医学的には無益不要の処置だと証明されていたハンセン病の強制隔離だが、政策の根拠となる「らい予防法」が廃止されたのは1996年のことだった。53年頃には治療薬が普及し、感染力も弱いと分かっていたのだからあまりに遅い
▼厚生労働省が隔離の開始から廃止までの経緯を「ハンセン病問題に関する検証会議」最終報告(2005年)にまとめている。この中には、マスメディアの責任を問う一節もあった。病気に関する報道が時に偏見や差別を生み出し、助長するケースがあると分析しているのだ。2つのケースを指摘していた。「過剰な報道が不安や恐怖心を増幅させる」「報道すべきことを十分に報道せず、社会に広く流布する誤解を訂正したり、課題の克服を促す契機を提供できずに終わる」である
▼東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出を巡る問題でも、同じ轍(てつ)を踏むメディアが少なくないのはどうしたわけか。科学的に安全との評価が出ているのに反対の立場を崩さない。国際原子力機関(IAEA)はおととい、多核種除去装置ALPSで処理した水を薄めて放出する東電の計画を、「国際的な安全基準に合致している」との報告書を公表した。これまで多くの科学者が示してきた見解を裏書きするものだ
▼ところが各種報道を見ると、ここに至ってもまだ放出に難色を示すメディアが散見される。風評被害が懸念されるというのだが、先の2つのケースそのまま、メディア自身が風評被害を拡大再生産しているのが実状だろう。不安をあおるのが仕事ではあるまい。