だけでは対策はできない。役場全体で連携してほしい」と呼び掛ける。
津波を考慮した施設整備やまちづくりは、ますます重要になっている。
(北海道建設新聞2021年3月12日付1面より)