コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 167

鉄路のこれから

2019年12月02日 09時00分

 子どものころによく聞いた歌はいつまでたっても不思議と忘れないものである。岡本敦郎さんの『高原列車は行く』(丘灯至夫作詞、古関裕而作曲)もその一つ。当方が生まれる前の歌謡曲だが、長く歌い継がれていたのだろう

 ▼こんな歌い出しだった。「汽車の窓から/ハンケチ振れば/牧場の乙女が/花束なげる/明るい青空/白樺林/山越え谷越えはるばると/ララララ…/高原列車は/ラララララ/行くよ」。牧場や白樺林が出てくるあたり本道の歌といわれても違和感はない。実は作詞した丘さんの故郷福島県がモデルという。いずれにせよ陽気な曲調とも相まって汽車旅の高揚感が伝わる歌である

 ▼そんな旅情をかきたてる鉄路が一つ、また一つと消えていく。先日も日高線鵡川―様似間の関係7町がJR北海道の提案する廃止案を受け入れ、バス転換に向けた協議に入る方針を決めた。災害で2015年から不通になっていたとはいえ、地元としては苦渋の決断だったろう。復旧を願っていたはずだ。企業なら不採算部門の見直しは避けられない。ただ廃止理由がそれだけでいいのか。技術者の長井士郎氏は『土木技術を未来へはしわたしする12のことば』(共同文化社)の中で「費用に対する効果の方に、単に収入だけでない『何か』を評価して」と記していた

 ▼観光や過疎地への貢献などの価値を認め補助する仕組みを作れば国民も納得するのでは、というのだ。維持困難線区はまだ幾つもある。「ラララララ」と思わず歌い出したくなる存続策を求め、今ほど知恵が試されているときはない。


行方不明の子ども

2019年11月29日 09時00分

 ことしの「本屋大賞」でノンフィクション本大賞に選ばれたブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)を読んでいて、こんな一節に目が留まった。数字の間違いでないか、と思ったのである。「英国では一年間で10万人以上の16歳以下の子どもたちが行方不明」
 
 ▼同書は英国で暮らすブレイディさんと子どもの成長物語だ。先の話は知人の子どもが失踪したときに出てきた。どうやら事実らしい。NGOの児童失踪・児童虐待国際センターによると、英国は米国の42万人(2018年)に次いで子どもの行方不明が多い国という。理由は正確にはつかめていないものの、おおよそ半分が家出、3割が誘拐や連れ去りなど犯罪絡みとみられている。2割は原因も不明だ

 ▼日本はといえば警察庁の調べで20歳未満の行方不明は1万7600人(18年)。日本の人口は英国の倍、米国の3分の1だから、いかに英米の状況が深刻か分かる。日本は先進国の中でも少ない方なのだ。ただ、日本もうかうかしてはいられない。近年はSNSが子どもに普及することで犯罪の新たな温床ができつつある。先週、小6の女児を誘拐した疑いで栃木県の男が逮捕された事件でも、SNSが誘い出しに使われていた

 ▼こちらも警察庁の統計だが、去年の「SNSに起因する被害児童」は1811人。ここ5年で一気に500人ほど増えている。悪意ある大人がたやすく子どもに接触できる環境が整ってきたのだ。子どもの行方不明の数まで欧米に近付ける必要はない。ここで食い止めねば。


道産小豆が不足

2019年11月28日 09時00分

 本道を代表する菓子メーカーの一つ、柳月(音更町)の新商品「十勝銘菓 あんバタサン」が大ヒットしている。どの店舗でも入荷してすぐに完売してしまうという

 ▼NHKの連続テレビ小説『なつぞら』に出てきた帯広の菓子店「雪月」が考案した商品と似ていることも人気に拍車をかけたようだ。運良く買えたときに一度食べてみたが、予想を上回るおいしさに驚いた。ドラマにも全く引けを取らない出来である。秘密は道産の食材にあった。少し酸味のある発酵バターと十勝産の小豆を使ったあんを絶妙な配合で混ぜ合わせ、さくさくのサブレで挟んである。これが独特の食感と濃厚な味わいを生んでいるのだ。ちなみに柳月さんから宣伝依頼を受けたわけではない。念のため

