コラム「透視図」

やまゆり園事件に判決

2020年03月18日 09時00分

 童謡「ぞうさん」や「一ねんせいに なったら」の作詞でも知られる詩人のまど・みちおさんは、こんな考えを持っていたそうだ

 ▼「私は私という人間ですけど、こういう人間になってここにいようと思ってここにいるわけではないんです。私だけでなくてあらゆる生き物がそうなんです。気がついたら、そういう生き物としてそこにいる。ということは、やっぱり、生かされてるっちゅうことじゃないでしょうか」。100歳の時の言葉だという。『どんな小さなものでも みつめていると 宇宙につながっている』(新潮社)に教えられた。全ての生き物は生かされてここにいる。小さな命にも常に優しいまなざしを向け続けたまどさんは、生涯を通じそれを伝えてきたのだ

 ▼2016年に相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人を殺害し殺人罪に問われた植松聖被告の頭には、最後までそんな考えはかけらも浮かばなかったに違いない。16日、横浜地裁は求刑通り死刑判決を言い渡した。まどさんの詩を引く。〝ぼくが/ここに/いるとき/ほかの/どんなものも/ぼくに/かさなって/ここに/いることは/できない(略)ああ/このちきゅうの/うえでは/こんなに/だいじに/まもられているのだ/どんなものが/どんなところに/いるときにも/その「いること」こそが/なににも/まして/すばらしいこと/として〟

 ▼入所者が全力で生きようとして「いること」、家族らに愛されて「いること」。その素晴らしさに気付こうともしなかった惨めな人間の末路がこれである。


共犯関係

2020年03月17日 09時00分

 ニュースや事件物のテレビドラマで見た覚えがある人も多いのでないか。犯罪集団が内部の結束力を強めるため昔からとっている方法に、構成員一人一人に法律を破る悪事を働かせるやり方がある

 ▼その中身は暴行や盗み、詐欺など犯罪そのものから、見張りや下準備、逃走の手伝いといった後方支援までいろいろだ。捕まるときは一蓮托生(いちれんたくしょう)。共犯関係を作り、裏切りをできにくくするわけだ。関西電力の役員らが高浜原子力発電所が立つ福井県高浜町の森山栄治元助役から表に出せない金品を受領していた事件も、それと似た構図があったらしい。第三者委員会が14日に報告書を発表した。懇意の企業に工事を受注させ自分も利を得たい森山氏と、地元で隠然たる力を持つ森山氏を使って原発事業を円滑に進めたい関電。そこにあったのはある種の共犯関係である

 ▼その結果が30年以上にわたる森山氏と関電の異常な癒着だった。水をも漏らさぬ鉄壁の秘密主義は犯罪集団も顔負けだろう。この間に金品を受け取った役職員は75人で、総額は3億6000万円にも上るという。ただ報告書には、受け取りを断ったときの森山氏のどう喝や嫌がらせがひどく、自身と家族への危害や事業妨害など現実の恐怖もあったと記されている。耳を疑う内容だ

 ▼とはいえ関電の「事なかれ主義」が森山氏を増長させたのも事実。経済産業省はきのう、関電に電気事業法に基づく業務改善命令を出した。再発防止や企業統治の強化を求めるという。共犯関係による結束などいつまでも続くものではない。


IoTに潜む危険

2020年03月14日 09時00分

 エレベーターに乗っていて、最上階まで上った辺りで「もし今ワイヤーが切れたら…」と心配になったことはないだろうか。実際は多重安全装置があるため下まで落ちることはない。仕組みが見えないゆえの不安だろう

 ▼米ミステリー作家ジェフリー・ディーヴァーの『スティール・キス』(文藝春秋)では、冒頭で通行人がエスカレーターに巻き込まれて死亡する。こちらも普段何気なく使っている機械だけに怖い。勝手に動くはずのない上部の点検口が突然開き、落ちて歯車に押しつぶされたのだった。サンダルが挟まったり、不規則な速度変化で乗客がなぎ倒されたりといったケースは現実でもたまに聞く。ただ、死亡事故はまれである

