コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 235

津南町に全国最年少の女性町長誕生

2018年06月26日 07時00分

 まちづくりを進めるためにどんな人材が必要か。10年くらい前から語られ始め、いまやすっかり定着した観があるのは「若者、ばか者、よそ者」だろう。三者に共通するのは今までになかった発想である

 ▼その地域に長くいればいるほど、駄目な点は目に付いても、そこにしかない価値には気付けなかったりする。美しい景色もおいしい食べ物も日常であれば特別感はない。となれば出る言葉は「ここには何もない」。ところが実際には、地域の魅力は隠れているだけ。そんなとき若者は古い考え方を振り払い、ばか者は既成概念を破壊し、よそ者は全く別の角度からの見方を教えてくれる。それでようやく地域の人々も、埋もれていた宝を自分たちで再発見することができるのである

 ▼今ならこの三者に、「者」ではないが「女性」を加えるべきかもしれない。潜在的に大きな力を持つにもかかわらず、これまで必ずしもまちづくりを含めた政治、経済の分野で十分にチャンスが用意されていたとはいえなかった。これはその象徴的な出来事の一つではないか。24日に投開票された新潟県津南町の町長選で、桑原悠氏が当選した。桑原氏は31歳の女性。全国最年少の女性町長の誕生である。同町出身だが東大で学んだというから「よそ者」の視点も持っているに違いない

 ▼津南は歴史ある人口1万人の町。それだけにしがらみも強かったろうに、町民が桑原氏を選んだのは地域の衰退に危機感を強め変化を求めたからだろう。若者でよそ者の目も持つ女性。今の時代にこれほどぴったりの資質を持つ町長もない。


ゲーム依存症

2018年06月25日 07時00分

 昭和も後半に入るころまでは、度を越してアルコールやたばこにのめり込む人のことを中毒者と言っていた。それが無くなったわけではないが、今は依存症患者と呼ぶ方が一般的だろう

 ▼ざっくり言えば薬物が直接作用して体に変調をきたすのが中毒、習慣性のある物や事に執着して脳が慢性異常を起こすのが依存症である。病気の本質は精神的な依存にあるため、こちらが大きく取り上げられることになったようだ。依存症の原因は薬物に限らない。極端な話をすれば、五感を刺激するものなら何でもきっかけになり得るのである。買い物やテレビがよく知られる例かもしれない。中には万引依存症(窃盗症)というものまであるそうだ

 ▼世界保健機関(WHO)が今回の国際疾病分類改訂で、新たに「ゲーム障害(依存症)」を精神疾患と位置付けた。オンラインゲームなどに心を奪われるあまり、生活や健康に深刻な問題を抱える人が世界中で後を絶たないのである。身近に思い当たる人も多いのではないか。精神疾患というからには単なるゲーム好きと区別する条件がある。それは時間や頻度を制御できない、生活の中でゲームを最優先し他の事に無関心、こういった状態が1年以上続く、だそう

 ▼難しいのは良かれと思いゲーム機器を取り上げると、今度は家庭内で暴力や破壊といった問題行動に発展することだという。患者は主に子どもや若者である。さて仕事を最優先させてのめり込み、家庭を危うくしかけた「仕事中毒」の昭和のおやじたちよ、ゲーム依存症から立ち直らせるいい知恵はないか。


利尻島のヒグマ

2018年06月22日 07時00分

 放浪しながら形式にとらわれない自由律俳句を生み続けた俳人種田山頭火の作品には、孤独感を色濃くにじませたものが少なくない

 ▼よく知られた句がある。「分け入っても分け入っても青い山」。1925(大正15)年、何をやってもうまくいかず、苦しみから逃れようと出家し行乞(ぎょうこつ)の旅に出た当時の一作である。寄る辺ない一人きりのわびしさと、先の見えない自由が共に感じられる句ではないか。子どものころに母を自殺で失った経験が終生消えぬ心の傷となり、それがさすらいの人生を歩むきっかけの一つになったという。こんな句もある。「ひとり山越えてまた山」。胸に開いた大きな穴を埋めるには、自分に苦行を課し続けるしかなかったということだろう

