コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 139

川辺川ダム

2020年07月07日 09時00分

 塔博士と呼ばれた建築家内藤多仲は自身が設計した東京タワーの優美さについて、後にこんなことを語っていたという。「無駄のない、安定したものを追求していった結果できたものだ。いわば数字の作った美しさ」。昨12月に見た番組『美の巨人たち』(テレビ東京)で仕入れた知識である 

 ▼空の一点に向け伸び上がる鉄骨の曲線美も、333mの高さもタワーの安定を数字で突き詰めていった末の答えだったのだ。ほとんどの建築は意匠を重視するため、数字だけで表現される例はそう多くない。一方で土木は東京タワー同様、数字が主役である。治水はその典型だろう。例えばA川で時間雨量X㍉の雨がY時間降ると水位はZm上昇。流域の洪水を未然に防ぐには高さHmの堤防がL㌔必要といった具合

 ▼通常の治水施設で調整できない場合はダムも検討される。4日の豪雨で大きな被害が出た熊本県南部球磨川流域の惨状を見て、現地で長年懸案となっているダムの件を思い出さないわけにはいかなかった。川辺川ダムである。今回も広範囲に浸水した人吉市で球磨川に合流する川辺川に建設が予定されていた。2008年に熊本県が折からの脱ダムの世論に押され計画の白紙撤回を表明。翌年、当時の民主党政権が中止を決めた

 ▼同時に中止された八ッ場ダムがその後再開し、去年の台風19号で流域の被害軽減に役立ったのはご存じの通り。数字は冷徹だ。川辺川ダムが計画された当時から、数字上、危機は目の前にあった。ダムによるにせよよらぬにせよ、この危機を乗り越える答えは今すぐ必要だ。


頼りになる存在

2020年07月06日 09時00分

 もう50年以上前の子ども向け空想特撮シリーズの話で恐縮だが、『ウルトラマン』(TBS)の最終回を今でも覚えている。それだけ強い印象を残す展開だったわけだ。相手が「宇宙恐竜ゼットン」だったと聞けば思い出す人もいよう

 ▼このゼットンがめっぽう強い。最終回にもかかわらず、ウルトラマンを倒してしまったのである。無敵のヒーローが怪獣に完敗するなど前代未聞。子どもながらその絶望感たるや―。地球もこれで終わり。誰もがそう思ったときに何が起きたか。それまでは脇役に徹していた科学特捜隊が踏ん張りを見せ、力を合わせてゼットンに勝ったのである。頼りになる存在が実はすぐ隣にいたと知って大いにほっとしたのだった

 ▼このコロナ禍で青息吐息の産業界にあって、建設業もそんな頼りになる存在のようだ。日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測(短観)を見て思ったことである。企業の業況判断が軒並みマイナスとなる中で建設業だけが2桁のプラスを維持していた。先に厚生労働省が公表した5月の有効求人倍率でもこの見方は変わらない。全体は1・02倍(実数)と急落したのに、建設は3・92倍、土木は5・07倍、建設躯体は8・92倍と人手不足が続いている

 ▼お金は社会の血液。巡らなくなれば存亡の危機に立たされる。生産活動が停滞したコロナ禍の中でも、建設業はほぼ動きを止めなかった。脇役ゆえ目立たなくはあるが、社会を支え続けていたのである。先の見通しは必ずしも明るくはない。ただ、すぐ隣にヒーローがいると分かれば心強さも増す。


あおり運転厳罰化

2020年07月03日 09時00分

 勝手な思い込みで他人の振る舞いの意味を見抜いた気になる―。誰にでもあることでないか。たいていは的外れだ

 ▼『今日は死ぬのにもってこいの日』(ナンシー・ウッド著)で、インディアンの古老もこう言っていた。「兄弟よ、あなたはわたしに戦いを挑む。兄弟よ、あなたはわからないらしい、わたしたちが今あるようにしか、生きられないってことが。兄弟よ、あなたはわたしとは違う歌を聴いてきたんだ」。違う環境に生まれ育ち、個性も別な人々が同じ考えを持たないのは当たり前。それで争うのは無意味というわけだ。あおり運転をする者もこの「兄弟」と似ている。勝手な思い込みで相手が自分に敵対行為をとったと誤解するのである

