コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 331

全国安全週間

2016年07月01日 09時40分

 ▼きょう1日から7日まで第89回「全国安全週間」である。本道はことし走り出しから木造の建築現場で災害が多発した。この週間を機にいま一度、木建の関係者はもとより、建設産業に携わる全ての人が身の回りの危険排除に取り組みたい。「『今だけ・これだけ・少しだけ』わずかな甘えが 命取り」。本紙本年度〈建設安全標語コンクール〉最優秀作である。こうした標語も意識高揚に役立ててほしい。

 ▼35回目の本紙コンクールには、いずれ劣らぬ力作210点が寄せられた。「基本に忠実 基礎は確実 工程手順はしっかりと」。そうそう、基礎の手抜きなどもってのほか。「一人の油断で危険が増える 気を引き締めて安全作業」。一人の注意が仲間全員を救うということだ。「きれいな服装・元気な挨拶 みんなが会社のシンボルマーク」。自分が安全のシンボル。その責任感が事故を遠ざける。「見ざる言わざる聞かざるは 危険を見逃す赤信号」。お尻を向けずに話し合いだ。

 ▼「さあ今日も KYレーダー働かせ 災害ゼロの 明るい職場」。気合とともにスイッチが入るのだろう。感度も優れているに違いない。「運転に 集中すれば 事故は減る 携帯見ずに 前を見ろ」。ながらスマホは想像以上に危険だ。当たり前のことだが大事な指摘である。「つかれてない? 昨日の疲労は事故の元」。体調を管理するのも仕事のうち。良い言葉をしっかり胸に刻んだら、あとはこうでなければ。「安全対策 掲げるだけで安心するな 実行してこそ ゼロ災害」


過酷な介護

2016年06月30日 09時52分

 ▼江戸時代後期の儒学者で史家の頼山陽は母親思いの人だったらしい。「母を送る路上の短歌」にそれが見える。歌の一節に聞き覚えのある人もいよう。本来は漢詩だが読み下し文で紹介する。「五十の児に 七十の母あり 此の福 人間得ること 応に難かるべし」。京都で夏を過ごした母が広島に帰るというので山陽が途中まで送っていく。二人とも元気で旅ができるなんて何と幸せなことかというのだ。

 ▼平均寿命がまだ短かった時代である。70歳にして長旅に耐えられるくらいだから、よほど健康だったに違いない。山陽自身も既に50歳。母親と共に過ごせる日々は掛け替えのないものだったろう。傘寿、米寿、白寿と日本人は昔から長寿をおめでたいこととして祝ってきた。ところが悲しいことに現代はそうとばかり言っていられないようだ。高齢者介護にまつわる胸の痛む事件が相次いでいる。つい先日も望みを失った親子3人が埼玉県の利根川で入水心中した事件の判決があった。

 ▼47歳の娘が殺人罪に問われたのである。74歳の父と一緒に81歳になる認知症の母を介護していたが、病気で生きる気力をなくした父から「3人で死んでくれるか」と頼まれ、心中を決めたという。父母は死亡したが娘は死に切れなかった。判決は懲役4年。セーフティーネットから漏れ、孤立を深めながら過酷な介護に苦しむ家族が今、増えているらしい。長生きをした結果、「ありがとう」でなく「ごめんね」で人生を終わらせねばならないとしたら、その現実のなんとむごいこと。


イエスタデイ

2016年06月29日 09時10分

 ▼英国の伝説的ロックバンド「ザ・ビートルズ」が初来日してから、きょうでちょうど50年になるそうだ。法被を着て飛行機のタラップを降りてくる映像をご記憶の人もいよう。「ラブ・ミー・ドゥ」「レット・イット・ビー」「イエスタデイ」。ファンでなくともいつの間にか多くの曲を覚えている。伝説と呼ばれるゆえんだろう。活動していたのが1960年代の10年ほどだったというのが信じられない。

 ▼日本と同様、英国で当時ビートルズに熱狂した世代も今や中高年である。今回のEUをめぐる国民投票で離脱派が多かったのもその中高年だったそうだ。古き良き英国よ再び、ということらしい。一つの欧州に将来の可能性を見る若者とは好対照だったと聞く。もしかすると中高年の頭の中では「マジカル・ミステリー・ツアー」の曲が鳴り響いていたのかもしれない。下手な訳はお許し願いたいがこんな詞である。「おいでよミステリー・ツアーに/欲しいものは全部ここにあるよ」

