コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 137

ゲリラ豪雨

2020年07月22日 09時00分

 本道ではあまり見られないが、夏の風物詩の一つに夕立がある。少し前まで晴れていたのに突然激しく降り出し、すぐに上がってしまう。その特徴から各地で独特の名が付けられている

 ▼群馬県の一部では「山賊雨」と呼ばれているそうだ。稲刈り中に雷光を見たと思ったら三束を刈る間もなく土砂降りになるからだという。「三束」が「さんぞく」に転じたわけだ。長崎県では「婆威(ばばおど)し」の異名を持つ。雨は生活や災害と密接に関わるだけに、「名は体を表す」で分かりやすい名が付けられているのだろう。その伝でいくと、近年最も知られている新しい雨の名は「ゲリラ豪雨」でないか。風情はないものの突如襲ってくる感じがよく出ている

 ▼そのゲリラ豪雨が今夏、夕立もほとんどなかった本道で数多く発生するかもしれないという。これから9月にかけて、過去5年平均の約1・7倍に当たる220回もの発生が予想されているのだ。民間気象会社ウェザーニューズ(千葉市)が先週発表した。今期は太平洋高気圧の西への張り出しが強いため、東・西日本では天気が安定する半面、高気圧の縁の北日本では湿った空気が流れ込みやすくなるのだとか。集中するのは8月上旬らしい

 ▼ゲリラ豪雨は予報の網をすり抜けて発生するから厄介だ。時間は短くとも大量に降るため、街なら都市型水害、川の上流域なら下流域の氾濫や土石流が懸念される。降水範囲が狭いため近隣でも案外危険を察知しにくい。道民は山賊にもゲリラにも不慣れである。常に情報を集め最悪の事態だけは回避したい。


夜の街

2020年07月21日 09時00分

 昭和演歌には夜がよく似合う。思わぬ出会いや悲しい別れの舞台になるからだろう。ネオンライトに照らされた街は常ならぬ空間となり、そんな物語を作り出す

 ▼藤圭子さんのすごみある声が印象深い『圭子の夢は夜ひらく』(石坂まさを作詞、曽根幸明作曲)もそういった歌だった。しかもお相手は毎日変わる。「昨日マー坊 今日トミー 明日はジョージか ケン坊か 恋ははかなく過ぎて行き 夢は夜ひらく」。今のご時世だと、この歌が事実なら「夢は夜ひらく」というより「感染は夜広がる」だなと冗談の一つも言いたくなるところである。夜ごと付き合う相手をとっかえひっかえするのは、一人でも多く感染者を出そうとしている新型コロナウイルスの思うつぼでないか

 ▼ホストクラブや風俗店まがいのキャバクラで最近、クラスターが発生する例が相次いでいる。気持ちが緩んだせいか、10万円が手に入ったからか、特に20―30歳代の比較的若い人が「夜の街」に繰り出し、感染を広げているという。ススキノのキャバクラでも先日、クラスターが発生してしまった。濃厚接触者は600人に上るとの話もある。しかも風俗的な業態だけに自ら名乗り出る人も少なく、追跡は困難を極めているのだとか

 ▼やはり大切なのは水際対策。政府は「夜の街」の積極的な立ち入り調査に踏み切るそうだ。日常を忘れて楽しむ空間に政府の介入は好ましくないが、事ここに至っては仕方あるまい。藤さんは歌の最後で「一から十まで 馬鹿でした」と歌っていた。「夜の街」はそんな人ばかりではないのだが。


藤井聡太七段が新棋聖に

2020年07月20日 09時00分

 青年期は際限の無い可能性に期待を膨らませると同時に、先の見えない未来への不安におびえる時期でもあるということだろう。「青年の日はながくしてただつよくつよく噛むだけのくちびる」光森裕樹。まだ感受性がみずみずしいだけに、唇をかむような1日はいつまでも終わらない気さえして苦しい

 ▼圧倒的強さを見せつけて勝利したこの17歳の青年も、そんな唇を強くかむ長い1日を何度も経験したはずである。将棋の棋聖戦で、挑戦者の藤井聡太七段が渡辺明三冠(棋王、王将、棋聖)を破りタイトルを奪取した。17歳11カ月での初戴冠は、1990年に屋敷伸之九段が作った18歳6カ月の最年少記録を更新する快挙だ。天才とも呼ばれるが、ここに至るには自分を厳しく鍛え上げてきた毎日の積み重ねがあったに違いない