 ▼宗谷森林管理署のカメラが先週捉えた利尻島に上陸したとみられるヒグマの写真をニュースで目にして、その山頭火を思い出した。こうべを垂れて林道の右端を静かに歩くヒグマの後ろ姿が、何とも哀愁を帯びて見えたのである。島にヒグマが現れたのは106年ぶりのことだという。雌の争奪戦に敗れた雄が海を泳いで渡ってきたとの説もあるが、本当の理由は「彼のみぞ知る」だ。ヒグマの世界にだっていろいろ事情があろう

 ▼利尻、利尻富士両町の「ヒグマの痕跡状況」によると、ほぼ島全域をさまよっている様子。まさに「ひとり山越えてまた山」の趣である。これでは住民の方々の気も休まるまい。かといって探し出して駆除というのも気が引ける。もう一度「ひとり海越えて」お帰りいただくのが一番いいのだが。


W杯初戦で日本勝利

2018年06月21日 07時00分

 江戸期以前のこと、城中や寺社境内には馬が入れなかったという。訪れた一行は門前で馬を下り、主人と側近だけが登城、参拝。供の者はその場で待たされた

 ▼さてこうなると用を足している主人らはいいが待たされている方は暇である。いきおいうわさ話に花を咲かせることになったらしい。主人の出世予想や関係者の裏話、お家の将来評価など、当事者でない気楽さで言いたい放題。これつまり「下馬評」である。そんなファンや解説者、マスコミの下馬評を鮮やかに覆したのがサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会初戦での日本だった。19日、FIFAランク16位の強豪コロンビアを61位の日本が2対1で破ったのである。テレビの前で喜びを爆発させた人も多かろう

 ▼実力差、直前の監督交代、短期間での戦術見直しと悪い材料がこれだけそろえば大方の下馬評が日本の負けに傾くのも無理はない。ただ所詮は当事者でない者の見方。試合を見ると選手たちは一瞬も勝ちを疑っていない様子だった。事実、前半開始早々、MF香川真司が果敢に攻めて相手の反則を誘いペナルティーキックで先制。前半終盤に1点返されたものの、日本にありがちな集中力の切れと諦めは見られなかった

 ▼勢いは止まらず、後半途中出場したMF本田圭佑のコーナーキックをFW大迫勇也が頭で押し込み勝ち越し。そのままホイッスルを聞いた。W杯初戦で勝ち点を得ると1次リーグ突破は確実との話もあるが、データの少なさからすると下馬評に近いだろう。とはいえ、この話に限っては覆らないよう願いたい。


デフレの一因

2018年06月20日 07時00分

 型破りな両津勘吉巡査長を主人公とする秋本治さんのギャグ漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社)の話の一つに、両さんが署の弁当需要を目当てにひともうけをたくらむ「亀有弁当大戦争ぼっ発!の巻」がある

 ▼既存2店より安い価格を売りに新規参入し、客を独り占めしようとの作戦だった。当初こそ一気にシェアを伸ばしたものの敵も負けていない。さらなる値引きで対抗してくる。仁義なき戦いだ。途中1店がつぶれ、2店が低コストのおにぎりで最終決戦。両さんが1個34円で売ると向こうは24円に。後は8円、4円、50銭と互いに値を下げ1毛になったところで相手店は降参した。ところが2538個も売った両さんの稼ぎは3円25銭4厘7毛のみ。大損である

 ▼そこまで極端ではないにせよ、こちらも構造は似たようなものだろう。日本銀行がおととい、「アマゾン」などインターネット通販が既存小売企業の値下げ圧力になり、物価下押しに影響を及ぼしているとの調査結果を公表した。拡大するネット通販が安売りを主導し、実店舗が後を追う。その止めどない価格競争が一国の物価まで左右しているというわけである。ネットと実店舗を比較して買う、が半ば常態化している現状を見ても意外な話ではない

 ▼安く買いたい消費者にとって当然の行動とはいえデフレに貢献と聞くと少々胸がざわつく。ネットに傾くあまり既存店がつぶれ地域経済が収縮するのもやはり大損だろう。ネット通販企業は役立つが、他を顧みず独り占めを狙う両さん並みの欲深さもあるから気を抜けない。


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