コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 300

プレミアムフライデー

2017年02月24日 09時47分

 緊張を強いられる作業や取引をこなし、時には筋の通らぬ要求にも耐えてたどり着いた週末の解放感といったらない。社会人なら誰しもがうなずくことではないか

 ▼明治生命に勤めながら小説や評論を発表していた水上滝太郎はかつて、随筆集『貝殻追放』にこんなことを書いていた。「土曜の夜の酒の味が、平生と違う事を知らない者には、日曜の朝の楽しさは解るまい」。どんな安酒も胸中で高級酒に変わるのだ。週休2日の現在、これは土曜でなく金曜の夜ということになろう。その特別な日を経済の活性化につなげようと、政府と経済界がタッグを組んで「プレミアムフライデー」なるものを始めるそうだ。きょうはその初日である

 ▼経産省によると、趣旨は「日常よりも少し豊かな時間を過ごす」だそう。帰宅時間を少し早め幸せな生活を演出するらしい。ただ設定が毎月末の金曜となれば、出たばかりの給料を多めに使わせようとの狙いは隠しようもない。要は「アベノミクス」第3の矢の一手である。ところで鳴り物入りで登場したこの仕掛け、笛に合わせて踊る人はどれだけいるのか。普通は楽しいから踊るのであって、その逆ではない。景気の良いときには誰に言われずとも毎週末、特に月末の金曜には大いに盛り上がったものだ。いわゆる花の金曜「花金」である

 ▼今回のプレミアムフライデー、意味のよく分からない横文字にしたあたり、いかにも小手先な感じが否めない。でもまあせっかくだ。きょうは酒がプレミアムな味になっているかどうか、確かめてみても悪くはあるまい。


暗殺の目的

2017年02月23日 09時17分

 英国のミステリー作家ミック・ヘロンに、情報部の本流から落ちこぼれたスパイたちの活躍を描く『死んだライオン』(ハヤカワ文庫)がある

 ▼冒頭の舞台は鉄道駅。年老いたスパイが敵をつけていると、故障で停車した列車からホームに乗客が吐き出されてきた。老スパイも人波に流される。誰かの傘やバッグが体にぶつかる。それでも敵を見失わず同じバスに乗ることができた。しかしそこで目の前が暗くなり…。体にぶつかった傘かバッグに毒が仕込まれていたわけ。つまり暗殺である。列車の故障から仕組まれたものだったのだろう。人ごみに紛れて実行することで誰の記憶にも残らないようにし、遅行性の毒によって逃げる時間も稼いだ。こう言っては何だがこれぞプロの仕事である

 ▼それに引き換え北朝鮮の金正男氏がクアラルンプール国際空港で殺害された事件の露骨さはどうしたことか。北朝鮮工作員の仕業と推定されているものの、学芸発表会のようにどうぞ見てくださいといわんばかりである。実行犯の女性2人はほどなく逮捕され、関与した北朝鮮の男たちも次々と特定された。防犯カメラと現地警察の捜査力ゆえかもしれないが、どうも話が簡単すぎないか。スパイ小説なら三流である

 ▼ただ、それは見えているまま、北朝鮮が政権基盤安定のためだけに企てた事件だった場合のこと。たぶんそんな単純な構図ではあるまい。一つ言えるのは、このあからさまな事件が多くの人に北朝鮮への恐怖感を植え付けたということ。心理的なテロをも意図していたとすればかなり厄介である。


厩戸王(聖徳太子)

2017年02月22日 09時16分

 出世魚というのをご存じだろうと思う。よく知られているのは成長するとブリになるハマチあたりか。稚魚から成魚になるまでに大きさや食味が著しく変わる魚を売るとき、混乱しないよう違う名前を付けたのが始まりらしい。江戸時代まで武士は成人して名を変えるのが通例だったから、違和感もなかったようだ

 ▼それと一緒にするなとお叱りを受けそうだが、聖徳太子の名も似たようなところがあるのではないか。聖徳太子の呼称も存命中のものでなく、後の世で付けられた尊称との学説が現在の主流となっているのである。偉大な人物を元の名で呼ぶのは失礼との思いが、当時の人々にはあったのかもしれぬ