 ▼ところが近年、全国的にこの原料ともなる道産小豆が不足しているらしい。全国生産量の9割を占める道産小豆の在庫が、2016年に本道を襲った台風の影響で大幅に減少してしまったためという。当然、取引価格も跳ね上がる。危機感を抱いてのことだろう。全国和菓子協会が26日にオホーツク管内の農家と交流会を開き、作付け拡大を求めたとの話題が北海道新聞に出ていた。同協会は数年前からホクレンなどを通じ、安定供給維持を道内の生産者に訴えている

 ▼ブランド力が高い道産小豆の確保は彼らにとって死活問題。真剣にならざるを得ない。とはいえかつて「赤いダイヤ」といわれ価格が乱高下した時代を知る生産者は、おいそれと作付けを増やす気にもなれまい。こればかりはお菓子と違い、甘くはなさそうだ。


IMFの声明

2019年11月27日 09時00分

 きのうのきょうでまたずいぶんと胸の苦しくなることを言ってくれるものだ―。ニュースを聞き、そんな苦い思いを抱いた人も多かったのでないか。国際通貨基金(IMF)がおととい、「日本は2030年までに、消費税を15%に増税する必要がある」との声明を発表したのである

 ▼8%から10%に上がったのはつい先日のこと。今最も耳にしたくない話題だろう。乾いた雑巾を絞られるようで切ない気持ちになる。高齢化により医療費など社会保障関連の支出が今後も増え続け、現在の税収では財政運営が危うくなるからだという。加えて財政の持続可能性を確保するため、社会保障制度や労働市場の改革を一層進めるよう注文も付けたそうだ

 ▼〝しかしちょっと待てよ。最近これと似た話をどこか他でも聞いたな〟と気付かれた方は察しがいい。IMFの発表とまさに同じ25日、国の財政制度等審議会が来年度予算編成に向け、表現は違えど内容がほぼ一緒の提言を麻生副総理兼財務大臣にしていたのである。こんなからくりがあるらしい。元財務官僚の〓橋洋一嘉悦大教授によると、IMFの対日審査は「日本のいうことを、そっくりそのままIMFが書いているだけ」(『日本は世界1位の政府資産大国』講談社)。日本とはもちろん財務省である

 ▼財政審の提言も原案は財務省だ。つまり財務省は国際機関や民間有識者の名義を借り、緊縮の考えを国民にすり込もうとしているわけ。本来これを監視するのが国会議員の役目なのだが、最近は桜の周りで踊るのに忙しいとみえてどうも頼りにならない。


香港区議会選で民主派が大勝利

2019年11月26日 09時00分

 名優ヒュー・ジャックマンが主人公ジャン・バルジャンを演じた2012年のミュージカル映画『レ・ミゼラブル』で、最も印象に残ったのは「民衆の歌」の場面だった

 ▼王族のパレードが進んでいるさなか、革命を目指す学生の一人がそれを歌い出す。「列に入れよ われらの味方に 砦の向うに世界がある 戦え それが自由への道」(岩谷時子訳詞)。歌う人は次第に増えてゆき、ついには市民の大合唱になる。一人では何も変えられない小さな声も、たくさん集まれば体制をも揺るがす大きな力になるということだろう。この歌は香港の民主化運動でも当初から参加者の支えになっていたそうだ。とすると今回の香港の大勝利も驚くには当たらないのかもしれない

 ▼24日投開票の香港区議会選挙で民主派が全議席の8割を超える380議席以上を獲得した。しかも投票率は71%。改選前に7割あった親中派の議席は2割を下回った。議会を押さえ共産党支配を強めようとした中国にとってはかなりの痛手だ。香港といえばこのところデモ隊と警察当局の衝突が激しさを増し、民主派の若者が死亡する事態にまで発展している。日常生活や経済への影響も大きく、デモ隊に反発する市民も少なくないと伝えられていた。それなのにこの大差である

 ▼自由と民主主義を守りたい香港市民一人一人の歌が、共感の輪を広げながら大合唱となっていったに違いない。それほどまでに人々の中国不信は強かったのだ。中国はこの結果を謙虚に受け止めた方がいい。無視すると合唱の声は世界規模でさらに大きくなる。


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