コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 3

ご飯かパンか

2022年06月23日 09時00分

 日本では『ああ無情』の題名で知られるヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル』は、パン一本を盗み投獄された主人公ジャン・バルジャンの数奇な人生を描いた作品だった。飢えて死にそうな姉の子どもたちのために食べ物を手に入れようとしたのである

 ▼舞台はフランス革命から復古王政、民衆蜂起と短期間に何度も社会がひっくり返る激動の時代。身分や貧富の差が完膚なきまでに人々を痛めつけていた。「人はパンのみにて生くるものにあらず」という高貴な精神の大切さを説く有名な言葉もあるが、聖人でもなければ空腹のときにはやはりパンに手が伸びよう。そんな愚にも付かぬ考えが浮かんだのは、航空自衛隊入間基地(埼玉)で20日に起こった出来事を聞いたからである

 ▼食堂での朝食時、ご飯1杯かパン2個かを選ばねばならないところ、両方を手に取った50代の男性1等空尉が停職3日の懲戒処分を受けたそうだ。空尉はご飯を半分にしたためパンも取って問題ないと勘違いしたらしい。パンを盗んで19年服役したジャンほどではないものの、ルール違反とはいえご飯かパンかで停職処分というのもいかがなものか。職務の性質上厳格な規律順守が求められる組織なのだろう。ただ、食事にはもっと自由度があってもよい気がする

 ▼ところで防衛白書を見ると、2021年3月末現在で自衛官の充足率は94.1%。兵卒に当たる「士」階級に限ると80.7%で大幅な定員割れである。こんなニュースが話題になれば「ああ無情」と自衛官募集に応じる若者はますます減るかもしれない。


参院選公示

2022年06月22日 09時00分

過日亡くなった旧国鉄分割民営化の立役者、葛西敬之JR東海名誉会長が雑誌『文藝春秋』(2021年11月号)の対談で現代の政治についてこう語っていた。テーマは「危機のリーダーの条件」である

 ▼「強いリーダーのトップダウン方式は不可能。今は、組織に支えられた中庸なタイプの人物に任せつつ、非連続な改革に備えるしかないのが実情だと思います」。足踏みが延々と続く政治を深く憂えていたようだ。どの政治家も強いリーダーシップを発揮しようとせず、責任も引き受けない。そんな戦時下日本の「無の政治」が再来しているのではと気にしていた。共感する国民は多いのでないか。物価急騰や円安、エネルギー危機、安全保障環境の変化と懸案が山積みなのに、政治家は口だけでほとんど実行しない

 ▼これでは〈オレオレ詐欺〉ならぬ〈ヤルヤル詐欺〉である。国会議員にその辺の自覚はあるのだろうか。この機会にしっかり見極めさせてもらうとしよう。第26回参院選がきょう、公示される。改選定数124(選挙区74、比例代表50)と神奈川の欠員1を合わせた125議席をかけて500人を超える候補者が争う。124議席に370人が立った前回の19年参院選を上回る激戦である

 ▼各党もにわかに活気づいてきた。こんな川柳を思い出す。「選挙家と呼び名変えよう政治家を」竹田カボス(『平成川柳傑作選』毎日新聞出版)。またぞろ勝った負けたと大騒ぎして仕事をしたつもりになり、選挙が終われば「無の政治」に逆戻りするのでないか。今の日本にそんな余裕はないのだが。


食べログの口コミ

2022年06月21日 09時00分

 商品やサービスを押し気味に売るのでなく、自然と売れていく仕組みをつくるのがマーケティングといわれる。それにも流行があり、ひところは〈口コミ〉マーケティングなるものが随分ともてはやされた。広告や宣伝に頼らず、うわさや評判を広げることで顧客を増やす手法である

 ▼よくできた宣伝を見せられると、うまいことばかり言ってと眉に唾を付けることも多いが、親しい人に聞いた話はほとんど疑わない。歌人の俵万智さんにこんな作品があるのをご存じだろう。〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日〉。歌の趣旨は違うものの、人から直接伝えられた情報がどれだけ価値を持つかがよく分かる。そんな人間心理を巧みに利用するのが〈口コミ〉だ