 ▼それが横浜市の商業施設で発生したという。12日、エスカレーターの点検作業をしていた男性が足から腹部までを巻き込まれて死亡したそうだ。この作業員は機械を停止させ、一人で作業していたことが分かっている。まだ不明だが何らかの原因で急に動き出したらしい。実は先の小説では、IoT(モノのインターネット)技術を悪用した犯人が制御装置を遠隔操作して点検口を開けていた。同じ手口で家庭用ガスコンロを介しマンションも爆破している。横浜の事故がそうだとは思わないが、これからの世の中、サイバーセキュリティーが一層重要になるのは確かだろう

 ▼金融機関へのハッキングが後を絶たず、イランでは原子力発電所がサイバー攻撃を受ける時代だ。生活が一気に便利になると同時に、仕組みはどんどん見えなくなる。心配がないとは言えない。


マスク高額転売

2020年03月13日 09時00分

 作家浅田次郎さんの人情味あふれる小説にはファンが多い。『地下鉄(メトロ)に乗って』(講談社)もそんな作品の一つである。現代と戦争の時代を行き来しながら物語は進む。小説では闇市が背景として重要な位置を占めていた

 ▼こんな会話が交わされる。「だって愕くじゃありませんか、メリケン粉が一貫目で百三十五円。あたしの給料が六百五十円ですよ」「百三十五円!―なんだか毎日値が上がりますな」。当時、メリケン粉一貫目の公定価格は2円ほどだったというから、なんと67倍以上で取引されていたのである。戦後の極端な物資不足で食料全般が手に入りにくい上、欲しい人も多いため値段がつり上げられていたのだ

 ▼時代だろう、で片付けられないのは昨今の感染防止用マスクを巡る状況を見たからである。ネットのフリーマーケットサイトなどで法外な値段を付けて売られている例を数多く見た。通常なら1箱60枚入り700円ほどの使い捨てマスクが、5箱5万円で販売されていたりする。現代の闇市ここにあり、といった趣だ。新型コロナウイルスの感染拡大は続いているのに店頭ではマスクが手に入りにくい。守銭奴たちはそこに目を付けたわけである。人の弱みにつけ込むあこぎな商売だろう。ただ彼らの横行もここまで。政府は政令を改正し、15日から高値の転売に罰則を科す

 ▼戦後75年たってまだ闇市でもあるまい。客が闇商人に抱く思いは感謝と信頼でなく怒りとあざけりだ。マスク高額転売に手を染めるやからは幾ばくかの利益と引き換えに心も売り渡しているのである。


任期をリセット

2020年03月12日 09時00分

 戦前は寸鉄人を刺すジャーナリストとして健筆を振るい、戦後は国会議員に転身し首相まで務めた石橋湛山は、引き際の鮮やかな人だったという。強い信念があったらしい。こう書き残している

 ▼「急激にはあらず、しかも絶えざる、停滞せざる新陳代謝があって、初めて社会は健全なる発達をする。人は適当の時期に去り行くのも、また一つの意義ある社会奉仕でなければならぬ」(『石橋湛山評論集』岩波文庫)。だからというわけでもあるまいが湛山の首相在任期間はわずか65日。日本の憲政史上では東久邇宮稔彦王の54日、羽田孜の64日に次ぐ3番目の短さだった。そこへいくとこちらの人はそんな湛山の信条などきっとどこ吹く風だろう。ロシアのプーチン大統領である

 ▼2024年に任期切れで退任のはずだったがここにきて続投の目が出てきた。政権与党の議員が10日、憲法改正に合わせ大統領の通算任期をゼロにするよう提案したのだとか。任期をいったんリセットするとはなかなかの荒業である。コンピューターゲームじゃないんだからと言いたくなるが、プーチン氏本人もずいぶんと乗り気らしい。中国も18年に国家主席の任期制限を撤廃し、習近平氏の終身独裁を可能にしている。「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」の言葉もある。権力者はトップの座を譲りたくなくなるもののようだ

 ▼日本も自民党が17年に総裁任期の延長を決めている。党の話とはいえ今後度が過ぎればやはり批判は免れまい。国のリーダーも適度に新陳代謝し、社会の健全な発達を促すのが望ましい。


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