コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 28

宗教2世

2022年12月13日 19時00分

 米ハーバード大大学院上級研究員のタラ・ウェストーバーさんは少女時代、人里離れたアイダホ州の自宅で世の中から隔離されて育った。一般社会との関わりを拒否し、自給自足で生きるモルモン教原理主義の両親の下に生まれたからである

 ▼家には電気も水道もなく、学校や病院とも無縁。生活の全てが聖書に基づいていた。少しでも神の教えから外れたら、父親はしつけと称してすさまじい暴力を振るったそうだ。自伝『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』(早川書房)に記している。題名通りタラさんは両親を説得し、門戸を開いていたモルモン教の大学へ進む。それから別の大学へ移り、学ぶことで両親の呪縛から逃れたのだった

 ▼宗教に心を奪われ、まともな判断ができない親の下に生まれた子どもの悲劇である。日本でも最近、旧統一教会騒動を発端に、いわゆる「宗教2世」問題が多くの人に知られるようになった。親が宗教にのめり込むあまり、子どもをないがしろにしているのである。そんな子どもを救おうと一つの対策が示された。宗教団体への高額寄付に歯止めをかける被害者救済法が10日、国会で成立したのである。法人などに信者への配慮義務を課し、不安につけ込む寄付勧誘を禁止したのだ

 ▼普通の生活や教育機会を奪われた子どもが寄付を返還請求できるのも前進だろう。ただ、2世問題の本質は、知らぬ間に思想を植え付けられる精神的虐待ともいえる状況にある。タラさんは今もいわれのない罪悪感に苦しめられるときがあるという。そこまでは法も手が届かない。


日本も情報戦対策強化へ

2022年12月13日 09時00分

 ロシアのウクライナ侵略以降、日本でも戦争という言葉を耳にする機会が増えた。衝撃的な映像も現地から連日伝えられている。ただ、現代の戦争を正しく理解している日本人は多くないのが現実だろう。強力な武器で攻撃し合うイメージの人が大部分でないか

 ▼ロシア軍事に詳しい小泉悠東大専任講師は近著『ウクライナ戦争』(ちくま新書)で、今次の戦争は古い形だが「新型戦争」の側面もあると分析していた。ロシアの軍事理論で新型戦争は「最も恥ずべき手段」を使って敵を打ち破る方法だという。その手段とは敵国の反体制派を操ったり、メディアやインターネットで偽情報を流したりして内部から崩壊させること。情報操作が戦局を大きく左右するのが今の戦争なのである

 ▼日本も対策の強化に乗り出すらしい。AI(人工知能)を活用した公開情報の収集分析や、フェイクニュースによる情報戦に対抗する体制の構築を進めるそうだ。近く改定する「国家安全保障戦略」など安保3文書に盛り込む。これに関して面白いといっては不謹慎だが興味深い報道があった。共同通信が同じ〝ネタ〟を、防衛省がAIとSNSを使い「国内世論を誘導する工作の研究に着手した」と伝えたのである

 ▼偽情報による国民の分断と内部崩壊を未然に防ぐのが政府の意図。共同はそれを、政府に都合いいよう世論を操作しようとするものだと逆に捉えたのだった。記事で「特定国への敵対心を醸成」とまで断言したのだから穏やかでない。防衛省は即座にこの報道をフェイクだと否定した。早くも一仕事である。


クレームで公園閉鎖

2022年12月09日 09時00分

 藤子・F・不二雄さんの人気漫画『ドラえもん』には独特な個性を持った脇役がよく登場する。昭和の頑固親父を煮詰めて作ったようなおじいさん「神成(かみなり)」さんもその一人だろう。のび太たちがいつも遊ぶ空き地の隣に住んでいる人物である

 ▼野球をしているとたまに神成さんの家にボールが飛び込み、大事にしている盆栽を壊してしまう。そうなるとさあ大変。烈火のごとく怒りもう手が付けられない。とはいえ丹精込めて育てた盆栽が壊されたのでは、大きな声が出るのも当たり前。神成さんは異様なくらい激烈に怒る一方で、正直に謝りに来れば許してあげる寛容さも持ち合わせていた。根は優しい人なのに違いない

