コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 5

値上げ受け入れ

2022年06月09日 09時00分

 よく言われる言葉に「統計はうそをつく」がある。実際はうそをつきたい人が統計を利用しているにすぎないのだが、数字に強い人は少ないため簡単にだまされてしまう

 ▼サイエンスライター、トム・チヴァース氏らが著書『ニュースの数字をどう読むか』(ちくま新書)で、そのからくりに触れていた。例えば体験談を事実の裏付けとして提示する手法がある。〈このサプリメントで毎日が健康に〉といった類いだ。一個人の感想や意見を多くの人の共通認識だと錯覚させるのである。そもそもサプリの効果は医学的に実証されるべきもので、感想などに意味はない。今どきそんなCMにだまされる人もいなかろうが、マスコミの巧妙な手口には乗せられてしまう人も多いようだ

 ▼日本銀行の黒田東彦総裁が6日の講演で「日本の家計が値上げを受け入れている」と発言したのをマスコミ各社が取り上げ、一斉に攻撃を開始した。生活や経済の感覚が一般庶民とかけ離れている総裁はけしからんというわけである。マスコミが批判の裏付けとしたのは街の声だ。「うちは値上げを受け入れてない」「高給取りには庶民の苦しみが分からない」。講演内容を切り取った上に街の声を国民全体の声のように伝えたのである。これでは最近の経済に対する国民の理解が進まないのも当たり前

 ▼総裁はマクロ経済の話として家計全体の傾向を学術的に解説し、余力がある今のうちに賃上げをと述べたのだ。発言を撤回する必要はなかった。切り取りや統計のうそで国民の現実認識を妨げたマスコミこそ猛省すべきだろう。


はやぶさ2の砂にアミノ酸

2022年06月08日 09時00分

 地球の生命は原始大気に雷の強力なエネルギーが加えられたことで発生した。年配の方々は学校などでそう教えられたのでないか

 ▼科学が好きな子どもだったなら〈ユーリー・ミラーの実験〉も覚えていよう。水やメタン、アンモニア、水素といった原始大気と組成が同じ気体をフラスコに封入し放電と加熱を繰り返す実験である。原初の地球環境を再現したわけだ。結果、生命に必要なアミノ酸の出現が認められた。実験は1953年。生命誕生の謎は解けたと長らく思われてきたが、今は否定されている。研究が進み、原初の環境がミラーの想定と違っていたことが明らかになったのだ。そんな化学的発生説に代わって主流の座を占めたのが、それまではSFの世界と考えられていた地球外起源説だった。宇宙由来のアミノ酸が次々と発見されたためである

 ▼そこにまた一つ、有力な証拠が追加されるようだ。小惑星探査機「はやぶさ2」が昨年持ち帰った砂や石から、数十種類のアミノ酸が検出されたそうだ。小惑星「リュウグウ」には、やはりすごい宝が眠っていたのである。地球外で採取した試料から直接、アミノ酸を検出した例はもちろん世界で初めて。最低でも15種類、細かく分類すると20種類以上のアミノ酸が確認できたそうだ

 ▼リュウグウにあったということは、宇宙には生命の基本物質があまねく存在することを意味している。生命の地球外起源説を超え、宇宙が生命にとって実は豊穣の空間である可能性を示す事実だろう。生命研究の旅はフラスコから宇宙へ飛び出した。興味は尽きない。


北朝鮮がミサイル8発

2022年06月07日 09時00分

 独裁国の特徴は徹底したエリート主義にある。国家指導者の価値観が絶対で、それを信奉する者たちのみがまともに生きる権利を持つ。ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)を率いた20世紀最悪の独裁者、アドルフ・ヒトラーもかつてこう主張していたそうだ

 ▼「エリートの中のさらに強者だけが生き残るのだ。その試練の中でたとえ我が民族が滅びても、私は涙しないだろう。それがその民族の運命なのだから」。ヒトラーは自分の理想通りのドイツにならないなら、滅んでもいいと本気で考えていたらしい。独裁者がどれだけ思い上がっているかが実によく分かる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記も、ますますそちら側への傾斜を強めているようだ

