コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 151

徳島市長に内藤氏

2020年04月07日 09時00分

 あえて口には出さずとも、「年寄りは辛気くさいことばかり言うから嫌になる」と考えている若者は多いに違いない。楽しい気分の時に、突然冷たい水をぶっ掛けるような忠告をしてきたりするからである

 ▼とはいえ若者も負けてはいない。徳島県出身で1983年生まれの歌人、田丸まひるさんの作品が痛快だった。こう歌っているのである。「幸せに浮かれてばかりじゃ痛い目を見るっていうなら今すぐ見せて」。年寄りの話にも全く理がないわけではないが、脅しに近い助言をぴしりと跳ね返す若者の力強さの前ではかすんで見える。仮に痛い目に遭ったとしても、その経験を糧にできるのが若者というものだろう

 ▼そんな心のしなやかさへの期待もあったのでないか。5日投開票された徳島市長選で、36歳の新人内藤佐和子氏が64歳の現職遠藤彰良氏を破って初当選した。全国で歴代最年少の女性市長になるそうだ。内藤氏は鉄工会社で役員を務める傍ら、地元のまちづくり団体代表としても活躍していた。絶望をくぐり数々の夢を叶えてきた人である。東大在学中に難病「多発性硬化症」を発症。一時は夢を失ったものの、何もできないと考えるのは「思い込みの壁」と気付き、以来積極的にビジネスや地域活性化に挑んできたそう。著書『難病東大生』に詳しい

 ▼先の歌人にはこんな一首もあった。「あやめあやめたぶんこれから繰り返すあやまちさえもわたしのものだ」。対立や批判を恐れ前に進めずにいる老いた市政には、痛い目にもくじけない内藤氏の若さと勇気が必要だったのかもしれない。


宇宙のごみ掃除を民間で

2020年04月06日 09時00分

 道路を車で走っているとき、進路上にごみが落ちていて危ない目に遭った経験はないだろうか。近くに行くまでそれが何かは分からない。ただ、空き缶程度でも踏めばそれなりの衝撃があるし、段ボール箱ほどの大きさで堅ければ車の破損はさけられない

 ▼ゆっくりのときはいいが、高速道路などでスピードが出ているとき突如目の前に現れると大変だ。慌てて急ブレーキ、急ハンドルを使うと事故を起こしかねない。たいていは安全確保のため巡回している道路パトロールカーや、親切な人が気を利かして障害物を取り除いてくれる。おかげでわれわれドライバーはいつも快適に運転できるというわけ。この進路上のごみ問題、地上だけかと思えばさにあらず。宇宙でも相当深刻だという

 ▼軌道上にある宇宙ごみは1cm以上で約2万個、1㍉以上だと1億個を超える。宇宙航空研究開発機構(JAXA)がこの2月、これを除去するプロジェクトの商業パートナーに民間企業「アストロスケール」を選んだそうだ。プロジェクトを安定運用していけるよう、商業ベースに乗せる世界初の試みである。何せ拳銃で発射する弾丸の10倍も速い物体が飛び交っているのだ。当たり所が悪ければ人工衛星などひとたまりもない

 ▼とはいえ作業員が手際よく回収するわけにもいかないため、軌道を変えて大気圏に落とす廉価な技術が必要。計画では2022年度中にごみの形や位置を把握する衛星を打ち上げ、25年度以降の除去実現を目指す。人工衛星も目の前に突然障害物が現れなければ、安心して仕事を続けられよう。


不況が人を殺す

2020年04月03日 09時00分

 冗談交じりながらその仕事の弱点をうまく突いている言葉に、「大工殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も降ればよい」がある。「大工」の代わりに「土方」や「テキヤ」が使われたりもするが、要は収入の道を断たれると生きてはいけなくなるという意味だ

 ▼特に昔の職人は「宵越しの金は持たない」のを粋としていたため、日銭が3日も入らないと簡単に干上がってしまった。厳しい現実だが粋も命も金次第である。新型コロナウイルス禍が続く昨今の状況では、次にこんなぼやきが出てきてもおかしくない。「企業殺すにゃ刃物はいらぬ。コロナの一つもあればよい」。観光、宿泊、飲食、物販の売り上げが激減している。連関を考えるとほぼ全ての産業が影響を受けているのでないか

