コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 191

最低賃金の引き上げ

2019年05月31日 09時00分

 長距離走を経験したことのある人ならお分かりだろう。ゆっくり走ればあまり疲れずに行けるが良い記録は望めない。一方、能力の限界に挑んだ走り方をすれば好成績を期待できるが、途中で倒れてしまう可能性も小さくない

 ▼どんなペースで走るのが正解か。この見極めが簡単なようで意外と難しい。条件が自分の走力や体調だけならまだしも実際は風も吹けば雨も降る。気温が異様に高くなるときだってあるのだ。そんな速いペースでは息切れを起こし倒れる者が続出する―。日本商工会議所など経済界が政府に対し、そう異議を申し立てているそうだ。最低賃金引き上げの話という。政府内に根強い「年率3%以上」の方針が実施に移されると、中小企業の経営がもたないとの主張である

 ▼経済運営はゴールのない長距離走のようなもの。引き上げもペースを間違えると経済に悪影響を及ぼす。そこで経済界は先頃、「3%をさらに上回る目標を新たに設定することには強く反対」との要望を出したのだった。アナリストのデービッド・アトキンソン氏の近著『日本人の勝算』(東洋経済新報社)を最近読んだ。そこで氏は人口減や高齢化、経済低迷といった日本の課題を一挙に解決するには最低賃金の引き上げが不可欠と提言していた。経営者の意識改革が何より大切らしい
 
▼もとより経済界も引き上げには反対していない。悩ましいのはそのペースだ。一気に上げ過ぎて経済が失速した韓国の例もある。日本の中小企業も長らくデフレの雨に打たれ体調は今一つ。限界に挑め、ともなかなか言いにくい。


川崎の通り魔

2019年05月30日 09時00分

 うちの子どもが幼稚園に通っていたころ、通園バスまでの送り迎えを何度かしたことがある。家から歩いて5分ほどの交差点の近く。集まっているのはいつも同じ幾組かの親子だった

 ▼気心の知れた子どもたちはすぐにじゃれ合いを始め、仲の良いお母さんたちも世間話に花を咲かせる。程なくバスが到着し、降りてきた先生の明るいあいさつの声が響く。子どもたちの笑顔がはじける。乗り込む姿は元気いっぱいだ。この日常風景に危険な部分は一つもなく、安全が脅かされるような気味の悪さを感じたこともなかった。今回は幼稚園でなく小学校のスクールバスだったが、やはり危機感とは無縁の場所だったろう。当然、そうでなければならなかったのだ

 ▼おととい、川崎市多摩区登戸新町の路上でバスを待っていた私立カリタス小の児童と保護者合わせて19人が刃物を持った男に突然襲われ、小6の栗林華子さん(11)と他の児童の父親小山智史さん(39)が殺害された。あとの17人も重軽傷を負ったという。容疑者は刃渡り30㌢の包丁を両手に持ち、無言で次々と切りつけたらしい。揚げ句、その場で自殺。大切な命を奪い、社会に不安を与え、責任もとらない。あきれた卑劣さだ。日本が銃社会でなかったことだけが救いか

 ▼「ちちと娘と待ち合はせゆふべ帰るさまウィンドの続くかぎり映れる」松平盟子。二人仲良く帰ってくる父娘の姿を、お母さんが窓から見守っているのだろう。そんな日常を永遠に失った家庭がある。人の幸せを壊す蛮行を断じて許すわけにはいかない。どんな事情があろうと。


利休茶道のもてなし

2019年05月29日 09時00分

 茶道を確立させた千利休は客を心からもてなすことが茶の湯の神髄と考えていたらしい。流儀や作法にはこだわらなかったようだ。利休研究で名高い歴史学者桑田忠親氏の著書『茶道の歴史』(講談社学術文庫)に教えられた

 ▼茶席では身分の分け隔てなく亭主が客を同じ一人の人間としてもてなす。互いに「いい気持ちになれば、それが一座建立です。そういう相愛和合の境地をつくりあげることが、茶の道です」。客の気持ちを読み、茶席にいる間だけは心の裃(かみしも)を脱いで愉快にすごしてもらう。利休が豊臣秀吉とも徳川家康とも親交を深められたのは、そんなもてなしの精神に徹していたからである

