コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 236

大阪で震度6弱の地震

2018年06月19日 07時00分

 明治から昭和にかけて数々の名作を生みだした文豪谷崎潤一郎は、恐怖症と呼ばれるほどの地震嫌いとして知られる

 ▼ただ、その理由を聞けば無理もない。1923(大正12)年9月の関東大震災を経験したのである。箱根でバスに乗っている時に大きな揺れが来て、目の前で峠道が崩れるのを見たという。横浜にあった家も火事に遭った。恐ろしさに耐えられなくなった谷崎はどうしたか。神戸に転居したのである。当時、関西は地震の心配がないとされていたらしい。谷崎は以後この地で転居を繰り返すようになる。それが文士仲間の話題となり、直木三十五が随筆「大阪を歩く」で、自分は大阪を「谷崎潤一郎氏のように、地震が怖くて、料理がうまいから好きになったわけではない」とからかうほど

 ▼きのう、大阪府北部を震源とするM6・1の地震が発生した。阪神淡路大震災からまだ23年。谷崎が存命なら関西での相次ぐ大地震に気の休まる暇もなかったろう。この地域も地震の安全地帯ではないのだ。今回は高槻市、枚方市、大阪市北区などで震度6弱を記録した。気象庁によると23年の観測開始以来、大阪府では最大の揺れ。直下から地面を突き上げられた住民らは生きた心地もなかったに違いない

 ▼死者も出ている。高槻市で倒壊した学校プールのブロック塀に挟まれ登校中の女子児童が亡くなった。過去の教訓が生かされぬまま危険な塀が残されていたようだ。痛ましい事故である。まだ被害の全容は見えない。余震や雨への警戒も必要だ。これ以上被害が広がらないよう祈るばかりである。


新生夕張市石炭博物館

2018年06月18日 07時00分

 以前から興味のあった夕張市石炭博物館が4月28日に全面リニューアルオープンしたと聞き、これを機会にと先週、見学に行ってきた

 ▼札幌市内から高速道路を使っておよそ1時間。かつて「石炭の歴史村」としてにぎわった広大な敷地の一角にそれはあった。ただ財政再建団体が故の悲しさ。道道から折れて博物館までの道は荒れ気味で、点在する廃虚の横を抜けていく。本当にたどり着けるのかと心配になるほど。中に入ると一転、美しい館内に整然と展示物が並ぶ。石炭産業とともに繁栄してきた北海道の歴史と、そこに重要な役割を果たした夕張の足跡が写真やパネル、壁面展示で紹介されていた。順路に沿って数多くの映像を流し、その時々の生活を垣間見せる演出も心憎い

 ▼圧巻は国登録有形文化財の旧北炭夕張炭鉱模擬坑道である。まずはたくさんのマネキン労働者に迎えられた。さらに下り実際に使われていた坑道に入る。炭鉱の中を歩くことなどなかなかできるものではない。貴重な経験である。この大改修は市が財政を切り詰めるだけの「再建」から、未来を見据えて攻勢に出る「再生」へと転換するための布石という。テーマを「生きるに向き合う博物館」としたのもそれが理由だそう

 ▼訪れた日の盛況ぶりを見ると、滑り出しは上々のようだ。考えてみれば博物館までの荒れ気味の道も含め今の夕張の姿は、失礼な言い方かもしれないが全て優れた展示ではないか。産業空洞化、財政破綻、少子高齢化、地域の魅力づくり。夕張に行って学べること、学ばねばならないことは少なくない。


改正民法で18歳成人に

2018年06月15日 07時00分

 クレジットカードは便利なものである。まだ持っていないころは値が張る物を後払いで買うときなど、ローン申込書に細かく必要事項を書き込み、審査を待ち、それが下りてやっと手に入れることができた

 ▼カードがある今、そんな手間はかからない。分割にしたい場合も一言伝えれば済む。これすなわち自分が「信用」を得た、という意味である。初めて手にしたときは世間に認められたようでうれしかったものだ。日本クレジットカード協会が昨年実施した「クレジットカード川柳コンテスト」の受賞作にこんな句があった。「届いた日大人になったと分かった日」おけんた。カード取得を人生の一里塚と感じた人は筆者だけではなかったようだ

