コラム「透視図」

ヒグマが人里に

2019年09月04日 09時00分

 アイヌ文化の伝承と研究に一生をささげた萱野茂氏がまとめたアイヌ民話集『炎の馬』(すずさわ書店)に、「ユカラを聞きたいクマ」という話があった。長らく山奥に暮らしていた一匹のクマが自分の身に起こったことを語るのである。アイヌ民話はこうした主人公による独白形式が多い

 ▼クマはこう語り始める。「ある日のこと、人間の住んでいる里へ行ってみたくなり、ゆっくりゆっくり山を降りて来ました」。クマは人里へ遊びに行ってみたかったのである。なぜかというとそこでは「神の国でも食べたことのない」おいしいだんごや菓子、干し魚、山菜、酒をたっぷりと飲み食いさせてくれるから

 ▼最近も同じかもしれない。札幌をはじめ北広島、江別の住宅街でヒグマの出没する例が後を絶たない。住宅街には「山では食べたことのない」おいしくてカロリーも高い備蓄食材や残飯、畑作物がたくさんある。果実やドングリ、小動物をちまちま探して歩くより効率がいい。きっと神に戻った気分だろう。藤野に居座っていた個体は駆除されたものの、小別沢や清田、江別市森林公園内、北広島市西の里とその後も目撃、食痕の情報は枚挙にいとまがない。当社「e―kensin」のクマ情報マップを見てもその多さは一目瞭然だ

 ▼通常は木の実の豊富な秋には山から出ないとされるが近頃は様子がおかしい。推計に反して増え過ぎていないか、個体数の把握にも本腰を入れるべきでないか。先の民話で歓迎の宴が開かれるのはクマを眠らせ(殺し)てからである。そんな事態はできるだけ避けたい。


柔道男女混合団体戦

2019年09月03日 09時00分

 講道館四天王の一人、柔道家富田常次郎は1905(明治38)年から明治の終わりまで米国で柔道を教えていた。当時、こんなことがあったそうだ。次男の富田常雄が書き残している

 ▼ボクサーが常次郎に試合を申し込んできた。柔道は見世物でないと拒んだものの納得しない。度重なる挑戦にとうとう断りきれなくなり試合を受諾。日本柔道を代表する者として、やるからには負けられない。丸一日、作戦を練った。常次郎は試合開始と同時に床に寝転んだ。そして攻めあぐね態勢を崩しながら打ち掛かってきた相手に見事なともえ投げを決めたのである。時代は違えど、日本代表としての責任感と誇りは常次郎と寸分の違いもなかったろう

 ▼柔道・世界選手権東京大会の最終日に行われた男女混合団体戦で、日本がフランスを下し金メダルを獲得した。お家芸として勝って当たり前とされる中、しかも日本武道館での試合である。大会3連覇がかかってもいた。選手はどれほど重いプレッシャーを感じていたか。柔道は個人競技だが、6人でチームを組む団体戦には独特の面白さがある。負ける選手がいても、先に4勝すれば良いのである。見ている方は一喜一憂、興奮の大きな波が寄せては返す

 ▼対戦で芳田司と村尾三四郎は惜しくも敗れたものの、影浦心と大野将平の機を見るに敏な技の切れ味、新井千鶴と浜田尚里の盤石な寝技はまさに圧巻。今大会で日本は金5個、銀6個、銅5個のメダルを獲得した。来年の東京五輪では男女混合団体戦が新種目として加わる。また一つ五輪を見る楽しみが増えた。


世界初のiPS角膜手術

2019年09月02日 09時00分

 見えるありがたさを目の不自由でないわれわれは忘れがちだ。富士メガネ(札幌)がボランティアで続ける海外難民視力支援を知り、それを痛感させられた

 ▼目で情報を得られない難民の生活は極めて過酷。状況を改善しようと1983年から、同社は世界中の難民らに眼鏡を贈る活動に取り組んでいるのである。創業者金井武雄氏の「モノが見えることで、人生を助けることもできる」との思いが基礎にあるという。活動を伝える『日本でいちばん大切にしたい会社2』(あさ出版)に印象深い一節があった。国連難民高等弁務官事務所から掛けられた感謝の言葉だ。「〝視覚〟という贈り物は貴重だ。視力が回復するや、個人の人生は大きく変わる。子供も大人も学習が可能となり、阻害された状況から立ち直ることができる」

