コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 190

#KuToo

2019年06月07日 09時00分

 世の中では今、「#KuToo」という社会運動がちょっとした盛り上がりを見せているそうだ。「くーとぅー」と読む。少し前に話題になった女性への性暴力を告発する「#MeToo」になぞらえたものらしい。就職活動や職場で女性にヒール靴を強制する規定の廃止を呼び掛けているのだとか。外反母趾(ぼし)や転倒の原因になるため危険な上、靴擦れを起こしやすいのに押し付けられているとの訴えである。もっともな話だ。靴は我慢大会の道具ではない。時と場合、場所に合わせて最適な種類のものを選べばいいだけのこと。魚市場には長靴、建設現場には安全靴である。就活にヒール靴が不向きなら強制されるいわれはない

 ▼5日の衆議院厚生労働委員会でも尾辻かなこ氏がこの問題を取り上げていた。これに対し根本厚労相は「業務上必要かつ相当な範囲を超えて強制する場合はパワハラに該当する」と答弁。一部メディアは大臣が強制を容認したかのように伝えていたが、実際はそうでなかった。それにしても就活でのヒール靴というのが今一つピンとこない。昔からそうだったろうか。歴史は案外と浅く、バブル崩壊後の買い手市場で横並び意識が異様に高まった結果、無難なヒール靴が標準化したとの説もある。就職支援やマナー教育の業界もこれに便乗し、規範的な風潮を後押しした

 ▼不幸なのは根拠も分からぬ決まりに悩まされる女性たちである。採用担当者はすぐにでも「#KuToo」に賛意を表明すべきだろう。だからといってまさか〝つっかけ〟で会社訪問に来る人もいまい。


目標は燃費44%向上

2019年06月06日 09時00分

 石油燃料で走行する今の車は過去の時代の遺物―。そう断言するのは米カリフォルニア大バークレー校のリチャード・ムラー物理学教授である。著書『今この世界を生きているあなたのためのサイエンス』(楽工社)に記していた

 ▼「ガソリンが安く、誰も環境汚染のことなど心配しなかった」ころの製品で、そのまま進歩していないそうだ。摩擦や空気抵抗で生じた熱を無駄に捨て、燃料を浪費するだけと手厳しい。地球温暖化の影響が深刻な形で現れているのに、「危機感が欠如している」と大層お怒りなのである。その上でハイブリッド車の高性能化や車体の軽量化にもっと真剣に取り組むべきと提言。本気になれば1㍑当たり40㌔の燃費を達成することも可能と述べていた

 ▼この物理学者の直言に技術者は何と答えるだろう。どうやら先送りはできないようだ。国土交通、経済産業の両省が3日、乗用車の新たな燃費基準を2030年度に、現行の20年度目標比44.3%向上させる原案を発表したのである。1㍑当たり17・6㌔を25・4㌔に伸ばそうというのだから小手先の技ではどうにもならない。加えて新基準では発電所などで使ったエネルギーも燃費に反映させるそうだ。電気で動くから「燃費の優等生」とは言えなくなる

 ▼メーカーはこの高い要求に頭を抱えていよう。安全基準やコスト条件を満たしたまま燃費を上げるのは相当に難しい。ただ、いち早く実現できたメーカーは強い国際競争力を手にできる。あと10年。ムラー教授をアッと言わせるような技術が日本から生まれるといいのだが。


あおぞら花月

2019年06月05日 09時00分

 先月後半は異常な高温に悩まされた本道だったが、今月に入りようやく本来の爽やかさを取り戻したようだ。そんな陽気に誘われ、安平町で2日に開催された「JRヘルシーウォーキング」に参加してきた

 ▼12㌔のコース中、一番の見どころは菜の花畑である。黄色い花のじゅうたんが視界を埋め尽くすほど広がる光景はまさに圧巻。馬が草をはむ緑の牧場、パッチワークのような畑。歩いていて実に気分がよかった。あびら復興加速実行委員会主催の観光イベント「菜の花さんぽ」も同時に開かれていたため、この日の町は大にぎわい。特にゴール付近の道の駅あびらD51ステーションはオープンしたばかりとあって、人と車の行列ができていた。新たな楽しさを求めて人は動く。まちおこしの基本だろう

