コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 318

仕事争奪戦

2016年10月07日 09時30分

 スーパーで商品を籠に入れてレジに並んだとき、「何やら見慣れぬ機械があるな」とは思っていた。店員さんはいつも通り価格を読み取った後、「お支払いはこちらで」。以前はなかったその機械は無人精算機だったのである

 ▼最近、幾軒かでそんなことが続いた。それぞれ異なる系列の店でのことだから、同時に進んでいる流れだろう。正直言って、買い物の最後に妙な肩透かしを食った気分ですっきりしなかった。商売で最も大切なところは商品とお金を交換する部分だろう。いくら効率性と合理化を旨とするスーパーであってもそれは変わらない。客が欲しいものを手に入れ、店が利益を得る現場なのだから、自然、お互いに笑顔と感謝の言葉も出る。わずかばかりとはいえ心の交流もあろう

 ▼その小さな取引の締めが、「アリガトウゴザイマシタ マタノゴリヨウヲオネガイシマス」の電子音では何とも味気ない。笑顔も感謝も入り込む隙間がないではないか。まあ、当方の考えが古いだけかもしれないが。人の仕事を機械に置き換える動きが今、急激に進んでいる。レジのように単純なものだけでなく、AI(人工知能)やロボット技術の進展で相当複雑な作業もこなせるらしい。人と機械が仕事を奪い合う時代だ。世界経済フォーラムは年初に、最先端技術が融合する「第4次産業革命」により、5年先には主要国・地域経済圏で710万人が職を失うとの予測を発表していた

 ▼時流にあらがうのは難しいが、人が笑顔を失わぬ革命をと願うばかり。先のレジではもう、少し消えかけていた。


麻薬との戦い

2016年10月06日 09時30分

 メキシコの激烈な麻薬戦争を題材にしたミステリー作品にドン・ウィンズロウの『犬の力』(角川文庫)がある

 ▼人の命に露ほどの敬意も払わぬ残酷な殺し合いの描写に読むのが苦しくなり、何度ページをめくる手が止まったか分からない。麻薬組織は子どもでも老人でも情け容赦なく殺す。取引の邪魔になるからだけでなく、気分次第で簡単に命を奪う。ただの作り話ではないらしい。どうやらそれが現実のようだ。麻薬は売り手に金、買い手に快楽をもたらす。どちらも人を狂わせるものだ。まん延すれば社会は安定を失う。同じ麻薬問題の深刻化に悩むフィリピンでは、解決に意欲を燃やすロドリゴ・ドゥテルテ氏に国民は全てを託した

 ▼5月の大統領選で「麻薬関係者10万人を殺害する」とまるで犯罪小説のような公約を掲げて圧勝したのである。公約は実行に移され、就任後3カ月で約3000人を殺害したそうだ。国民の多くは「英雄」とたたえているらしい。ただ国際的には、やり過ぎとの声も多い。つい先日も自らの「麻薬撲滅戦争」をアドルフ・ヒトラーのユダヤ人虐殺になぞらえ、数百万人の中毒者を「喜んで虐殺する」と発言し非難を浴びた。口うるさい米国に対してはオバマ大統領を名指しし、「地獄に落ちろ」と言う始末。いやはや

 ▼とはいえ中東で過激派などの掃討を進める欧米も似たようなことをしていないか。その国にはその国なりの理があろう。自国が麻薬で荒れ果てるのは見たくないはず。氏の暴言や国際関係を雑に扱う態度はいただけないが、真意は見定めたい。


16年ノーベル賞

2016年10月05日 09時46分

 すぐもうかる話があるのに、手間と時間をかけて製品を作ったり人を育てたりするのは無駄なこと。程度の差こそあれ、そんな会社が増えているのは事実だろう

 ▼特に米国でその傾向が強いようだ。昨年、がんやエイズを治療する医薬品の権利を買い取り、1錠当たりの価格を13㌦から750㌦につり上げた会社が話題になった。医薬品業界だけではない。金融やITをはじめ、あらゆる分野で同じことが起きている。株主は短期利益ばかり追及し、達成できない経営者は首を切られる。目先のことにしか関心のない経営者が増えるのも当然である