 ▼西田幸二大阪大教授(眼科学)らのグループが人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した角膜組織を患者に移植する世界初の手術を実施したとの報に触れ、先の例を思い出した。今回の臨床研究が成功すれば、亡くなった人からの角膜提供を待つしかなかった多くの患者を救うことになる。容易に手に入らなかった眼鏡を必要なだけ供給できる体制が整えられるようなものだ

 ▼幸い手術後の経過も良く、ほぼ見えない状態だった40代の女性の視力は日常生活に支障がない程度にまで改善しているとのこと。危惧されていた拒絶反応も起きていないそうだ。うれしかったろう。人生を大きく変える視覚という貴重な贈り物が、回復を願うたくさんの患者に早く届けられるといい。


トヨタとスズキが資本提携

2019年08月30日 09時00分

 日本経済の底力の源泉が中小企業にあるというのは神話のようなものだ―。小西美術工藝社社長を務める経済評論家デービッド・アトキンソン氏は『日本人の勝算』(東洋経済新報社)でそう分析する

 ▼中小企業は高度成長期に雇用の受け皿が大量に必要になって増えたもので、当時、屋台骨だったのは間違いない。ただ今では経営資源が分散されることで逆に生産性向上を阻害する要因になっているとの指摘である。では神話を抜け出し現実を生きるにはどうすればいいか。アトキンソン氏の処方箋は企業規模の拡大だ。学校が統廃合するように企業も集約の方向に進み、人や技術、知識、資金を効率的に運用して新しい価値を生み出すべきだという

 ▼中小企業はもちろん、世界市場の中では大企業もこの例外ではない。トヨタ自動車とスズキの狙いも同じだろう。おととい、両社が資本提携に合意したと発表した。これでトヨタ連合、日産・三菱連合、ホンダの国内自動車業界3陣営の競争は一層激しさを増す。自動車業界は今、自動運転やICT活用、電動化といった最先端技術の開発で異業種からの参入が相次ぐ大変革期。そんな中、スズキとしては単独では難しい自動運転技術を共同開発でき、トヨタとしてもスズキが圧倒的シェアを持つインド市場に飛び込める。経営資源をそれぞれの得意分野に集中できるメリットは計り知れない

 ▼人口が減り市場が縮小に向かう国内では特に、自動車に限らずさまざまな業界でこれから合併や提携、グループ化の流れが進むのだろう。神話の出る幕はなさそうだ。


厚労省改革に若手提言

2019年08月29日 09時00分

 童話作家宮沢賢治の代表作『銀河鉄道の夜』にはいささか奇妙な人物が幾人か登場する。「鳥を捕る人」もその一人。天の川の岸辺でツルやサギをつかまえる商売をしている人である。この世界ではお菓子のようで大層人気らしい

 ▼この鳥捕りがひと仕事終えて客室に戻ってきたときのせりふが昔から好きだった。「ああせいせいした。どうもからだにちょうど合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな」。無理せず、かといって怠けたりもせず、足るに必要な分だけ働くのが充実感を得る秘訣(ひけつ)ということだろう。やさしい言葉で働き方の極意を教えられた気がしたものである。厚生労働省の若手職員が言いたいこともつまりそれでないか

 ▼現状に強い危機感を抱いた若手職員の検討チームが26日、同省を変えるための緊急提言をまとめ、根本匠大臣に提出した。果たすべき使命とままならぬ現実とのはざまで苦しみ、過剰労働で燃え尽きる人が後を絶たない事態を打開しようとの試みである。チームには「生きながら人生の墓場に入った」「毎日いつ辞めようか考えている」といった悲痛な声が続々と寄せられたそうだ。年金、少子高齢化など懸案は多いのに、深刻な人手不足や古い組織風土が業務を妨げる。時間無視の一部国会議員もそれに拍車をかけているのだとか

 ▼働き方改革の先頭に立つ官庁が、全省庁の中で最も「ブラック」とは情けない。職員だってひと仕事終えて、充実感とともに「ああせいせいした」と言いたかろう。墓場での仕事が国民のためになるとは到底思えない。


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