コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 144

民間宇宙船発進

2020年06月02日 09時00分

自動車の歴史は意外と古く、1700年代後半には既にフランスで蒸気自動車が使われていたという。もっぱら軍隊で大砲運搬の用に供されていたようだ。日本はまだ江戸中期で、人の移動はもちろん物を運ぶにも人力か馬に頼るしかなかったころである

 ▼自動車の用途が広がり、普及を始めるのはそれから100年後のこと。ドイツでダイムラーやベンツが、扱いやすいガソリンエンジン車を売り出してからだった。その後は皆さんご存じの通り。各社が競い合うことで自動車の質は上がり、コストは下がっていった。ある製品が一般の人の手に入る段階に達するには、これと同じ過程を経ることが多い。宇宙船もそれは変わらないのでないか

 ▼米国は5月31日午前4時22分(日本時間)、民間企業の「スペースX」が開発した有人宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功した。同午後11時過ぎには国際宇宙ステーションに到着し、飛行士の移乗まで完遂。本格宇宙開発に民間が参入する画期的出来事だった。プロジェクトは米国がスペースXとボーイングの2社に委託して進めたそうだ。競争により技術開発が速まり、経費も大幅に削減された。しかも宇宙船の操作はタッチパネル式となり扱いやすさが格段に向上したのだとか

 ▼このままいけば100年後には、誰もが宇宙旅行を楽しめるようになっているかもしれない。クルードラゴンの試験は今回が最後。次回からは運用段階に移る。8月30日に打ち上げが予定される1号機に搭乗するのは日本人宇宙飛行士の野口聡一さんだ。それも楽しみである。


衣替え

2020年06月01日 09時00分

 きょうから6月である。冬と夏を行ったり来たりと定まらなかった服装も、ようやく夏物に落ち着くころだ。以前読んだ札幌出身の小説家森田たまさんの随想「衣がえ」を思い出す。こんな一節があった

 ▼「つつましやかに自然とともに生き、自然の中に暮らしてきたわれわれは、春の花咲けば汚れた綿入れをぬぎ、初夏の緑の下に初あわせの軽きをよろこび、六月一日からは寒かろうと暑かろうと単衣ものを着る」。本道は急に暑くなった。ストーブのつまみをいきなり大にされたようで体がついていかない。とはいえこれでようやく冬物を押し入れの奥にしまったり、お役御免の服を捨てたりできる。「思ひ切り捨てて身軽に更衣」天野照子。夏物を着ると心まで軽くなるから不思議である

 ▼安倍首相が先日の記者会見で述べた「コロナの時代の新たな日常」も、きょうからがいよいよ本番だろう。いわば対応策の衣替えである。これまで通り感染拡大を防ぎながら、可能な限り社会経済活動を元に戻していく。イベントや文化施設が再開され、観光地も開放、飲食店は通常営業と形だけはコロナ前に近付く。ただ装いは全く変わる。密接、密集、密閉を避け消毒を徹底。さらにマスク着用となればサービスはもちろん、集客や売り上げにもかなりの影響が出よう。世界的感染爆発ゆえ製造業の業績もすぐには回復しまい

 ▼残念ながらこの新たな日常は、始めてみなければ分からないことばかりである。「更衣してやはらかき風にあふ」新山芳子。しばらくはそう願いながら前に進むしかないのかもしれない。


慰安婦で韓国大揺れ

2020年05月29日 09時00分

 昔の出来事は実際に見たり触ったりできないため、容易には事実が見えてこない。歴史を知る難しさだろう。それだけに怪しげな言説がまことしやかに伝えられる例もしばしばある

 ▼有馬哲夫早稲田大社会科学総合学術院教授は『歴史問題の正解』(新潮新書)で、歴史を議論するときには根拠を示すことが重要と指摘していた。「これがなければ、歴史を巡る議論はただの言い合いになり、水掛け論になる」からだ。歴史を巡る議論と聞いてまず思い出すのは日韓間のいわゆる「従軍慰安婦」問題でないか。今、韓国がそれで大揺れだ。対日責任追及の先頭に立ってきた元慰安婦の李容洙さんが今月初め、活動母体の旧・韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協、現・正義記憶連帯)の暗部を告発したのである