 ▼今回の安倍首相のトランプ米大統領への手厚いもてなしも、利休茶道をほうふつとさせるものがあった。トランプ氏は令和初の国賓として25日からきのうまでの日程で日本を訪問。首相とゴルフを楽しみ、特別しつらえの升席で大相撲を観戦し、天皇、皇后両陛下主催の宮中晩さん会にも出席した。まさに下にも置かぬ歓待ぶり。一部の野党やメディアが「異例の厚遇」と論難し、ワイドショーでは「これでどれだけ見返りがあるのか」と文句をつける人までいたくらい。ただ欧米に比べ演出不足、気配り下手のかつての日本外交もまた批判の対象だったはず

 ▼貿易問題はあるものの今回、世界経済を先導する同盟国が絆を強め、内外にアピールできた意義は大きい。これも日本伝統の「おもてなし」の力だろう。とはいえ、度が過ぎると利休のように足をすくわれる。首相も気を付けられたい。


5月の風

2019年05月28日 09時00分

 春には春、冬には冬の歌があるからだろう。その季節になると昔よく聞いていた歌をふと思い出すことがある。例えば今時期なら、本道出身のフォークデュオふきのとうの「5月(May Song)」(細坪基佳作詞作曲)がそう。1975年のアルバムに収録されていた

 ▼細坪さんの透明な声が頭の中で響く。「好きなのは 5月の風 甘い香り やさしい光 緑の中に 寝そべって 大きな欠伸 両手に包む」。そう、本道の5月といえば日中は暑過ぎず寒過ぎず。この歌詞のような爽やかさが持ち味だったはず。ところがきのうまでのあの異常な暑さである。動物園のホッキョクグマさながら、少しでも涼しい場所を見つけてあまり動かずにいた道産子も少なくなかったろう

 ▼札幌管区気象台によると、26日は道内173観測地点のうち44地点で猛暑となり、真夏日も107地点を数えた。佐呂間では午後2時7分に39・5度を記録し本道の年間最高気温を更新。平年差実にプラス21・7度というから驚く。NHK連続テレビ小説「なつぞら」の好評のせいでもあるまいが、十勝も季節外れの夏空に覆われた。帯広や池田で史上1位の38・8度を観測したのである。この日は全国の最高気温上位10地点を北網・紋別と十勝で占めたという

 ▼強い暖気が入った上に、中央の山々を越えた風がフェーン現象を起こしたらしい。きのうも気温は高く、道北や道央、道南にかけて一層暑さが増した。それも一段落。きょうあたりからフェーン現象の風でなく、ようやく誰もが好きな爽やかな5月の風になりそうだ。


日本はすごい?

2019年05月27日 09時00分

 今も静かにブームが続いている感はあるものの、一番盛り上がりを見せていたのは5年ほど前になるだろうか。いわゆる「日本すごい論」のことである

 ▼『やっぱりすごい日本人』(あさ出版)といった題名の本が書店の主要な一角を占め、同じ趣旨のテレビ番組も数多く放映されていた。そのほとんどはあれこれ実例を挙げ、「日本人自身は気付いていないけれど、実は日本はすごい国なんです」というものである。日本がすごいと言われて悪い気はしない。魅力や長所に気付くのもうれしいことである。ただ日本人は他人からの評価は気にするが、自己主張は苦手。内輪受けを狙ったべた褒めも良しとしない。「日本すごい論」を聞くとどこか居心地の悪さを覚えるのはそのせいだろう

 ▼そこへいくとこの調査は客観的で素直に喜べるのでないか。米ペンシルバニア大と米誌「USニューズ&ワールド・レポート」などが最近まとめた2019年〝世界最高の国〟ランキングで日本が80カ国中、2位に選ばれた。昨年の5位から3つ順位を上げたそうだ。最も優れているのは起業家精神。専門技術や教育の高さ、整ったインフラがビジネスを常に革新させているという。期待成長性や生活の質、政治権力の分散、人権への配慮も評価が上がっている

 ▼ちなみに1位はスイス、3位がカナダ、以下ドイツ、英国と続く。ところでよく指摘される事実だが、この手の調査を受けての外国人の感想は「わが国の評価が低過ぎる」。対する日本人は「こんなに高いはずがない…」。いやいや実は日本はすごいのである。


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