 ▼勝負を決めた16日の5番勝負第4局では中盤まで渡辺二冠にやや押されていたものの、競り合いから逆転し、最後には得意の戦型「矢倉」で相手をねじ伏せた。舌を巻く強さである。藤井棋聖は現在、王位戦7番勝負にも挑戦している。札幌で先週行われた第2局にも勝利し、木村一基王位相手に2連勝とこちらも快進撃が続く。来月4、5日に予定される第三局を制すると王手である。熱烈な将棋ファンでなくとも気になるところでないか

 ▼ただ、若くしてタイトルを持つことは、常に挑戦を受けて立つ気の抜けない生活が早く始まることを意味する。歓喜と苦悩の間を揺れ動く難儀な日々がこれから長く続こう。棋聖はきのう18歳になった。棋士人生はこれからが本番である。


サンマ一匹6000円

2020年07月17日 09時00分

 生活に根ざした俳句を数多く生み出した俳人石田波郷に、身近な魚を題材にした一句がある。「風の日は風吹きすさぶ秋刀魚の値」。高かったか安かったかまでは触れられていない。ただ、しけのため店頭で高値が付いたサンマを眺めながら、買おうか買うまいか思案している波郷の姿が思い浮かぶ
 
 ▼こちらはしけのせいではないようだが、今期冒頭のサンマ漁も著しい不漁である。初水揚げがわずか197匹だった。釧路市の市場で15日、全国でことし初めての競りが行われ、付いた値段が高いもので1キロ当たり税抜き3万8000円。店頭では1匹5980円で売られたという。高級本マグロの大トロだってこんなに高くはない。普段は控えめなサンマも、この日ばかりはトロ箱の中で「どや顔」をしていたかもしれない

 ▼それにしても近年のこの不漁はどうしたことか。原因として近隣国の乱獲による資源量の急減や海水温の上昇による来遊点の変化などが指摘されているが、はっきりとは分かっていない。何にせよ庶民の食卓から遠ざかっていくのは寂しいものである。サンマを食べたくて仕方がない殿様のために家来が東奔西走する落語「目黒のさんま」も、サンマは下々の者が食べる魚との前提があるからこそ成立する。それが1匹6000円では噺にならない

 ▼とはいえサンマ漁はまだ始まったばかり。これから秋にかけて小型船から大型船へ、流し網から棒受け網へと漁法を変えながら南下していく。「秋刀魚船銀のしぶきを運び来し」目黒穎子。気軽に食べられるよう、そう願いたいものだ。


Go To トラベル

2020年07月16日 09時00分

 公共事業悪玉論、建設業悪者論が世間に大きく広まった時期が過去日本にあった。1990年代のことである。「ゼネコン汚職」への国民の怒りが高まり、財政危機も叫ばれ出したころと重なる。バブル崩壊で社会も混乱していた

 ▼その後何が起きたかはご存じの通り。公共事業費は坂を転げ落ちるように減り、建設業者は問答無用で淘汰(とうた)の荒波に投げ込まれた。理不尽と思われることも多かったのである。本当の不幸はここからだった。予算がないため各種施設の維持補修が遅れインフラは劣化。計画的に進めるべき災害対策も後手に回った。本来なら防げた事故や災害もあったはずである。さらに雇用の受け皿が消えたため失業者も増えた。結果、日本経済は一層縮んだのである

 ▼裾野の広い産業を痛めつけると、そうなるということだろう。事情は全く異なるが、今は観光産業が危地に立たされている。コロナ禍で苦しむ姿を見ていると人ごととは思えない。もう何カ月もほぼ収入ゼロの日が続く。起死回生の切り札に政府は旅行代金の半分を支援する「Go To トラベル」キャンペーンの前倒し実施を打ち出したが、批判の集中砲火を浴びている。〝早過ぎる〟が一番の理由らしい

 ▼ただ新規感染者が多い東京都も重症は7人のみ。全国の死亡者はこのところほとんど増えていない。一方で観光はひん死の状態にある。かつて建設業者にしたように「座して死を待て」と無言の圧力をかけるのはあまりに酷だし筋も通るまい。産業をつぶしては元も子もないのだ。そろそろと動き出したい。


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