 ▼その道の駅あびらでことし8月、「あおぞら花月」が予定されているそうだ。道と吉本興業が「道民笑いの日」(8月8日)に合わせて毎年実施している〝みんわらウィーク〟の出張お笑いステージである。昨年9月の胆振東部地震で被害が集中した厚真、安平、むかわ3町の復興を応援するために企画されたという。お笑い芸人たちが一日店長を務め、地元のおいしい食事の提供や物産の出展もあるというからつまらないわけがない

 ▼先週のウォーキングは追分地区だったが、塀が崩れていたり、土のうが積まれていたりする箇所がまだあった。人がたくさん訪れれば震災の記憶は風化せず、町にも活気が戻るだろう。一日笑ってまちおこしにも貢献できる「あおぞら花月」は8月3、4の両日である。


親子関係

2019年06月04日 09時00分

 近所に住むほとんどの人は長男が同居していたのを知らず、仲の良い夫婦が二人で暮らしているとばかり思っていたそうだ。東京都練馬区のその一軒家で、44歳の長男が76歳の父親に殺害された。1日のことである

 ▼子どものいる人なら、家庭環境を聞いて考えさせられるところもあったのでないか。父親は「周囲に迷惑をかけてはいけないと思い刺した」と動機を供述しているという。長男は「ひきこもり」だった。職に就かず自室でゲームに明け暮れる毎日。家庭内暴力も常態化していた。当日は隣接する小学校で運動会が行われていて、音がうるさいと怒っていたようだ。それをきっかけに家で口論が始まり、父親が思い余って…。悲劇である

 ▼川崎市でやはりひきこもりだった男が、スクールバスを待つ小学生らを殺傷した事件があったばかり。家で暴力をふるっている長男が今度は怒りの矛先を小学生に向けるかもしれない、と父親が恐れたとしても意外でない。それほどまでに追い詰められていたのだ。文学者坂口安吾が親子関係について随想にこう書いていた。「愛情にしろ憎悪にしろ一生のそして生まれながらの生活史の奥底の根ッ子にからんでいるのだから憎しみの一々に尤も千万な深い根が当然ある」。百組の親子がいれば百の違う事情があるということだろう

 ▼ひきこもりを諸悪の根源とするのはもちろん浅慮にすぎる。とはいえそれが親子の苦しみや憎しみの根を深くしているのも確か。内閣府の調査では今や40―64歳のひきこもりは全国で約61万人に上る。どこかで歯止めをかけねば。


液体のりで白血病治療

2019年06月03日 09時00分

 飛鳥時代に作られた法隆寺のくぎは、千年以上たっても朽ちることがないという。秘密は日本古来の製鉄技術「たたら」にある。『古代日本の超技術』(志村史夫、講談社)で学ばせてもらった

 ▼「たたら」は原料に砂鉄を使う。極めて高い純度の鉄を生み出すが、調べてみると現代の鉄に比べ不純物が一つだけ目立つそうだ。それはチタン。砂鉄にごくわずか含まれる酸化チタンが化学変化を起こし定着するらしい。純度の高さに加え、チタンも鉄をさびから守っていたのである。どこにでもある砂鉄とはいえ、この原料にたどり着くまで当時の人はどれだけ試行錯誤を繰り返したものか。あくなき探究心には驚くほかない

 ▼ところであくなき探究では現代の研究者も負けていない。山崎聡東京大特任准教授を中心とする共同研究チームがこのほど、白血病治療に変革をもたらす画期的な成果を発表した。どこにでもある市販の液体のりを使って移植に必要な造血幹細胞を培養・増幅させるのに成功したのである。幹細胞はウシ血清で培養するが、高価な上に主成分のアルブミンが細胞の安定的分裂を阻害する欠点があった。そこで代替できる物質をシラミつぶしに調べ、液体のりの主成分PVAを見つけたのだという。もちろん世界初

 ▼これで骨髄移植に欠かせない幹細胞を、低コストかつ安定的に増やす道が開かれる。ドナーからの提供を待つしかなかった患者には朗報だろう。千年使えるくぎ、白血病治療の飛躍的な向上。地道な探求の積み重ねがどれほどの高みに達するか、全く信じ難いくらいである。


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