コラム「透視図」

福島第1原発の処理水海洋放出へ

2021年04月10日 09時00分

 人は恐怖心にとらわれると判断力が鈍り、間違った行動に走りがちである。身を守るための本能的な反応なのだが、逆に危険を招いてしまう例も少なくない

 ▼医師で衛生学者のハンス・ロスリング氏も著書『ファクトフルネス』(日経BP社)にこう記していた。恐怖本能は「世界を理解するにはまったく役に立たない。恐ろしいが、起きる可能性が低いことに注目しすぎると、本当に危険なことを見逃してしまう」。東京電力福島第1原子力発電所の処理水にもあてはまる指摘だろう。恐怖心にとらわれている人もまだいるのでないか。実際は海洋放出しても環境への影響は無視できるほど小さい。多核種除去装置で適切に浄化できるからである

 ▼成人は常に4000の放射性物質を体に持つが、処理水の運用目標は1㍑当たり1500。大幅に薄めて海に流すため放射線はほぼ検出できない濃度に下がる。安全を検討した第三者委員会も昨年、「影響は自然被ばくと比較して十分に小さい」と結論していた。ただ人々の恐怖は消えず、本当に危険な風評を作り出している。メディアがあおり、風評被害を広げている側面も否めない。ともあれ政府は海洋放出の方針を固めたようだ。13日には決定するらしい

 ▼先日、筆者もオンライン講座で放射線について学び直した。知識はいらぬ恐怖心を拭うのに役立つ。ハンス氏もこう助言していた。危機を感じたときにすべきなのは「オオカミが来たと叫ぶことではなく、データを整理することだ」。科学的に検証された事実こそが、処理水の問題を解決する鍵だ。


消滅可能性都市増える

2021年04月09日 09時00分

 去年は少し縁があり、沼田町に何度か足を運んだ。初めて行ったときにはまず大きなオブジェのような沼田小学校に目を見張った。聞けばアトリエブンクの作品という。本道でも進む小中連携、一貫教育の先駆けとなる一校だそうだ

 ▼子育て支援と移住促進には特に熱心な町なのである。その実力は宝島社が発行する『田舎暮らしの本』の「2021年版 住みたい田舎ベストランキング」で全国総合2位に輝くほど。小さな町だが相当に頑張り、成果も上げている。逆に言うとこれくらい積極的でないと明るい未来は開けないということだろう。危機感をばねにしているのだ

 ▼こんなニュースを見るとそれもうなずける。10―40年の間に20歳から39歳までの女性数が半分以下に減る「消滅可能性都市」が、全市区町村の半分を超える927市区町村に達しているそうだ。日本生産性本部が5日発表した「社会ビジョン委員会報告書」で明らかになった。14年時点では896市区町村だったがじわじわと増えている。同本部は「消滅可能性都市がさらに増加することが危惧される」と警鐘を鳴らす。少子化や都市部への女性流出が続いている上、昨今は新型コロナウイルスの影響で出生数も減っているためだ

 ▼悪い流れを止めるには安心して子どもを産み、子育てをしながらストレスなく働ける環境が不可欠。ただ、どこでも沼田町のように手厚い支援ができるわけではない。国のてこ入れが必要だ。菅首相は教育や福祉を一元化する「こども庁」の創設に意欲を示すが、急がねば可能性は遠からず確定に変わる。


元郵便局長が10億円詐欺

2021年04月08日 09時00分

 映画『ハウルの動く城』(スタジオジブリ、宮崎駿監督)では主人公のソフィーが荒れ地の魔女に魔法をかけられ老婆になってしまう。魔法使いハウルが解こうとするができない。いろいろ試した末にハウルはやっと気付くのである

 ▼単純に見えて実はとても複雑な魔法だったのだ。D・W・ジョーンズの原作から、ハウルがソフィーに掛けた言葉を引く。「だってそうだろう。あんた、自分の力も使ってるんだよ」。ソフィーは自分が役に立たない人間だと思い込んでいたため、自ら〝自分には老婆がふさわしい〟と魔法の効果を高めていたのだった。人が詐欺に遭うときの心理もこれとよく似ている。自分だけはだまされるはずがないとの思い込みが〝うまい話〟への警戒感を弱め、詐欺師に強い力を与えるのだ