 ▼「前をのろのろ走って嫌がらせされた」「わざと進路をふさぎやがって」「後ろにぴったり着けてプレッシャーを掛けられた」といった具合。客観的に見ればそんな状況になる可能性は幾つも考えつく。ドライバーの中には不注意な人も慎重過ぎる人もいるのだ。改正道路交通法が6月30日に施行され、あおり運転が厳罰化された。今後は幅寄せや急ブレーキ、しつこいクラクションなどで他の車の通行を妨害し、危険を生じさせた場合は取り締まりの対象になる

 ▼神奈川県の東名高速で、あおり運転を引き金に夫婦が亡くなった事故はまだ記憶に新しい。逆恨みした男が身勝手な怒りを爆発させた揚げ句の出来事だった。あおり運転に特効薬はない。せめてこの厳罰化が、カッとなりやすい人が相手の事情を察する冷静さを身に付けるきっかけになるといい。


香港の一国二制度崩壊

2020年07月02日 09時00分

 中国人観光客の姿が日本の街角から消えてしばらくたつ。新型コロナウイルスのパンデミックで渡航制限がかかったためである。爆買いが話題になっていたのがもうずいぶん昔のことのようだ

 ▼思えば平和的な光景だった。楽しむためにわざわざ海を越えてやって来るのだから当然だが、笑顔の人が多い。観光地はにぎわい、土産物屋は繁盛、ホテルや交通機関も満員御礼である。日本にとっては大のお得意様だった。その観光客と中国共産党が頭の中でうまく結びつかない人は多いのでないか。観光客の笑顔とは裏腹に、中国は尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返し、南シナ海では勝手に領有権を設定。チベットや新疆ウイグル自治区では圧政を敷いている

 ▼豪作家クライブ・ハミルトンが著書『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)にこう記していた。「北京は、増加する中国人観光客や海外の大学に留学している中国人学生たちを通じた人的な交流さえも『武器』として使って」いる。武力が使えないときは観光や貿易という名のチャイナマネーに物を言わすわけだ。笑顔で抱き込めなければ牙をむく。「中華民族の偉大なる復興」(習近平国家主席)を狙う中国のいつもの手である

 ▼おととい、中国は香港の反体制活動を封殺する国家安全維持法を成立させた。今回も「一国二制度」大いに結構と笑顔を見せながら、民主化の声が高まるとちゅうちょなく牙で押さえ込んだのだ。50年間制度を維持するとした国際公約も踏みつけである。日本も笑顔に気を許しているとどうなるか。


きょうから全国安全週間

2020年07月01日 09時00分

 新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)されているうちに一年の半分が過ぎ、息つく間もなく本道は工事最盛期に突入した。経済が再び動き出し、地域をまたぐ移動制限も解除されたことで仕事には一気に加速がつこう

 ▼ただ、ことしの現場は労働災害に加え、ウイルス感染の心配までしなければならない。いつも以上に神経をすり減らす毎日だろう。ここで今一度気を引き締めたい。きょうから全国安全週間である。労働災害防止の誓いを胸に刻むきっかけには本紙〈建設安全標語コンクール〉の作品も役立ててほしい。今回(第39回)の最優秀作は「やったつもり 見たつもり つもり積もって事故になる!」だった。入選を外れた作品の中にも聞くべき言葉は多くある。幾つか紹介したい

 ▼「危険から 命を守る声掛けは 何より太い命綱」。信頼関係で強く結ばれた現場が目に見えるようだ。「危険を予知して平静に 目指せ令和も無災害」。平成(平静)から令和へ。無災害を貫く固い決意の表れだろう。「うがい手洗いしっかりと 職場に家庭に安全第一」。新型コロナ感染者を出さない、入れないために今一番必要なのは衛生でないか。「危険のウイルス広げるな 感染源が潜んでる」。労働災害も新型コロナも事前にしっかり見極め、撃退することが大事である

 ▼「安全あっての 家族の笑顔 心にとめて『いってきます!』」。やはり最も気に掛けるべきはこれだ。事故を起こして苦しむのは自分だけではない。元気いっぱい働いて、無事に「ただいま!」を言うまでが仕事である。ご安全に。


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