 ▼日本でもその風潮が広がっているようだ。会社が採用に当たり即戦力を求めるようになったのもその表れでないか。効率よく利益を上げるためには、人を一から育てるコストも余計というわけ。どこかゆがんでいよう。そんな風潮の中である。性急な成果を狙わず基礎研究に励み、ついにノーベル賞を受賞したとの報に、胸のすく思いをした人も少なくなかったはず。ことしの生理学・医学賞に決まった東京工業大の大隅良典栄誉教授である。生命維持の根源的仕組み「オートファジー」を解明したそうだ。日本人のノーベル賞受賞が続く。いずれも長年の地道な研究が認められてのこと

 ▼教授は記者会見で、「『役に立つ』という言葉が社会をダメにしている」と語っていた。数年後に事業化できることにばかり目が向いているが、「『本当に役に立つ』ことは10年後、20年後、100年後に分かるのかもしれない」。科学分野だけのことだろうか。


改革あれこれ

2016年10月04日 09時30分

 時代劇ファンなら、『暴れん坊将軍』(テレビ朝日)を知らぬ人はいないだろう。8代将軍吉宗が身分を隠して市井に下り、江戸にはびこる悪を征伐する物語である

 ▼仕事の不満やイライラも、主役松平健の刀が毎度吹き飛ばしてくれたものだ。もっとも当時は、お忍びにせよ将軍が単身で外を出歩くことなど考えられなかったそうだ。ただ、実際、華美な着物や美食を嫌い、狩りに出ては銃の台尻でイノシシを打ち倒す型破りな人物であったらしい。幕政に大なたを振るう「享保の改革」を断行できたのも、そんな豪快な性格故だろう。改革は吉宗が就任した1716年に始まった。ちょうど300年前である。元禄以降の浪費で財政はひっ迫し、市中経済も停滞していたという

 ▼おや、そんな経済状況、どこかで聞いたなと思ったら現代と同じではないか。吉宗が取り組んだのは新田開発や足高の制、目安箱、倹約。今に置き換えるとそれぞれ産業振興・雇用創出、人材育成投資、国政参加手段の多様化、財政規律見直しとなろうか。安倍政権が進める経済改革、アベノミクスと方向性は一緒である。いつの時代も打てる手にはそう変わりがないということだろう。肝心なのは現状を正しく分析し、成長につながる改革メニューを政策に織り込んでいけるかどうかである

 ▼ところで「享保」と並べるのも気が引けるが、ご覧の通り本紙もきょう付から紙面改革を実施している。小欄は「きょうの紙面」下に引っ越した。しばらく目に慣れぬことで恐縮だが、こちらの改革にもお付き合い願いたい。


コンビニ人間

2016年10月01日 09時30分

 ▼現代生活に欠かせないものは数々あれど、コンビニエンス・ストア、通称コンビニも間違いなく、その一つに上がるだろう。コーヒー、おやつ、雑誌、日用品はもとより、銀行、公共料金支払い、荷送りまで。行かない日の方が珍しいという人も多いのではないか。1920年代に米国で始まった店舗形態だそうだが、輸入されてからは細部にこだわる日本人によって洗練され、独自の発展を遂げたらしい。

 ▼本道で主だったところといえばセイコーマートとセブンイレブン、ローソン、ファミリーマート系だろう。商品構成はどこもほぼ同じだが、人によって好みが分かれるのは面白い。この話題を持ち出したのは、先頃決まった第155回芥川賞の『コンビニ人間』を読んだからである。著者の村田沙耶香さん自身の長年にわたるアルバイト経験が基になっているとのこと。小説家になってからもコンビニ店員は続けているらしい。その理由は「大好きだから」。一風変わった人のようだ。

 ▼主人公は小さいころから他の人との感覚のずれを自覚していた女性である。彼女はコンビニのマニュアルという鋳型にはまることで初めて「普通の人」として社会に溶け込むことができた。ところが、その仮面も次第に周りの人に見透かされて…。考えてみれば、人は誰しも仕事や立場の鋳型にはまってやっと社会人たりえているのでないか。市議会議員の仮面の下から金の亡者の顔が出てきた富山市の例も最近見た。「コンビニ人間」だからと笑えない。さてあなたは何人間だろう。


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