明治から昭和にかけて数々の名作を生みだした文豪谷崎潤一郎は、恐怖症と呼ばれるほどの地震嫌いとして知られる
▼ただ、その理由を聞けば無理もない。1923(大正12)年9月の関東大震災を経験したのである。箱根でバスに乗っている時に大きな揺れが来て、目の前で峠道が崩れるのを見たという。横浜にあった家も火事に遭った。恐ろしさに耐えられなくなった谷崎はどうしたか。神戸に転居したのである。当時、関西は地震の心配がないとされていたらしい。谷崎は以後この地で転居を繰り返すようになる。それが文士仲間の話題となり、直木三十五が随筆「大阪を歩く」で、自分は大阪を「谷崎潤一郎氏のように、地震が怖くて、料理がうまいから好きになったわけではない」とからかうほど
▼きのう、大阪府北部を震源とするM6・1の地震が発生した。阪神淡路大震災からまだ23年。谷崎が存命なら関西での相次ぐ大地震に気の休まる暇もなかったろう。この地域も地震の安全地帯ではないのだ。今回は高槻市、枚方市、大阪市北区などで震度6弱を記録した。気象庁によると23年の観測開始以来、大阪府では最大の揺れ。直下から地面を突き上げられた住民らは生きた心地もなかったに違いない
▼死者も出ている。高槻市で倒壊した学校プールのブロック塀に挟まれ登校中の女子児童が亡くなった。過去の教訓が生かされぬまま危険な塀が残されていたようだ。痛ましい事故である。まだ被害の全容は見えない。余震や雨への警戒も必要だ。これ以上被害が広がらないよう祈るばかりである。