コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 3

G7広島サミット

2023年05月19日 09時00分

 俳人の長谷川櫂さんによると、異質のものを受け入れ、選び、変容させる「和」の力が日本に大きなエネルギーをもたらす根源になっているそうだ。『和の思想 日本人の創造力』(岩波現代文庫)で学んだ知見である

 ▼はるか昔、この国の人々は自分たちのことを「わ」と呼んでいた。それにいつしか「倭」の漢字が当てられ、「和」に改められたところで、調和が日本人の理想像になったと長谷川さんは推測する。「対立するもの、相容れないものを和解させ、調和させる」「殺し合ったりせず安らかに生きたい」。日本人はその思想で全てを発展させてきたというのである。納得できる話でないか。岸田首相も今、そんな心境でいるに違いない

 ▼首相が議長を務める先進7カ国首脳会議(G7サミット)がきょうから21日まで、広島市で開かれる。最大のテーマはロシアのウクライナ侵略や中国の一方的な現状変更の試みに対抗すべく、民主主義国の指導者の集まりとして一枚岩の結束をアピールすることだ。G7を構成する日本や米国、欧州各国は価値観を全て共有しているわけではない。それぞれ事情があり、経済的な利害関係もあれば、ロシアや中国との立ち位置もばらばら。各国首脳は皆、腹に一物ある手強い人物ばかりである

 ▼岸田首相はそんな立場も意見も違う猛者たちを「和」の思想でどうまとめるのか。最終日の共同宣言は慣例で開催国首脳の意向が尊重される。きれい事だけでは存在感も国際社会への影響力も持ちえまい。対立するものを調和させ事態を動かす。首相の真価が試される。


電気料金値上げ

2023年05月18日 09時00分

 太平洋戦争時、国民の戦意高揚のため盛んに使われた標語に「欲しがりません勝つまでは」があった。説明するまでもあるまい。この戦争に勝つまでは嗜好(しこう)品やぜいたく品は欲しがらないという意味である

 ▼必要最低限の物資で我慢して暮らし、国民一丸となって目的を達成しようとの雰囲気を醸成した。国民学校の女子児童が、大政翼賛会と新聞社の募集する国民の決意を表す標語に応募したものという。リズムの良さに加え、国民性にぴたりとはまったところが流行語となった理由だろう。その精神は連綿と続いているようだ。日本社会にはいまだに、目的に達するまで自罰的に我慢を強いる傾向がある。昨今の電気を巡る情勢にもそんな構図が見えはしないか

 ▼政府はおととい開いた物価問題に関する閣僚会議で、国に申請が出されていた北海道電力など電力大手7社の電気料金値上げを了承した。各社平均で15―39%余りの大幅な値上げとなる。値上げの実施予定日は6月1日。もうすぐである。一方で電力需給を安定させ、料金も下げられる原子力発電所の多くは止められたままだ。中でも東日本では一つも再稼働していない。原子力規制委員会の審査が終わらないためだが、東日本大震災から12年もたつのにこのありさま

 ▼全てが整わなければ動かさない。高い電気料金で我慢しよう。「欲しがりません勝つまでは」というわけだ。その間にお金はもとより、技術も人材も失われつつある。どこかで目的を取り違えたのでないか。敗戦に向けて突き進んだかつての日本の暗い雰囲気を思う。


ヒグマの知能

2023年05月17日 09時00分

 幼い子どもと静かなひとときを過ごすのに、絵本ほど役に立つ小道具はない。筆者も昔はよくお話を読んであげながら、子どもたちと一緒に絵を楽しんでいたものだ

 ▼今でも覚えている絵本の一つに、わたなべしげおさんが文、おおともやすおさんが絵を担当した『どうすればいいのかな?』(福音館書店)がある。子グマがお出掛けをするため一人で着替えをしているのだが、シャツを履いたりパンツをかぶったり。小グマがとぼけた顔で黄色いパンツをかぶっている絵などを見ると、子どもは大はしゃぎである。「違う違う」と教えてあげたりして。試行錯誤を繰り返した末、服の着方をしっかり学んだ子グマは元気よく出掛けてゆく。なかなかに賢い

