コラム「透視図」

次の質問どうぞ

2018年12月13日 07時00分

 サラリーマンの悲哀というものがある。職場で達成不可能な成果を求められ、あまりの苦しさに仕事を辞めたいほど追い詰められるのだが妻子の養育を考えると収入を途絶えさせるわけにはいかない

 ▼前に進めずさりとて後ろにも下がれず、もんもんと日々を過ごす。そんな経験、したこともあったなと思い出す人もいよう。心理学ではダブルバインド(二重拘束)と呼ぶらしい。矛盾した状況に置かれることである。河野太郎外相もそのダブルバインドに陥っていたのでないか。おとといの閣議後記者会見で、北方領土問題に関する記者たちの質問に4回連続して「次の質問どうぞ」。黙殺する形で一切回答しようとしなかったのである

 ▼この態度にマスコミや野党からは、これまでの政府方針はどこへ、政府は秘密裏に進めようとしている、誠実でない―などずいぶん批判が出ているようだ。ただ、交渉の中心にいる人物である。板挟みの立場だろう。説明はしたかろうがロシアを刺激しては元も子もなくなる。質問はラブロフ露外相の発言「日本が第2次大戦の結果を認めないと交渉は始められない」に対する河野氏の見解だった。対日強硬派のラブロフ氏のことだ。日本に不用意な発言があれば渡りに船とばかりご破算をもくろむに違いない

 ▼河野氏ももう少し答え方に工夫があればよかったが、最も重要視すべきは交渉の進展で、記者サービスでないのだから仕方がない。難しい使命を課され記者からは集中砲火、同時にロシアの動向も気にせねばならぬ。トリプルバインドである。外相の悲哀だろう。


産業革新投資機構

2018年12月12日 07時00分

 マネジメントの父と呼ばれる経営思想家のピーター・F・ドラッカーは、その集大成とされる著書『マネジメント 基本と原則』(ダイヤモンド社)で組織内のコミュニケーションの難しさについてこんなことを語っていた

 ▼「今日あらゆる組織において最大の関心事となっている。それにもかかわらず、明らかになったことといえば、コミュニケーションは一角獣のように未知のものであるということだけである」。世耕弘成経済産業相は今まさにその難しさを痛感していよう。アベノミクス第3の矢の切り札としてこの9月に発足したばかりの「産業革新投資機構(JIC)」の民間取締役9人全員が10日、経産省の手法に反発して辞任する意志を明らかにしたのである

 ▼JICは成長産業を育成するため有望な企業に資金を供給する官民ファンド。銀行や証券、大学など民間から金融や投資のエキスパートが集められていた。それが発足わずか2カ月でのコミュニケーション崩壊。極めて異例というほかない。どうやら「役人根性」の悪い部分が出たようだ。省が提示し両者で合意した役員の高額報酬を世論の批判が怖いからと後になって撤回。いちいち省の判断を仰がずとも投資を実行できる機動的な運用手法にも文句をつけた。これでは武器なしで世界と戦えというに等しい

 ▼ドラッカーはソクラテスが説いたこの言葉で円滑なコミュニケーションの要点を伝えていた。「大工と話すときは大工の言葉を使え」。投資の国際言語は経産省にとって未知のものだったらしい。役人言葉には堪能なようだが。


海賊版サイト

2018年12月11日 07時00分

 米IT製品大手アップルの創業者スティーブ・ジョブズは数々の名言を残している。「海軍に入るくらいなら、海賊になった方がいい」もその一つ。プロジェクトを実行するために必要な人材を引き抜くとき、放った言葉という

 ▼与えられた業務を型通り繰り返すより、危険はあっても自分の思い通りにかじを取れる仕事の方が面白いとの思いを伝えたものだろう。生涯わが道を突き進んだジョブズらしい発言である。確かに物語の海賊には何者にも縛られない自由の雰囲気が漂う。海賊王を目指して冒険を続ける尾田栄一郎さんの漫画『ワンピース』の主人公「ルフィ」が典型でないか。ただ本物の海賊はファンタジー『ピーターパン』に登場する「フック船長」のように、己の欲望のまま暴力で他人の財産を奪う悪党だ

