洪水のような情報に日々さらされていると、何が本当で何が間違いかさっぱり分からなくなる。物理学者の寺田寅彦もそのことを苦々しく感じていたようだ。随筆にこんな興味深い見解を記している
▼「きのうの出来事に関する新聞記事がほとんどうそばかりである場合もある。しかし数千年前からの言い伝えの中に貴重な真実が含まれている場合もあるであろう」。鋭い観察眼による氏の世相分析には定評があった。ただ、こちらの真実を見つけるには数千年もさかのぼる必要はない。半年ほどで十分だろう。新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)を起こした原因である。世界中の人が今、同じ疑問を抱いているのでないか。「そもそもどうしてこんな事態に―」
▼あらためて振り返ると中国が昨11月頃発生した正体不明の感染症を当初、隠蔽(いんぺい)しようとした事実に突き当たる。本来なら即刻封じ込め措置が取られるべき最初期に、感染者は自由に国内外を往来しウイルスを拡散させた。台湾が11日に明らかにした事実がある。昨12月末、武漢の感染症への懸念を世界保健機関(WHO)に伝えていたというのだ。WHOはこれを無視した。その後の経過を見ると中国に配慮したと勘ぐられても仕方ない
▼一足先に危機を脱した中国は現在、自国の感染症対策を誇り、マスク外交を展開し、弱った海外企業の株を買いあさっていると聞く。率直に言ってどうかと思う。今は日本含め多くの国が感染拡大防止に必死でそれどころでないが、終息した暁には真実を求める声が一層高まろう。