 ▼長崎住吉郵便局(長崎市)で2019年まで局長を務めていた60歳代の男性が50人の顧客に有利な資金運用を持ち掛け、10億円をだまし取っていたという。顧客は皆、喜んで預けていたに違いない。「利率の良い特別な貯金をあなたにだけ教える」。元局長はそう勧誘していたそうだ。局長に就いた96年からことし1月まで25年間も続けていたというから驚く

 ▼日本郵政と局長への信頼、得をしたい気持ち、だまされない自信。そんな詐欺師と顧客双方の思惑が複雑に絡み合って成立した魔法だろう。自信がある人ほど危ない。うまい話は聞いてから判断するのでなく、聞く前に拒否するのが鉄則だ。もしかすると他にもおかしな魔法にかかっている人がいるかもしれない。いま一度確かめては。


プーチン大統領の続投

2021年04月07日 09時00分

  ロシアのカムチャツカ半島を舞台にした小説『消失の惑星』(ジュリア・フィリップス、早川書房)を読んで、ソ連時代を長く経験した高齢女性の考え方に少なからず意外の念を覚えた

 ▼女性は外国人労働者が多い現状を嘆き、昔を懐かしんで近所の若い母親にこうぼやくのである。「この集合住宅も、わたしたちみたいなきちんとした人ばかりだったのよ。本物のロシア人だけが住んでいた。国中がそうだったの」。そこまではまだ分かる。高齢者は変化を嫌うものだ。ぼやきはさらに続く。「同じ理想を掲げて団結して、偉大な国家を信頼していた。いまとは全然ちがう時代だったのよ。素晴らしい時代だったんですから」。一党独裁の社会主義国家を絶賛するのである

 ▼これは小説だが、現実にそう思っている人も少なくないのでないか。プーチン大統領が5日、任期を2036年まで延長できる法案に署名した。いくら豪腕で鳴らす氏でも、失われた過去に憧憬を抱く国民がいなければ通せない案件だろう。大統領に就任して既に20年。今68歳だからあと15年となるともはや永世でないか。国民投票の裏付けがあるにしても、民主主義国ではまず見られない光景だろう

 ▼小説の中で姉が妹に象徴的な伝説を語っていた。町が丸ごと波に飲まれる話だ。住民は水の中で息をこらえている。波は町を遠くに運び、はじけた。姉は教える。「波は消えちゃったの。みんな寒くてぶるぶるふるえたけど、自由に動けるようになった」。やっと得た自由に心地の悪さを感じる人がロシアで増えているとしたら危うい。


池江璃花子選手の言葉

2021年04月06日 09時00分

 脚本家の向田邦子さんが「花束」と題するエッセーで、名優森繁久彌さんに触れていた。演技を通じて多くのことを教えられたというのである。中でも一番大きいのは「ことばは音である」との気付きだったそうだ

 ▼向田さんは「馬鹿」のひと言を例に挙げていた。「森繁さんは、その時々のシチュエーションにふさわしく、百通りにも二百通りにも、いろんな人間がいるんだなあ、と書いた人間をびっくりさせる」。同じ「馬鹿」でも深い愛情表現から怒りの爆発まで、誰がどんな場面で言うかによって人に与える印象はまるで違う。森繁さんはそれを自在に演じ分けた。つまり「ことばは音」の意味するところは、言葉は人だということだろう

 ▼「努力は必ず報われる」。そんな使い古されてすり切れた言葉も、この人が言うとがぜん確かな輝きを放つ。競泳女子の池江璃花子選手である。おととい、東京五輪の代表選考会を兼ねた競泳日本選手権の女子100mバタフライで優勝。五輪代表の切符を手にした。競技後の会見で池江さんは「つらくてもしんどくても」に続けて、先の言葉を語ったのである。白血病を公表したのが2019年2月。苦しい治療に耐え抜き、プール練習を再開したのが去年の3月だった

 ▼それからまだ1年しか経っていない。何という努力、精神力か。きっとあの笑顔の裏ではプールほどの涙と汗を流したに違いない。以前、池江さんは「私にとっては、生きていることが奇跡」とも語っていた。五輪で活躍した後にもまた、誰もまねできない言葉をわれわれに聞かせてほしい。


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