 ▼ところで2020年度から実施される小中学校学習指導要領のうち、中学歴史では「聖徳太子」を「厩戸王」に改める案が出ているそうだ。実際には、「厩戸王(聖徳太子)」の表記になるとのこと。一人の人間として存在したことが史料で確認できるのは、厩戸王だけだというのがその理由である。日本に年齢や地位で名前を変える文化があるからこそのややこしさだろう。ただ歴史教育が事実に基づくべきものである以上、新たな史実が出ればその都度変更を加えていくのは当然である

 ▼さて指導要領には載っていないが、聖徳太子といえば「建築の祖」でもある。本紙も先月、道内の「太子講」事情を連載した。建築関係の者にとってブリだのハマチだのはどちらでもいいこと。祖たる大きな存在、聖徳太子を尊崇するのみであろう。きょうはその聖徳太子の命日。いや厩戸王の、か。


作曲家船村徹さん死去

2017年02月21日 09時15分

 豊かな情感と圧倒的な声量にいつも心を震わされている人は少なくないだろう。演歌の大御所サブちゃんこと北島三郎のことである

 ▼道南の知内町出身。本道を代表する歌手だが、若かりしころ、デビューを目指し高校を中退してまで上京したものの芽が出ず、流しをしながら長らく食いつないでいたのは有名な話。生活に追われ希望を失いかけていたとき、才能を見いだしてくれたのが作曲家の船村徹だったという。才能にほれ込んだらとことん面倒を見るのが船村流。単に楽曲を提供されただけでなく、北島さんのように世話になったり恩を受けたりした歌手は相当多かったらしい。訃報を聞いて悲しむ人もそれだけたくさんいたということでないか

 ▼船村さんが先週木曜、84歳で亡くなった。生涯に手掛けた楽曲は5500曲以上に上るそうだ。20歳ころに作曲活動を始めたというから、単純計算で年に80曲は作曲していたことになる。船村さん自身、くめども尽きぬ泉のような才能をお持ちだったのだろう。本道各地を舞台にした数々の名曲で北のロマンを広く内外に発信してくれたことを考えれば、北海道にとっての大恩人でもある。例えば、年末のNHK紅白歌合戦でひところ定番となっていた北島さんの「風雪ながれ旅」や、もともとは北海道の漁師がモチーフだったという鳥羽一郎さんの「兄弟船」。演歌の他にも、明るい曲調で最果ての地の寂しいイメージを塗り替えたダ・カーポの「宗谷岬」がある

 ▼ご冥福を祈り、きょうは北島さんのデビュー曲「なみだ船」でも聴くとしようか。


高梨沙羅WC53勝

2017年02月18日 09時40分

 今も歌い継がれるフォークグループ赤い鳥の名曲に「翼をください」がある。ギター抱えて仲間と歌った人もいれば、学校の合唱コンクールのために練習した人もいよう

 ▼歌い出しはこうだ。「今 私の願いごとが叶うならば 翼がほしい この背中に鳥のように 白い翼つけてください」(1971年)。幅広い年齢層にこれだけ長く愛されているのは、誰もが一度は「翼がほしい」と夢見たことがあるからだろう。この人もたぶん、小さいころから自分の背中に翼が生えるのを夢見ていたのではないか。ノルディックスキー・ジャンプの高梨沙羅選手のことである。どうやら背中に生えてはいないものの、足には目に見える以上の大きな翼が付いているようだ

 ▼おととい、18年平昌冬季五輪プレ大会として同地で開かれていたワールドカップ(W杯)ジャンプ女子個人第18戦で優勝し、W杯男女通算最多記録53勝に並んだのである。今はまだ20歳。W杯の初出場が11年、15歳だったのだから見事というほかない。ジャンプを観戦する上での楽しみはそれぞれあろうが、K点付近で再度揚力をとらえ飛距離を伸ばす場面に興奮させられる人も少なくないのでないか。高梨選手はこの揚力をとらえる能力が際立って高いという。それに必要なのは前傾姿勢の保持。バレエで培ったバランス感覚と柔軟性が生かされているそうだ

 ▼さあW杯次戦は3月12日のノルウェー。54勝の期待もかかるが高梨選手にとっては通過点に過ぎないだろう。「この大空に翼を広げ」、どこまでも記録を伸ばしてもらいたい。


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