 ▼こちらの令和のおじいさんはどうだったのか。いささか考えさせられる出来事である。長野市内の公園「青木島遊園地」が、近所に住む一人の男性のクレームで今月から閉鎖されることに決まったそうだ。市には「子どもの声がうるさい」と再三、苦情が伝えられていたらしい。報道によると公園の周りには小学校や学童保育施設もあり、安心して遊ばせられる環境だったという。2004年に子どもたちの遊ぶ場所がほしいとの住民要望で整備されたのだとか。子どもが大勢集まれば騒がしくもなる

 ▼市は入り口を変えるなど工夫をし、男性と話し合いを重ねたもののらちが明かず、ついにさじを投げた。無理が通れば道理が引っ込むで、高齢者の苦情は通っても子どもの声なき声は聴かれないまま。現代の縮図である。昭和の神成さんならこうはならなかったのでないか。


敵基地反撃能力保有

2022年12月07日 09時00分

 進化の末にたどり着いた動物の形態には驚かされるものが多い。ハリネズミなどもその典型例の一つである。どんな自然淘汰(とうた)を経たら、敵に襲われたときには毛を針にして身を守る不思議な能力を獲得できるのか

 ▼そのかわいらしい風貌から近年はペットとしても人気だそうだが、元来は敏感で臆病な性格。なつくまでは毛を針にして身を守ろうとし、飼い主にしばしば痛い思いをさせることもあるようだ。ただ、年配の方々がハリネズミと聞いてすぐ思い浮かべるのは、ペットでなく「ハリネズミ防衛論」の方だろう。専守防衛を国是とする日本の立場を説明するため、1970年代からしばらく盛んに使われた言葉である。最近ではほとんど耳にすることもなくなった

 ▼今度はいよいよ実態としても、ハリネズミにはご退席願う形になりそうだ。自民、公明両党が2日、実務者協議を開き、国家安全保障戦略に敵ミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有を盛り込む方針で合意したのである。専守防衛は維持しながらも、日本への攻撃が確実に実行されると分かった場合は先手を打つ。軍事的混迷が深まる世界では、針を立てて丸まっているだけでは自国を守れないというわけだ。隣にバナナのたたき売りさながら、ミサイルを乱発射する国がいてはなおさらである

 ▼岸田首相は2027年度に、防衛費を国内総生産(GDP)比2%とする方針も固めたという。ようやく世界標準に近付く。いきなりトラになる必要はないが、激動する世界に合わせて進化しなければ淘汰は避けられない。


保育士逮捕

2022年12月06日 09時00分

 子どもが生まれたことを喜ぶ歌は世の中にたくさんある。名曲も多いが、夏川りみの『童神』(古謝美佐子作詞、佐原一哉作曲)もその一つだろう。りみさんの真情こもった歌声を聴くといつも胸が熱くなる

 ▼後半にこんな一節があった。「泣くなよーや ヘイヨー ヘイヨー 月の光浴びて ゆういりよーや ヘイヨー ヘイヨー 健やかに 眠れ 嵐吹きすさむ 渡るこの浮世 母の祈り込め 永遠の花咲かそ」。「天からの恵み」を受けて生まれてきたわが子に対する、深い愛情と慈しみの心が歌われている。子どもの健やかな成長を願う気持ちは、どの親も変わらない。そんな親の気持ちを踏みにじる子どもへの暴行が、信頼して預けていた保育園で行われていたとはどういうことか

 ▼静岡県警が4日、裾野市の認可保育園〈さくら保育園〉で以前保育士をしていたいずれも30歳代の女性3人を逮捕した。当時担当していた1歳児クラスの園児に対し、日常的に虐待行為を繰り返していた疑いがあるという。虐待の中身がすさまじい。足をつかんで宙づり、怒鳴りつけて頬をつねる、真っ暗な排せつ室に放置、カッターナイフで脅す―と耳を疑うことばかり。内部通報者の告発で発覚したものの、園長は外部に情報が漏れないようスタッフに誓約書を強制するなど隠蔽(いんぺい)工作をしていたそうだ。この園長にしてこの保育士あり、か。園長はきのう、市に刑事告発された

 ▼保育園は浮世の厳しい事情で親が子を見られないときの強い味方である。母の祈りを無視するようでは保育士は務まるまい。


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