 ▼成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法がおととい、参院本会議で可決、成立した。2022年4月1日に施行される予定だという。これによりカードやローンが18歳でも親の同意なしで契約できるようになる。一里塚までの行程が2年ほど短くなるわけだ。18歳からカードを使えるなら便利に違いない。JCBの17年版「クレジットカードに関する総合調査」によると、利用が多いのはオンラインショッピングと携帯電話。どちらも若者にとって身近なものである

 ▼ただ心配なのは口座管理だ。最近、若者を中心に携帯料金延滞で金融機関の「ブラックリスト」に載る例が増えていると聞く。たかが電話料金と甘く考え、事態の深刻さに気付かないらしい。まだ施行まで幾分余裕がある。「信用」が一瞬にして消えることは十分に教えておいた方がいい。


米朝首脳会談

2018年06月14日 07時00分

 中学、高校と歴史の授業に苦手意識を持っていた人も少なくないのでないか。名前が際限なく登場し、次から次へと出来事が起こる。人々の数千年にわたる営みが教科書1冊にまとめられているのだから、それも当たり前

 ▼問題は試験だ。何が出題されるか分からないためヤマを張ると大抵当たらない。それならと言葉の丸暗記を試みるも、今度は覚えることが膨大で記憶力が追い付かない。本当に難儀な科目である。結局、頭に残るのは正確でない断片ばかり。そんな人のために、歴史学者の山本博文東大教授は『歴史をつかむ技法』(新潮新書)で学び方の勘所を教えている。「油絵を描くときのようにまずデッサンをして、全体を捉えてから少しずつ細部を描き込み、また色を重ねていく感じ」だそう

 ▼歴史といえば過去のようだが実際は日々新たにつくられていく出来事の積み重ね。とすると、12日に史上初めて開かれた米朝首脳会談を評価する上で大切なのもやはりデッサンを読み解くことかもしれない。両首脳が描いたのはどんなデッサンだったのか。一番のテーマは戦争の回避だろう。中東でも明らかな通りいかに米軍兵力が圧倒的でもいざ戦いとなれば泥沼化は免れない。そうなれば拉致問題も完全な非核化も全て吹き飛ぶ

 ▼今回は体制保証を手にした北朝鮮のごね得との見方もあろう。ただ制裁解除は見送られ、トランプ大統領も「信頼」の言葉で圧力をかけ続けている。この先、美しい油絵が描き上がるかどうかは金正恩委員長の行動次第。トランプ氏は短気だ。いつまでも待ってはいまい。


お仕着せ

2018年06月13日 07時00分

 江戸時代に幕府や店の主人から下の者へ下された衣服を「お仕着せ」と呼んだ。もともと悪い意味ではなかったものの、長く使われているうち、実態を無視して一律にやらされることへの不満を表す言葉に転じたらしい

 ▼「あんなお仕着せの方法論がどの現場でも通用すると思ったら大間違いだ」は現場で最前線に立つ人からよく出る愚痴。上から与えられたものであるため使わないわけにはいかないから始末が悪い。国の制度でもしばしばこの「お仕着せ」による不具合が起こる。道路構造令は典型だろう。今でこそ主に運用面で改善が進んでいるものの、以前は画一的規定が地域の実情に合わず、整備を遅らせ経費を増大させる原因となっていた

 ▼最近では本紙でも取り上げることが増えた週休2日制もそうでないか。先進国の中でも労働時間が長く余暇が少ない日本の現状を変えるための政策である。その趣旨やよし。なのだが、地域や産業により多種多様な働き方があるため一律に適用するのは簡単でない。特に建設分野は現場環境、天気、工期、単価など多くの制約要因があるのに導入は一律。公共でモデル工事も試行しているとはいえ、現実には工夫で何とかなるほど楽なものではなさそうだ。本道では冬場の稼働率が低いこともあり、週休2日だと手取りは確実に減る

 ▼とはいえ休みも少ない業界では若者にそっぽを向かれよう。それでは未来がない。「前門の虎後門の狼」だがいずれにせよ「お仕着せ」は今の体に合っていない。工期も単価も窮屈過ぎる。現実を反映する柔軟な仕組みがほしい。


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