 ▼ところが勝ったはずの離脱派の間で早くも失望が広がっているとのこと。あるはずのものが実はなかったのである。離脱を呼び掛けた政治家たちが相次いで前言を翻しているのだとか。例えば「離脱で浮いた負担金を国民保険に」は「言った覚えがない」、「移民を抑制できる」は「ある程度という話だ」という具合。政治家はいずこも同じ。参院選が迫る日本も人ごとでない。ともあれ今、そんな離脱派が口ずさむのはたぶん「イエスタデイ」。「ああ、きのうまでは良かったのに」


仮想発電所

2016年06月28日 09時17分

 ▼バーチャルリアリティ(VR、仮想現実)技術に詳しい同僚に先日、最新機器を体験させてもらったのだが、その臨場感に少なからず圧倒された。大きなスキーゴーグルのような装置を着けて目の前の映像を見ると、自分が別の世界のただ中にいるようなのである。高い所に立てば目がくらむし、物が飛んで来ればよけずにはいられない。頭をぐるりとめぐらすと風景は360度切れ目なくつながっていた。

 ▼そんな仮想現実を体験できるVR装置も安価になり、だいぶ普及してきたらしい。昨今は「仮想」がはやっているようだ。他にも仮想通貨や仮想アイドルといった言葉もよく耳にする。それぞれビットコイン、初音ミクが有名だが、当方のように「かそう」と聞いてまず「仮装」が思い浮かぶ頭ではなかなか理解も追い付かない。ところが最近は「仮想発電所」なるものまで出てきていよいよ戸惑っている。電気は力を発生させる実体的なエネルギー。それがなぜ「仮想」になるのか。

 ▼なんでも電力網上に散在する太陽光や風力発電、蓄電池をIoT(モノのインターネット)で統合し、需要制御とも組み合わせて一つの発電所のように機能させるそうだ。多様な電源で必要な分だけ電気を作り、急に発電量が減れば需要側の使用を抑えるなどして調整するわけ。出力を細かく増減できないのが現在の発電所の悩みだが、この仕組みなら将来は電気も量販店並みの在庫管理を実現できるかもしれない。大きなビジネスチャンスも生まれよう。仮想で終わらなければだが。


英国EU離脱

2016年06月27日 09時04分

 ▼イソップ物語には「ウサギとカメ」や「北風と太陽」などいろいろな話がある。誰もが記憶の引き出しに幾つか話をしまっていよう。その中に「カエルと井戸」はあるだろうか。こんな話である。一緒に暮らす2匹のカエルがいた。暑い夏に沼地が乾いたため新天地を求めて旅に出たそうだ。探し歩いているうち1匹のカエルが深い井戸を見つけた。「冷たくて気持ちよさそう。飛び込んでここに住もうか」

 ▼もう1匹のカエルは少し賢かったらしい。その問い掛けにこう答えたのである。「そんなに慌てるな。もしこの井戸があの沼地のように乾いてしまったらどうやって出るんだ」。行動を起こす前にもう一度熟考すべきことを教えるが、英国は今回、この賢いカエルより1匹目のカエルの考え方を選んだようだ。欧州連合(EU)離脱か残留かをめぐって国を2分する戦いを繰り広げた国民投票は、僅差だが離脱派の勝利で終わった。大方の予想を覆す結果に、驚いた人も多かったろう。

 ▼きのうはポンド売りのあおりを受けて円高が進み、日経平均株価も一時下げ幅が1300円を超えた。ただ最も衝撃を受けているのは当のEUだろう。こうなると先の伊勢志摩サミットで安倍首相が世界経済の現状について語った「リーマンショック前に似ている」の言葉が、何やら予言めいて思い出される。それにしてもこれほど英国内で移民制限と雇用難、反EUの声が強くなっていたとは。英国は重大な岐路に立った。さて飛び込んだ井戸は快適か、それとも乾いた不毛の地か。


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