 ▼北朝鮮がおととい、日本海に向けて短距離弾道ミサイル8発を発射した。1日の発射回数としては、これまでで最も多いという。ミサイルや核爆弾といった軍事技術の向上には金に糸目を付けないのに、まん延する深刻な貧困と新型コロナにはお構いなしだ。国連世界食糧計画など複数の機関は数年前から、北朝鮮では数百万人が飢餓状態に陥っていると警告している。人口2500万の国で数百万人が飢餓なら安楽な生活をしている人はほんの一握りだろう。党関係者と軍高官のみでないか

 ▼資源のほとんどを軍事に投入。金正恩氏の思想を信奉し、この試練を乗り越え生き残ったエリートの中の強者だけが、真の北朝鮮民族というわけだ。日本海に向けて発射された8発は、一般の北朝鮮国民をも同じだけ痛め付けている。狂気の沙汰というほかない。


経済財政運営の骨太方針

2022年06月03日 09時00分

 ことわざの「人のふんどしで相撲を取る」は、他の人の力や道具を使って成功したのに、さも自分の手柄のように振る舞う者をやゆするときに使われる。本人に悪気はないのかもしれないが、見ていてあまり気持ちのいいものではない

 ▼約300年続いた江戸幕府の礎を築いた徳川家康はさすがに違ったようだ。作家坂口安吾が小説『二流の人』に、「家康は人の褌を当にして相撲をとらぬ男であった」と書いている。一国を治める立場は同じでも、資質まで同じというわけにはやはりいかないらしい。岸田首相である。政権の掲げる「新しい資本主義」実現に向けた経済財政運営の骨太方針が過日発表されたものの、いつか見た政策ばかりが目に付く

 ▼変化する社会に対応するための就労者100万人学び直し支援が目玉の一つだが、これは2018年、安倍政権で既に閣議決定していたもの。科学技術や脱炭素・デジタル、人への投資など成長4分野への重点投資も、菅政権で進めた4課題の焼き直しでないか。首相就任直後に打ち出した岸田カラーの「令和の所得倍増」も、いつのまにか「資産所得倍増」に変わっている。看板は似ているが倍増が投資頼りになってしまった。しかもその具体策も決めるには年末までかかるのだとか。今のところ岸田首相のふんどしは見当たらない

 ▼安吾の家康評はまだ続く。「奇策縦横の男である故奇策にたよらぬ家康。彼は体当りの男」。ここまでの首相の経済運営を見ると、石橋をたたくだけで渡らない及び腰の男と映る。ご自分のふんどしを締め直してはいかがか。


泊原発集団訴訟判決

2022年06月02日 09時00分

漫才師にはそれぞれ決まった形があるのをご存じだろう。例えば人気コンビ「オードリー」のそれは〈ずれ漫才〉である。ツッコミの若林が普通の話をしていると、ボケの春日が若干ずれた合いの手を挟む

 ▼若林「皆さんもね、年末年始休みがあると思いますがね」、春日「あるわけねえだろ!」―といった具合。意味不明なずれの違和感が面白い。ただ実際に春日のような人がいたら、困惑してしまうかもしれない。札幌地裁が5月31日、近隣住民らが北海道電力泊原子力発電所の運転差し止めを求めた集団訴訟で、1―3号機全ての運転差し止めを命じる判決を下した。一報を聞き、今出す判決としては妙にずれていないか、と違和感を持った人は筆者だけでなかろう

 ▼津波対策が基準に満たないとの理由だが、北電は現在、液状化の懸念を解消するため岩盤に直接設置する防潮堤の計画を進めている。西側の日本海で発生する津波の高さの試算値についても先頃、原子力規制委員会から妥当との評価を受けた。北電『着々とね、津波対策も進めているわけです』、裁判長『ダメじゃねえか』。そんな調子でかみ合わない。手続き上、規制委が認めなければ再稼働できないのは当たり前。裁判所が津波対策を理由に差し止めを命じる意味がない

 ▼裁判長は北電が立証のめどを立てない点にいら立ちを募らせたのでないか。そんな指摘もしていた。北電に甘さがあったのは事実だが、時間がかかるのは規制委の審査手法による部分が大きい。北電、原告共に控訴するそうだ。次は困惑を納得に変えられるといい。


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