 ▼日本銀行が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)でも景況感を示す業況判断指数(DI)は7年ぶりのマイナスだった。本道でも多くの業種で客足が途絶え、売り上げが減少。倒産する企業が相次いでいる。嫌な過去を思い出した。1997年から98年にかけて北海道拓殖銀行や山一證券などが破綻したのと軌を一にして、自殺者数が著しく増えたのである。98年は3万1755人。前年より8261人も多かった

 ▼ウイルスは人を殺すが、長く深刻な不況と政策の失敗もたくさんの人を死に追いやる。先のDIは大方が3月11日までの回答分というから、足元はさらに悪化していよう。感染爆発とともに経済の底抜けを防ぐための早急な手立てが政府には求められている。雨は当分やみそうにないのだ。


えん罪

2020年04月02日 09時00分

 言葉を曲解する人に会った経験はないだろうか。例えば誰かに「ありがとう」と言われたとき、そんな人は「私をばかにしてる」と怒ったりする。腹に隠した思いが意味をねじ曲げるのだろう

 ▼森鴎外の『舞姫』にこんな一節がある。「この交際の疎きがために、彼人々は唯余を嘲り、余を嫉むのみならで、又余を猜疑することゝなりぬ。これぞ余が冤罪を身に負ひて、暫時の間に無量の艱難を閲し尽す媒なりける」。主人公は交際下手で勇気もないから悪所に行かないだけなのだが、「彼人々」に清廉潔白を気取っているとばかにされ、警戒されてもいるのである。悪所通いという後ろ暗い趣味を持つ彼らの目には、主人公が告発者に見えたらしい

 ▼滋賀県東近江市の病院で2003年、故意に患者の人工呼吸器を外したとして殺人罪が確定した元看護助手が再審で無罪となった。当時容疑者だった女性を自白させた取調官も腹に隠した功名心とゆがんだ正義感のせいで、事実とは別のものを見ていたに違いない。女性は裁判で無実を訴えたが自白を根拠に有罪とされ、17年8月まで服役した。再審が決まって迎えた3月31日の大津地裁判決で裁判長は、自白は取調官が女性の好意を利用して引き出したと信用性を否定。そもそも殺人事件だった証拠もないと指摘した

 ▼こいつが犯人だ―。俺が解決する―。取調官のそんな思い込みと気負いが、一人の女性から最も楽しかるべき20代と30代を奪ったのである。判決後、女性は「とてもうれしい」と語ったそうだ。取調官は今度こそ真っ直ぐに受け止めたろうか。


入学式

2020年04月01日 09時00分

 きょうから新年度である。きのうと大きく違う日ではないが、何となく新鮮に感じられるのは入学の時期でもあるからだろう。子どものころからそのリズムが心と体にしみこんでいる

 ▼ただ、ことしばかりはその最初の一歩を踏み出す新一年生が気の毒でならなかった。新型コロナウイルスのせいで入学式が無事行われるかどうか分からなかったからである。毎年恒例の登校練習風景も、ことしはほとんど見掛けない。幸い各学校の入学式は、いずれも日程を後ろにずらすことなく開けるようだ。小学校に限っては保護者の出席も認められるという。親御さんらも胸をなで下ろしていよう。「入学の子の顔頓(とみ)に大人びし」高浜虚子。小学校に通うまでに成長したわが子の晴れ姿を見逃すわけにはいかないではないか

 ▼ただ、文部科学省は先週、知事や学校関係者に教育活動再開の注意点を通知。換気の徹底や十分な距離の確保、近距離での会話の自制などを呼び掛けた。入学式もこれに則った形で行われる。小学1年生と聞くと、『ことばのしっぽ』(中央公論新社)で読んだ花岡穂月さん(小1・当時)のこの詩を思い出す。「じょうずにひらがなができるし 12345678910を 1からかぞえると 4は「し」っていうのに 10から1までかぞえると 4は「よん」っていうの それがわかりました」

 ▼これからもたくさんのことに気付くのだろう。のびのびと、とはいかないものの、その門出の日は無事迎えることができそうだ。本道で子どもたちの晴れやかな顔が見られるのは来週である。


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