コラム「透視図」

謎の飛行物体 

2020年06月19日 09時00分

 世の中の雰囲気が全体に暗く沈んでいるとき、決まって流される歌がある。「九(きゅう)ちゃん」こと坂本九さんの『上を向いて歩こう』(永六輔作詞、中村八大作曲)である。大きな災害のあった後がそうだし、このコロナ禍のさなかにも耳にした

 ▼「上を向いて歩こう 涙がこぼれないように 思い出す 春の日 一人ぽっちの夜」。一人ぽっちの歌なのに、一人ぽっちでないような気がするから不思議である。きのう、仙台など東北の太平洋側各地でも上を向いて歩く人の姿が多く見られたようだ。謎の飛行物体が空を漂っていたためである。映像を見ると白い気球に十字型の物体が吊り下げられている

 ▼気象観測用ラジオゾンデに似ているが、国土交通省や気象庁も全く覚えがないという。しかも気流に流されもせずほぼ同じ位置にとどまっていた。長らく続いたコロナ自粛でうつむく日々が多かったせいだろうか。そんな奇妙な物体にもかかわらず、ニュースに映った人々の顔は皆どこか楽しげだった。仙台の友人に早速連絡をとってみると、自分は見ていないものの地元はその話題で持ちきりとのこと。テレビで毎日、あの毒々しいウイルスの丸い姿を見せられているのだ。それに比べれば、青空を背景に白く輝く丸い姿はよほどすがすがしい

 ▼喜劇王チャップリンはかつて、「下を向いていたら、虹は見つけられない」と言ったそうだ。歌の続きのように「幸せは 空の上に」あるかどうかは分からない。ただ、上を向けば新たな発見があるのは確かだろう。それに、気持ちも少し上向きになる。


イージスアショア停止

2020年06月18日 09時00分

 授業でペリー来航を学んでいるとき、一緒にこの狂歌を覚えた人も多いのでないか。「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四はいで夜も寝られず」。お茶(上喜撰)の4杯と蒸気船の4はいを掛け、どちらもそれが原因で眠れないというわけだ。黒船はそれほどの驚きと恐怖を江戸にもたらしたのだろう

 ▼思い出すのはお台場の逸話である。1853年、ペリーが現れ開国を要求すると、幕府は1年の猶予を要求した。黒船は江戸を一瞬で火の海にする艦砲を備えていたが、江戸湾岸には対抗できる火器が十分にない。幕府は1年で幾つもの台場(海上砲台)を築き、強力な大砲を据えたのだ。翌年再び来航したペリーは砲台を確認すると安易に近付かず、脅し外交も見直したという。自立を守るのに防衛力がいかに大事かを今に伝える逸話である

 ▼政府は15日、他国のミサイル攻撃に備える地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の配備手続きを停止すると発表した。現代の台場は築かれなくなったらしい。核弾頭搭載可能な北朝鮮の弾道ミサイルに脅威が高まる2017年に導入を決めた装備である。停止の理由は、発射後のブースターを安全に落下させられないからだという。甘い見通しや雑な調査、説明不足は批判されて当然だ

 ▼とはいえ安全保障環境は依然厳しい。北朝鮮は南北共同連絡事務所を爆破するなど過激の度を強め、中国公船も連日のように尖閣周辺の領海に侵入している。ここで隙は見せられない。政府はすぐに次の策を示すべきだろう。「夜も寝られ」ぬ事態は誰も望んでいない。


どうみん割

2020年06月17日 09時00分

 最近の若い人ならまず使わない言葉だろう。「命の洗濯」のことである。「いい旅だった。久々に命の洗濯をしたよ」というように使う。日頃の苦労から解放され、のんびり気ままに楽しむ心境をたとえた表現である

 ▼ノンフィクション作家高野秀行氏もエッセー「長生きしたけりゃ旅に出ろ!」で、旅に出ると新たな刺激を多く受けるため1日が長く感じる体験を取り上げていた。これもまた命の洗濯効果でないか。高野さんは主に初めて訪れる海外の土地を例に挙げているが、近場の小旅行でも体感としては時間の流れがずいぶんと違う。「霧ふかき山ふところの温泉町かな」岩井二山。ひなびた温泉宿の露天風呂につかりながらぼんやり空を眺めていると、しばし時も忘れる