 ▼その内容は、「尹美香前理事長が政治目的で慰安婦を利用してきた」「集めた義援金や基金を慰安婦のために使ったことがない」「だまされた」。これまでを見てきた者にとっては驚くばかりの証言である。挺対協は対日世論の形成や政策決定に強い影響力を発揮してきた。その力を背景に尹前理事長はこの春、国政進出に成功している。告発を重く見た検察が挺対協を捜査してみると補助金流用や不正会計処理、親族優遇など疑惑が次々

 ▼尹氏も黙ってはいない。李さんが実は慰安婦でなかった可能性をにおわせはじめた。どうも日本はこうした根拠のない話に付き合わされてきたらしい。日本が幾ら事実を示しても水掛け論になるはずだ。慰安婦問題を解決するには事実を積み重ねるしかないのだが。


自転車で1200㌔

2020年05月28日 09時00分

 面白いニュースを目にした。26日付読売新聞の国際面に載っていた記事である。舞台はインド。15歳の少女がけがをして歩けない父親を自転車に乗せ、1200㌔を走破したのだという

 ▼経緯はこうだ。父親は出稼ぎ中にけがをし、折あしく発生した新型コロナで職も失った。看病していた少女が家に連れ帰ろうとしたが全土封鎖で交通機関は動いていない。そこで父親を後ろに乗せ、故郷まで走ったというのである。1200㌔といえば、札幌から東京を経て大阪へ行くくらいの距離である。話はさらに続く。現地メディアが一斉にこの美談を伝えると、インド自転車連盟が彼女の力を絶賛。代表選手を育てる養成施設に入るよう勧めているのだとか

 ▼新型コロナがきっかけでアスリートになる未来が開けたわけだ。とはいえこんな例はごくまれ。日本でも多くの若者は逆に将来につながる道を狭められている。夏の甲子園、全国高校野球選手権大会中止はその典型だろう。ここでの活躍がプロ入りの近道だった。もちろん球団のスカウトはもっと早くから実力のある選手に注目していよう。ただ甲子園では時に思わぬスターが出現する。その機会が奪われたのは残念だ。野球に限った話ではない。学校部活動の集大成となるインターハイも同じである

 ▼スポーツ庁がそうした全国大会を代替する地方大会の開催に、1大会当たり最大1000万円を補助する方針を固めたそうだ。あのインドの少女のように、卒業を控えた選手たちの未来につながる、チャンスあふれる大会ができるだけたくさん開けるといい。


テレビとSNSの罪

2020年05月27日 09時00分

 作詞家の阿久悠さんが自著『ただ時の過ぎゆかぬように 僕のニュース詩』(岩波書店)でテレビの罪に触れていた。「ほんとうにやっかいなんです、テレビという存在は」と阿久さんは嘆く

 ▼最も懸念されるのは距離感をおかしくしてしまうことだという。指摘の中身はこうだ。「すべてが二メートルの距離で対面暗示をかけられるわけで、心と心の距離感もうまくとれなくなる。思考が単純になり底が浅くなる」。この本は2003年の発行だが、現代はツイッターなどSNSの発達で問題がさらに深刻化している。テレビを見て出演者に悪感情を抱いた者が顔も名前も隠したまま、SNSを通してその出演者に悪口雑言、誹謗中傷の限りを尽くすことができるのである

 ▼シェアハウス内で暮らす男女6人の姿を生々しく見せるネットフリックスの番組『テラスハウス』(フジテレビ)に出演していた木村花さんが先週亡くなった。自殺とみられるそうだ。自身のSNSに非難の書き込みが殺到していたらしい。木村さんは女子プロレスラーで、ヒール(悪役)のため番組でもそうした性格設定をしていたようだ。それを現実と思い込んだ視聴者が怒りを募らせ、多くの人が同調、便乗して集中砲火を浴びせた

 ▼まだ22歳である。心が折れたに違いない。周りと深い絆で結ばれていた人ほど孤立したときの絶望は深いという。阿久さんはテレビにもこんな注意書きが必要と記していた。「人格を狂わすことがありますので、見方には気をつけてください」。木村さんを死に追いやった人々は肝に銘じるべきだ。


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