 ▼この手法は形を変えながら今も続く。よく目にするのが飲食店情報サイトの客による店舗評価である。その日本最大級のサイト「食べログ」の評価を巡り東京地裁が16日、独禁法の禁じる優越的地位の乱用に当たると判断した。焼き肉チェーン経営の「韓流村」が損害賠償を求め、食べログを運営する「カカクコム」を訴えていたのである。不当な評価で客が大量に流出し、売り上げが激減したそうだ。評価の算出手法を変更したのが原因らしい

 ▼どの点に重みを付けるかで評価はがらりと変わる。中身は公開されないため「この味はダメねと皆が言ったから」と客足は遠のく。口コミを歪めていると思われるのは食べログにとっても不利。逆にあのサイトは信用できないとの口コミが広がろう。評価は透明にした方がいい。


さんぽセル

2022年06月20日 09時00分

 藤子・F・不二雄さんの漫画『ドラえもん』の中でも名作とうたわれる作品の一つに「おばあちゃんのおもいで」がある。小学生になる前に亡くなったおばあちゃんにもう一度会いたくなったのび太が、タイムマシンで過去へ戻る話だった

 ▼大きくなった自分を見ても誰か分からないからと、のび太は物陰からおばあちゃんを見守る。すると独り言が聞こえたのだ。「あの子が小学生になるまで生きていられたら…」。未来から会いに来たよと出て行きたいが、おかしな子と怪しまれるかもしれない。のび太はどうしたか。意を決してランドセルを背負い、おばあちゃんの前に立ったのである。おばあちゃんはすぐにのび太だと分かった。ランドセルが二人の思いをつないだのだ

 ▼ところで小学生を象徴するそのランドセルが今は子どもたちに苦痛を与えているという。重すぎるのである。ランドセル自体の重さは1㎏ちょっとだが、教科書や勉強道具などを入れると5㎏に迫ることもしばしば。通学も楽ではない。成長にも悪いこの朝夕の苦行をなくしたいと、当の小学生が立ち上がった。栃木県日光市の小学生がアイデアを出し、大学生と協力して、引いて運ぶ〈さんぽセル〉を開発したのである。ランドセルを取り付けるキャリーカートのような仕様だ。使い心地は上々らしい

 ▼ニュースになると大人から「背負って体を鍛えなさい」といった時代遅れの批判も寄せられた。ただ、子どもたちはめげない。首相や文科相にもさんぽセルを寄贈し、問題を共に考えてもらうそうだ。ドラえもんの出る幕はない。


日本版CDC

2022年06月17日 09時00分

 多くの国が感染対策の手本とする米疾病対策センター(CDC)は新型コロナウイルスの初期対応に失敗した。リスクを軽視したのだ。『最悪の予感』(マイケル・ルイス、早川書房)に教えられた

 ▼いち早く危機に気づいた異端の専門家たちの一人が言う。「CDCが火災報知器を鳴らすのを待っていたんです。でもCDCは火災報知器の鳴らし方を知りません。だって、この国には火災報知器がないんですから」。著者の表現を借りると、初期の段階では裏付けとなるデータが十分に集まっていないからと動かず、いざパンデミックという「銃撃戦」が始まると穴に隠れてしまう。最前線で戦う者からすると、CDCは肝心要の緊急時には役に立たない硬直した官僚的組織だったのである

 ▼さて、日本ではどうなるか。岸田首相がおととい、感染症発生時に最新の知見を政策に反映させるため、「日本版CDC」を創設すると表明した。基礎研究と臨床治療を同時に担うエキスパート組織を想定しているという。感染症対策の司令塔機能を強化するため、内閣官房に新設する「内閣感染症危機管理庁」と一体で運用するそうだ。取りあえず立派な看板はできたようだが、「所得倍増」を「資産所得倍増」に掛け替えた首相の姿も見ている。中身を確認するまでは安心できない

 ▼先の本からもう一節引く。「〝疾病対策センター〟ではなく〝疾病観察報告センター〟にすべきです。観察や報告はとても得意なんですから」。口は出すが手は出さず面倒な報告ばかり求める。そんな官僚的組織にはしてほしくない。


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