 ▼見たところ絵本に登場する子グマは、3、4歳の子どもをモデルにしている。最新の研究で本道に生息するヒグマの知能も、犬と霊長類の間と推測されているそうだ。だいたい同じくらいということである。好奇心旺盛で学習能力が高く、記憶力も悪くない。幌加内町の朱鞠内湖で14日、釣りをしていた男性の行方が分からなくなった。ヒグマに襲われた可能性が高い。大半のヒグマは人の気配を察すれば逃げるが、最近はエサとして狙ってか興味を持ってか、自分から人に近付いてくる個体も増えていると聞く。人を怖がるといった過去の常識が通用しなくなっているのだ

 ▼ヒグマの生活様式は人間社会を反映して変わる。彼らも日々学び続けているのだろう。ことしも全道各地で目撃例が相次いでいる。お出掛けがかち合わないよう人も学ばなければ。


LGBT理解増進法

2023年05月16日 09時00分

 今の若者は知らないかもしれないが、昭和の時代に子どもだった人なら十返舎一九の『東海道中膝栗毛』をよくご存じだろう。弥次さんと喜多さんが東海道を徒歩旅行したときの道中記で、江戸後期の一大ベストセラーとなった物語である

 ▼二人は行く所行く所で必ずおかしな事件や騒ぎを巻き起こす。多くの人が子どものころ親しんだのは、そのドタバタ劇の面白い部分だけをまとめ、笑い話に仕立てたものである。実はただの珍道中記ではない。江戸時代の読者は本当の意味も理解して楽しんでいた。それは弥次さんと喜多さんが同性愛者だったこと。旅回りの役者だった喜多さんに弥次さんがほれ、相思相愛となって駆け落ちしたのである。性に関しておおらかな社会だったらしい

 ▼その流れは現代の日本にも残っていよう。生まれつきの性と心の性にずれがある性的少数者(LGBT)の問題が騒がれる前から、欧米のような激烈な拒否反応は少なかった。どこかおうように眺めていたようなところがある。もし嫌悪感が強ければ、タレントのマツコ・デラックスさんもこれほどの人気者にはなれなかったのでないか。欧米のキリスト教社会は、同性愛を宗教上の罪としてきた伝統がある。LGBT差別に立法が必要なゆえんだろう

 ▼日本でも今、自民党が急ピッチで「理解増進法」制定へ向け突貫工事を進めている。G7広島サミットまでに形にしたいとの思惑があると聞く。何でも欧米に合わせることもあるまい。もっと腰を据えて取り組んではどうか。ドタバタと駆け抜けても後で笑われるだけだ。


150議席未満で辞任

2023年05月13日 09時00分

 経営学者のP・F・ドラッカーは目標を設定することの重要性を説いている。著書『マネジメント 基本と原則』(ダイヤモンド社)の冒頭に、一節を設けていた

 ▼そこではアルキメデスの「立つ場所を与えてくれれば世界を持ち上げてみせる」を引き、この「立つ場所」こそが大切だと教えている。「立つ場所」とは集中すべき分野。その目標があって初めて「われわれの事業」を明確に定義できるというのである。それがないと良質の人材と資金を引き寄せられなくなるとドラッカーは言う。組織が衰退する最初の兆候は「有能でやる気のある人間に訴えるものを失う」ことらしい。党の代表といえばトップマネジメントを担う人物である。さて、立憲民主党の泉健太代表が打ち出した目標は適切だったのかどうか

 ▼10日の両院議員懇談会で、次期衆院選の獲得議席が150未満なら辞任するとの意向を表明した。現在、立民に所属する衆院議員は97人。企業なら売り上げをいきなり1・5倍にする目標である。「立つ場所」が分からず、中身の改善もないのにどうして実現しようというのだろう。NHKの最新世論調査で立民の支持率は5.3%と低迷を続けている。与党自民党への攻撃は激しいが、それで支持率が伸びる気配も、良質な人材が集まってくる様子もない

 ▼泉代表は決意と覚悟を述べたのだという。ただ、現実離れした目標は社員のやる気をそぐ。党も同じに違いない。ドラッカーの言葉はさらに続く。「目標は、実行に移さなければ目標ではない。夢にすぎない」。目を覚ました方がいい。


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