 ▼どうやら電子の海にそんな悪党が続々と乗り出してきているらしい。最近問題になっているのは、その『ワンピース』のような市販の人気漫画をインターネットで違法配信する海賊版サイト。文化庁がこの手のサイト利用者に2年以下の懲役か200万円以下の罰金を科す方針を固めたそうだ。作品を無料で配信された作者は収入機会を奪われ、創作にも影響が出ているというからもはや座視できない状況だったのだろう

 ▼海賊版サイトとはつまり盗品を横流しする無法者。今は配信を利用する人にさほどの罪の意識はなかろうが、これからは海賊と同罪とみなされお縄を頂戴することになる。ジョブズには申し訳ないが、ここは取り締まる側の海軍にも少々活躍してもらわねばならない。


中国通信大手排除

2018年12月08日 07時00分

 国の府省庁や自衛隊から中国の通信機器大手2社の製品が排除されることになりそうだ。政府が方針を固めたという。「読売新聞」がきのう伝えていた

 ▼2社の機器や半導体には細工が施されている可能性があるのだとか。それによって中国に機密が漏れたり、サイバー攻撃を受けたりする危険があるらしい。米国や豪州では既に排除が進んでおり、英国の諜報機関も警鐘を鳴らしている。日本も歩調を合わせる形だ。折しもカナダでその2社の一方「華為技術」(ファーウェイ)の最高財務責任者の身柄が拘束された。米国の対イラン禁輸措置に違反したとの疑いが持たれている。事実なら国際秩序を乱すもので信用はさらに失われよう

 ▼6日にはソフトバンクで大規模な障害が発生し、日中5時間ほど通信ができなくなった。個人はもとより同社を使う企業や官庁は大混乱。緊急通報にも影響が出た。中国と関係はないが、サイバー攻撃で政府機関のシステムが落ちる怖さを想像させるに十分だったのでないか。2社排除の報でもう一つ気に懸かったのは調達方法についてである。今後、一般競争入札は採用しないそうだ。本紙の読者なら価格の低さだけを判定基準とする一般競争の弊害はよくご存じだろう。安さだけで決めると安全や品質、技術力はないがしろにされがちである

 ▼一国の運営に影響を及ぼしかねない基幹インフラの通信機器がその方法で選定されていたとは。コスト意識が誤った方向に働いたままなのかもしれない。政府が見直すべきは中国の通信機器だけでなく、他にもまだありそうだ。


見える化

2018年12月07日 07時00分

 ビジネスの現場でひところ盛んに活用が呼び掛けられていた手法の一つに仕事の「見える化」がある。取り組んだ経験があるという人も多いのでないか

 ▼隠れていたり気付かなかったりする問題をはっきり見えるよう工夫し、意識に上らせることでいろいろな物事を改善していく仕組みである。例えばミスが発生したときの日時や人、条件を細かく数値化し、傾向を浮かび上がらせることでミスを減らすといった具合。今や業務の中に当たり前のこととして組み込まれつつあるため、ことさら強調されることはなくなった。問題解決に役立つ手法は自然と広がっていくものである

 ▼どうやらこちらの「見える化」もかなり進んでいるようだ。防犯カメラの映像を分析して犯罪事実を把握し、容疑者を特定する捜査のことである。10月末に渋谷でハロウィーンに集まった若者らが軽トラックを横転させた事件で警視庁は5日、関与した4人を暴力行為等処罰法違反容疑で逮捕した。この他11人が書類送検されるという。警視庁は今回、250台の防犯カメラと提供されたスマートフォンの映像から、事件に関与した人物を正確に割り出した。当日、渋谷には4万人を超える人々が集まっていたらしい。目立つ行為とはいえ、かつてなら群衆に紛れて容易には見つからなかったろう

 ▼事件を知り「逃げ得許すまじ」と義憤に駆られた市民の協力もあったに違いない。公共空間での防犯カメラ普及は息苦しい監視社会につながるとの懸念もあるが、要は使い方一つ。事件が「見える化」されない社会の方がよほど心配だ。


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