 ▼ただ、飲食や宿泊を含む観光関連産業は今、大変な危機にひんしている。どの業種も多かれ少なかれ新型コロナウイルスの影響を受けてはいるが、ここまで一遍に需要が消えた業種はあまりない。客足が途絶えてもう4カ月以上たつ。鈴木直道知事もてこ入れを考えているようだ。7月から、道民に旅行代金の最大半額を助成する「どうみん割」を始めるのである。予算は23億円。道内観光客の85%が道民ということを考えれば域内の観光関連需要創出効果は100億円に迫るのでないか

 ▼高野さんはこう呼び掛けていた。「ウォーキングなんてしてる場合じゃないですよ。知らない土地を旅して存分に延命しましょう」。せっかくである。ことしは「どうみん割」を使って命の洗濯に出掛け、自分と観光業の延命を図るとしよう。


クルド人のデモ

2020年06月16日 09時00分

 孫子の兵法の一つに「借刀殺人」があるそうだ。物騒な言葉だが、本質は他者の力を借りて自分の目的を果たすところにある。「戦わずして勝つ」を基本に据える孫子らしい計略といえるのでないか

 ▼教えはこうだ。「敵国を倒そうとするときには有利な条件を提示するなどして第三国を取り込みその国に敵国を攻撃させよ」。自国は労せず利だけ取る。第三国が喜んで戦力を差し出すよう仕向けるのがコツだという。どんな戦いでもこれは同じ。よく見ると一般社会でもこの計略が使われているのが分かる。最近、東京で二度にわたり実施されたクルド人差別に抗議するデモもそうだ。クルド人の男性が警官に暴力を振るわれたとして、支援者と共に渋谷警察署前で声を上げたのだった

 ▼ところがこの男性、不穏な運転を理由に警官が車を停止させ職務質問をしたところ、逃げようとしたため取り押さえられたのだとか。これでは日本人でも全く同じ扱いを受けたに違いない。警察としては規定通りの手順だろう。折しも米国で警官の暴力により黒人男性が死亡し、騒ぎになったばかりだった。クルド人男性も差別に絡めれば支援者が恨みを晴らしてくれると考えたのかもしれない。今回は警察たたきに便乗したいマスコミや一部政治家も支援に回った。互いを利用したのだ

 ▼その渦中の13日、「日本クルド文化協会」は「デモは支持しない。男性の行為に擁護の余地はなく、警察の要請に適切に対応すべきだった」との声明を発表した。事実確認をした上での結論だという。小手先の計略は結局、身を滅ぼす。


種苗法改正案成立

2020年06月13日 09時00分

 絶妙な力加減で正確に放たれるショットや、追い込まれてからの鮮やかな逆転劇―。2018年平昌冬季五輪でのカーリング日本女子チーム「ロコ・ソラーレ(LS)」の活躍はまだ記憶に新しい

 ▼息詰まるプレーはもちろん、ハーフタイムにおやつを頬張る「もぐもぐタイム」も話題になった。特に注目を集めたのは地元北見の銘菓「赤いサイロ」とイチゴだろう。白いユニホームに、真っ赤なイチゴがよく映えた。このイチゴは韓国産で、大ぶりな上に甘さも素晴らしかったようだ。感想を聞かれた選手たちが絶賛していたのを覚えている人もいよう。ところがこのイチゴ、日本から流出した品種が韓国で無断に栽培されたものだったらしい。当時も農林水産省が問題視していた

 ▼日本国内で長い時間とお金をかけて開発された品種が韓国や中国に持ち出され、流通している例が実は多いのである。この状況を改善するための切り札となる種苗法改正案の今国会成立を、政府・与党が見送ることに決めたという。有名女優がSNSで表明した反対の意思に一部野党も便乗。世間で懸念の声が広がった。「特定の企業を利する」「農業者の負担が増す」が反対の理由だが、誤解である

 ▼たとえば「ドラえもん」のアイデアが他国に持ち出され、そちら発の漫画として簡単に大きな利益を上げられるとしたらどうか。種苗には現在、そうした開発者の権利を守る手立てがない。改正案はその不利を解消するものだ。あの五輪のとき新種苗法があれば、LSの選手たちが食べたのは「日本産」イチゴだったのである。


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